第4話

 何やらヤバイらしい。結構自重したほうだが、ラノベ基準がまずいのか?桜音もほとんど同じ思考っぽいな。どれぐらいが基準か知りたいが、冒険者達は俺にビビりちらかしてるし、待つしかないのか。そんなこんなで、受付の美人さんが戻ってきた。


「えーっまず、こちらは本物でしたので、クエストの報酬の7000ロジです。どうぞ」

「あ、はい」


 この世界のお金の単位はロジで、1ロジで10円くらいだ。つまり日本円で7万か。だが、それで話は終わらなかった。


「すみませんが、モンスターの素材とかってありますか…?」


 どうしたんだ?まぁ、いっぱい持っているし、正直に出すか。


「ありますね」

「!…ではこちらにお売りしてもらっても宜しいですか?」

「はい。じゃあここに出しますね」


 まだ自分でも扱える可能性があると思った俺は、取り敢えず持ってるうちの6割を出した。ってあれ?また固まってない?


「あ、あの~…大丈夫ですか……?」

「……ハッ!?す、すみません…あまりの量で……少々お待ちください…ッ!」


 受付の美人さんがものすごいスピードで走っていった。この世界の人間って元の世界の人の域余裕で越えていくのか…

あれ、なんか大事にはさっきまでいきり散らかしていた奴がビクビクと震えている。そんなことをしていると、受付嬢の美人さんが図体のでかい男を連れてきた。


「タナカ様、アマミヤ様。少し部屋にお越しいただいても?」

「あ、ハイ」


 俺達は受付嬢の美人さんに付いて行き、他より見た目の豪華な〔ギルマス室〕に入らされ、部屋にあるソファに座り、テーブルを挟んで逆側に相手二人も座った。そこからは殆ど話し合いだった。


「まずは、自己紹介ですね。私は受付兼ギルドマスター補佐担当のアルシノエ・エルノアスです。先ほどはすみませんでした…!本来はギルドとして裁かなければいけなかったのですが…」

「いやいや、むしろすみませんでした…!ついカッとなってしまいました…」

「謝らないでください!こちらが悪いのですから」

「でも…」

「なら、これでチャラにしましょう。これからもお世話になるかもしれないので…ね?」

「有り難いです…これから我々のことは孝や桜音で構いませんので」

「はい!では私のことはルシネで!」


 この感じだと暫くはお世話になりそうだな。そういえばこの爺さんは誰なんだ?


「あ、紹介し忘れてましたね。こちら、冒険者組合ケルゾニア支部・ギルドマスターで、ケルゾニア衛兵司令官の─」

「オルノ・ロディアスだ。宜しくな運だけ小僧」

「あ”?どういう意味だ?」

「だってそうだろう?この辺じゃ弱いが、成り立ての冒険者には無理なモンスター達だぞ?それにクエストレベル間違えたリジッドオルトロスの素材が手に入れるはずないだろ。そんなん不正だ、ふ・せ・い」


 孝、落ち着け。さっきみたいにしたらチャラにしてもらった意味がないんだ。接客バイトで培った営業スマイルだ。


「そ、そうでしょうか?僕は倒せたのですが…」

「ッハァ…どうせその娘の体使って素材貰ったんでしょ?嘘吐かんで良いよ」

「全くしておりませんが?」

「良い良い、見栄張んなくて。認めちゃいな、女の子使ったって」


よーし!あいつは俺へのヘイトだけでなく、桜音のこと道具呼ばわりしたからハンバーグにしよう!その思いで俺が手に力を入れたその時…!


「煽るなアホマス!」ドスッ!

「うっ!」ドサッ…


 俺がやる前にルシネの拳が溝へ入り、オルノは半気絶状態で倒れた。ん?…ルシネは倒れたオルノに馬乗りになり、叩き続ける。


「ギルマスだからって、あなたはいつもいつも人を煽って…その度に私が謝ってなんとかあなたは生きれてますけど…今回は、あなた死にますよ⁉この人、他の冒険者なんて屁でもない強さですよ⁉」ダダダダダ


 ボキッ!。オルノから聞こえちゃまずい音が聞こえたぞ今!よく見ると、オルノは泡を吹いている。うん、止めよう。


「ルシネさんSTOP!もう私も落ち着きましたから‼」

「なら良いのですが…今、ギルマス起こしますね」


 ん?ルシネさん??その右手どうする…って、殴ったあああ!思いっきり顔面右ストレートぉぉぉ!


「…ってぇ!…ってあれ?何したんだっけ」


 起きたぁぁぁぁ‼凄いな、これで起きるの…オルノがまだ納得してないので、取り敢えず6割程威圧を出したら納得した。一旦仕切り直して話を始めた。


「…お前さんはこの素材、何があるか覚えてるか?」

「大体は覚えてますね。基本肉は食ってるので、確かさっき出たリジッドオルトロスの毛皮と骨と爪1匹分、スカイサーペントの鱗に牙7匹分に、エレメントグリズビーの肉以外3匹分、ゴブリン全部15匹分、スピードモンキー全部20匹分、キッキングラビット全部23匹分だったかな?」

「……イカれかな?取り敢えず全部買い取るわ。ルシネ、いくらだ?」

「えーっと、全部品質最高って出てるから…⁉……ほにゃぁぁ…」バタッ…

「ルシネさん‼大丈夫⁉」


 桜音はすぐに倒れたルシネによって声を掛けていた。それが、今日はじめましての相手でも優しくすることのできる…うちの彼女は最高か⁉


「ルシネ⁉おーい!誰か来ぉぉ、い”⁉ま、マジか……」


 ルシネの持つ紙を見て、オルノは顔を歪めた。素材も少しは足しになると思ったが、どうやらそんな次元じゃないらしい。オルノは俺に詰め寄ってきた。


「…すまんが、分割でも良いか?」

「え、そのレベルの額なん…⁉」


 オルノは声にせず、ただコクり、とだけ顔を動かした。まじかぁ…今持ってるの合わせたら暫く遊べるレベルじゃない?…可哀想だし、全部はやめとくか。俺は10までなら良いと伝えた。うん、有り難そうだったよ。取り敢えず分割の1回も受け取り、俺達はギルドを出た。出るときはみんな怖がって近付いてこなかった。そのまま俺達はオルノに教えてもらった穴場の道具屋に向かった。道具屋は意外と普通の店だった。


「らっしゃい」


 店に入ると、そこにはドワーフらしき男店主と綺麗な女性店員がいて、防具や武器等が沢山あった。


「すみません、冒険者の武器を買いに来たんですけど…」

「ほう…お前達、職業は?」

「俺はギルドで格闘家になってますが、魔戦士ですね。あとついでですが、亜空間持ちです」

「なるほど…なら、まずはこれだな」

「これは…?」


 店主に渡されたのは、一見普通の籠手と小具足に見えるが、なぜかそこへと魔力が集まってくる。


「それは、魔甲“カガミ”戦闘の時常時身体強化をすることができ、魔力使用効率も良くする。それだけでなく、魔物でも人間でも、何かが魔法を放つと属性を記憶し、付与できる。だが、“模”による魔法付与の時は急激に魔力を使うから、魔力が多くなくちゃいかんのだよ」

「そんな効果が…」


 正直、驚いた。魔法の属性を記憶し、その力を自らが使えると…。魔力の多いものなら扱いこなせると言うならそれなら俺にピッタリだ。そして何よりこの武具と自分を引き合わすような何かを、俺は感じた。


「次は嬢ちゃんの方だな」

「私は魔導師です」

「魔導師ならこれよ」


 さっきまでなにも言わなかった女性店員が喋ったと思ったら、桜音に苗木の幹のようなものを渡した。


「お前が勝手に渡すな‼」

「こんぐらい良いじゃん店長‼」

「えーっと、これは…?」

「あ、すまんな。それは“進化の魔導杖”といって、持ち主と共に成長する杖だ。一緒に使うことによって、持ち主の扱いやすい杖へと進化する。だが、結構使い込まなきゃ成長しないのが難点だ」


 びっくりした。てっきりボケが始まってるのかと思った。


「てっきりボケてるのかと思いました…」


 うちの彼女、口にしちゃったよ。普通に凄いわ。けど桜音には、確かに俺と同じような、共に過ごしたいという目と、成長を目指す目があった。なら、答えは簡単だ。


「「…この2つ買います!」」

「…そうか。なら、この2つは5割引きにしよう」

「「え⁉良いんですか⁉」」


 俺達は驚いた。普通、こんなに良いものはよっぽど凄い店でも売られない激レアと言っても過言ではないだろうし、元の値段ですら破格なのだろうから。それを両方更に5割引きということは普通あり得ないだろう。だから聞く。


「だって、そんな価格…性能に対して安過ぎますよ‼…もしかして、うちのギルマスに脅されてるんですか?」

「そうじゃない。お前達新人だろう?生物には寿命というものがある。病気や事故、他殺や自殺じゃない場合に生きる時間それが“寿命”だ。事故や病気には回避出来ないものがある。だが、他殺と自殺はどうだ?武器には事故や病気を回避する力はなくとも、他殺や自殺の原因から抗うことができる。だからそれを使って頑張って少しでも生きてくれれば良いんだ。それが俺の考えだ」

「あ、ありがとうございます‼」


 俺達は店主の厚意を受け、2つを買い店を出た。


...

..

.


「…値引きなんて…どうしたんですか、店長。いや、親方…」

「……」

「親方‼」

「…あいつらは多分、別空間から来た人間だ」

「え…まさかぁw………親方がそう思う理由は…?」

「過去に別世界の人間と旅をしたからだ」

「…⁉」

 この男、フェリアル・ドゥ・アスドラジムは、世界最古のドワーフ種、ドラゴ・ドワーフの最後の1人であり、世界のS級技工士の1人。そして、異世界人と旅をしたこともあった。

「俺の会った異世界人もあのような顔だった。『あいつ』に頼まれて、自分と『あいつ』のみぞ知っている新しい魔器技術と共に色んな物を造り出した。だが、『あいつ』が死んで、世界の権力者のクズ共が、「新技術だ」「自分だけ知れば安全だ」とか言って、技術と成果を奪おうとした。『あいつ』が望んだものは何だったんだと今でも思う。だから俺が信用するものは本当にそうだと感じたものだけだ。そして今日、あいつらに出会った。あいつらは『あいつ』程良くないかもしれない…だが、『あいつ』にとても近いものを感じる。きっとあいつと近い誰かを救うことをするのだろう。なら、俺はあいつらを信じる。ただ、それだけだ」

「…その『あいつ』って人はどんな人だったんですか?」


 フェリアルは思い出せるところを全て思い出す。そこには昔の笑っている自分と一緒にいる者の笑った顔が思い浮かんだ。


「─フッ…さあな!」

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