第5話

 俺と桜音は店を出た後、次にどこに行くか話し合っていた。

「次は宿と服屋、どっちに行く?」

「う~ん…私的には明日服屋に行きたいかな。今は時間的に夕方だし、今日は色々あったでしょ?それなら今日はもう休んで、元気な状態で服を見たいな~」


言われて街の時計を見ると、針は5時を差していた。


「あ、もうこんな時間だったのか。街の宿屋の場所はアホに聞いたし、その宿屋に行くか!」「うん!ちなみにその宿の名前は?」

「えーっと…」


 俺は宿の名前を調べながら歩く。


「『月夜の風精霊』…?」


 調べ終わったら着いていた。検索じゃなくて地図マップの方が良かった気がする…そんなことは後にして、取り敢えず宿に入る。受付には自分達と変わらない程の女の子が立っていた。


「ようこそ、『月夜の風精霊』へ。この宿に何泊していきますか?それとも、食堂としてご利用ですか?」

「宿泊は1か月で、食堂もお願いできますか?」

「では、宿泊は1か月で、この後食堂もご利用なさるということで宜しいですか?それでは一人一泊450ロジです。部屋はシングル2部屋ですね」

「あ!部屋は一緒で良いです!!」

「!?」

「いや、恋人だから当然でしょう?」


 ビックリした。まさか初めての宿で、もう一緒の部屋なのか!?恋人なら当然なのか?


「あ、ちなみに同室なら、お値段は3分の2の値段に出来ますが…」

「よし!それでお願いします!」

「分かりました。18000ロジです」

「あ、はい」


 それで良いのなら良いのだろう。俺だって男なのだから、一緒がOKなら嬉しい限りだ。よし、それで良い。考えなんて何でも良いんだ!俺は自分を洗脳に近い状態にしたが、問題さえ起きなきゃ大丈夫だ。取り敢えず俺達はお金を渡して鍵を受け取り、部屋に向かった。


「お二人のお部屋はこちらの部屋です。」

「おぉ…!」


 この世界に来てから見てきた文明のレベルからして、色んなことにあまり期待していなかったが、案内された部屋は大手ホテル程の広さで、ベッド式。そして、部屋にはトイレと風呂も付いており、それも別々だった。仕様の方も、どちらも手作業で流すのではなく、元の世界と同じのタイプだった。


「うわぁ!孝君、この世界って凄いんじゃない⁉」

「うん、確かに凄い…」

「えー…それだけなの~?」

「あ、なんかごめん…」

「ふーん…まぁ良いや!」


 確かに俺は「凄い」とだけ発したが、その「凄い」は普通よりもっと深い意味だ。最初の城の時点で兵士の武器等を見て、中世ヨーロッパと同じぐらいの文明だと思っていたが、この街に入ってからは少し違った。正直に言って、この世界とは思えない文明レベルだ…。よく考えて見ると、街の人間の服等もそうだ。街に入ってから見た、THE・異世界っていうような服は昔の服装の方がやりやすそうな冒険者の防具一式ぐらいだ。この世界の文明は少し遅れてるように見えて、工業などは平行世界の俺とかの世界と同レベルの可能性が出てきた。どうやってそうなったかは少し理解できる。異世界人だ。陽仁達が来ていた時点で、異世界人が平行世界へ渡れることの証明が出来ている。それに自分達が最初の転移者の可能性なんて普通に考えれば、極めて低いだろうし、銃火器が出回ってない所も見ると、現代の洋式トイレなんて異世界人以外じゃあり得ないだろう。異世界人に関しては、自分の世界線かはどうでも良い。取り敢えず腹が減ったな。俺はこの少女にご飯がすぐ食べられるかを聞いた。


「えーっと…あの、夕飯てもう食べれたりします?」

「普通にご利用できますよ。ただし、出されるメニューには限りがございますので、ご注意下さい」

「ありがとうございます…あ。今更なんですが、お名前お伺いしても…」


 俺が名前を聞こうとすると、宿屋の彼女がピクリと身体を震わせた。もしかして、あかんやつ?出来るだけ真顔にしてたのだが、気に障ってしまったのだろうか?


「あ、あの~…」

「…です」

「ゑ?」

「…しぶりです…!」

「あの、なんて…」

「名前聞いてくれる人なんて、久しぶりです…‼」

「うわっ!」


 黙っていたと思えば彼女は急に飛び付いてきたではないか‼そのタイミングで後ろに殺意のある圧が掛かっているのを感じたのですぐに降りてもらうことにした。


「あの、彼女がいるので降りてもらえませんか…」

「あ///」

「…」


 彼女は我に帰ったようで、顔を赤らめながら俺から離れた。なんだろう…先生を「お母さん」と呼んだときの子を見ているようだ。つまり、目の保養だ。ん?痛いっす桜音さん…ちょっと、爪先で俺の踵削らないでもろて。試しに後ろを向くと、ほっぺたを膨らませて涙目になっている、桜音さんがいるではありませんか。これはこれで良いと感じてしまうが、駄目だ。取り敢えず頭撫でたら止めてくれた。優しいな俺の彼女…!。そんなことをしていると、宿屋の子が「んん”っ」と咳払いをした。流石にイチャつき過ぎたか。元の態勢に戻る。

「…では参りましょうか」

「お願いします…」

「…」


 なんか空気が重く感じる。桜音が怒っているなら何となく分かる。でもどちらも怒っているのは正直に言って、意味が分からない。俺は空気になるのが正解なのかもしれんが、もし空気になったら死が確定しそうで怖い。正解だと思った。気が付けば、俺達は食堂に着いていた。


「良かったら夕飯を一緒に食べても良い…?」


 少し驚きながら桜音の方を見ると、……無表情…感情も何もないような顔。この桜音は元の世界でも見たことある。桜音が、何も思うところのない者へ向ける怒りの表情だ。この顔で詰められた俺の友人が気絶することもあった…あ、俺に気づいて表情戻った。何だろう…お互い初めての恋人だからか?俺も桜音もヤンデレ気質がある気がする…まぁ、いっか!俺には断る理由もなかったのすぐにOKした。桜音も何とかOKを出したので、受付ちゃん(仮)に連れられ四人席に座った。注文を終えると直ぐ様会話が始まった。


「さっきは名乗れなかったから、自己紹介をさせてもらいますね。私はアロナ。この『月夜の風精霊』の店主の娘です」

「俺は田中 孝。一応冒険者で格闘家だ。んで、こっちは…」

の天宮 桜音よ。よろしくね…ア・ロ・ナ」

「フフッ。よろしくね、オト」


 ヒエッ…!やっぱり不気味なオーラを両方出してるだけど⁉周囲の人たち怖がってるよ…もう、一回死んだ人みたいな感情だよ。これ‼俺は二人のオーラを沈ませるために話題を出すことにした。


「そ、そういえば!何であんなこと言ってたのー。俺!、知りたいなー‼…」


 頼むっ‼…効果が有ってくれ‼…


「あ、それ聞きます?知りたいなら話しますけど…」


 効いたー‼良かった…内心ほっとしながら、俺達はアロナが泣いた理由を聞くことにした。


 どうやらこの街に、一般国民を家畜とでも思っている他の所の領主がよく来るらしい。中でも、この宿屋は領主の護衛が泊まることが多いらしく、護衛達が半ば荒らし屋状態で後にするらしい…


「そんな状態じゃ、トップとして無能としか言えないわね。国民がいるからこその国であるのに、その国民を蔑ろにするとか…最っ低よ!なぜ領主は何もしていないの⁉」


「何もできないのだよ…」


 急に料理を運んできた40代程の男がそう言った。誰だ?この街の内政の関係者か?その男に問う前に正体が分かってしまった。


「あ、注文の料理お待ちどうさま…」

「叔父さん⁉公務はどうしたの⁉」

「「叔父さん?」」

「いやぁ…公務ばっかじゃ息苦しくてさ!」

「領主がそんなこと言ってどうするの‼」

「「え?」」


 え…領主って、あの領主?街で一番偉い?あ、桜音の方は固まった。といっても、俺も硬直してるのだが。そんな俺達を見てアロナは「あ……」とだけ発し、錆びたロボットのようにこちらへ向きを変えた。


「えーっと…この人は」

「私はアロナの叔父で、ケルゾニア領主兼サピエンティア王国子爵、ドーン・ケルゾニアだ。よろしく、タカシ」


 ん?つまり、アロナは貴族家の血筋ってことか。一般人にしては言葉遣いも良かったし…まぁあり得るとは思う話だな。……それにしてもおかしい…何故かこの男からは圧を全く感じない。人の醜さから来る圧や優しさのある圧など様々な人としての圧を見れるようになったが…正直、赤子でも大体は圧を持っているし、そう簡単に無くせるものでもない。俺が圧を感じる力を身につけてから、大人で持たない人間はこれで三人目だ。慎重にいかなければ…


「ところで、アロナ。この街に大型ルーキーが現れたっていうのは聞いたか?」

「あぁ、あれね。凄いよ、あのレベルの化け物をいっぱい狩れるとか。」

「君たちは、知ってるかい?」


 やばい。確実に俺達のことだ…ギルドの奴等のせいだろ、これ。てか、こっち見てね?あのおっさん、ガン見してきてるよ。さっきの事といい、なんかこのおっさん恐ろしいし、一度空気になるのが策だろう。俺は夕飯を急ぎで食べて、その場から違和感を出さずに立ち去ろうとした。が、このおっさんは逃がしてくれなそうだ。


「君たちだよね?新人って」

「…なんのことですか?」

「下手に誤魔化さなくて良いから~。あのギルドのアホから報告来てるし。この世界にしては服装の技術がおかしい、タカシとオトという新人がでてきた、と」


 ドーンがどんどん近づいてくる。駄洒落ではないぞ。……うん…面倒事に巻き込まれする気しかしないんだが。やだよ、そんな異世界もの展開。


「すまんがあることをやってもらいたいんだが」

「…少しお時かn「分かりました」


 あ、オワタ。って自分でフラグ回収しちゃったし、桜音が勝手に答え出しちゃうし。でも指名依頼は断れないのと同じらしいし、目をつけられたら運の尽きだ。桜音の返事を聞いたドーンは悪い笑みを浮かべていた。


「そうか!なら明日、領主館へ来なさい。報酬はしっかり用意する」

「は、はぁ…」

「なんか…すいません……」


 アロナは申し訳なさそうに謝ってる。身内の尻拭いをしているようだ。起きたことは受け止めるが、もう色々と無理だし部屋戻るか。そう思い、俺達は部屋に戻った。部屋に着き、ベッドにしばらく寝転んでいると、桜音が風呂から上がってきた。え、色っぽい。普段から可愛いが、風呂に入ると、いつも以上に磨きがかかってるように見えた。おっと…これから話があるのこんなんじゃ駄目だ。俺は桜音を自分の方に呼び、隣に座らせた。


「…桜音。何ですぐに返事をしたんだ…少し考えさせてくださいとかで良いだろ。」

「いや、孝君受ける気無かったよね?顔に出るくらい。私としてはこの世界の社会的地位も大事だと思うの。だって私たちは今、勇者から追放された人間なの。その状態がバレれば、損害が出てもおかしくないと思った。それだけよ」


 桜音の言う通りなのかもしれないが、正直まだあの領主は信用できない。必ず裏があるはずだ。だからこそ俺達は明日行くことをもう一度決めた。で1日が終われば良かった。俺は何故か今、彼女に抱き枕みたいにされていた。女の子の匂いがして眠れない。すんごいなにかが当たってるし…手を出したいと言う気持ちはあるが、抑えなきゃ人として終わりだ。

自分のの理性と性欲がキャットファイトしていたら、気付けば夜は明けていた。

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