グリム・リーパーと呼ばれる男

くろとら

第1話

元幸森大学。

そんな大学のキャンパスの外れには、古い木造建ての旧校舎と呼ばれる建物が存在した。

この旧校舎はもともと数十年前に沢山の木々を伐採し山奥に建てられたものだった。

そんな旧校舎は山奥に建てられたものと言うこともあり、ごく一般的な学生生活を送っている生徒たちは誰一人旧校舎と言う存在を認識していなかった。

そしてそんな、旧校舎は今はただの廃屋になってしまっていた。


そんな廃屋になっている旧校舎には、昔から女の幽霊が出ると言う噂が存在した。


そんな噂を信じたある生徒はそんな旧校舎を訪れ空き教室になっているはずの教室の中に人影を目撃したり、またある生徒は好奇心で夜中の旧校舎に忍び込み空き教室になっている教室に侵入しその中で「早く逃げて」 「ここに入るな」

「早く出て行け」などと女性の声を聞いたと言うものいた。

だかそんな旧校舎の噂にはまだ続きが存在した。

空き教室になっている教室に忍び込み女性の声を聞いた者はその翌日を境に忽然と姿を消してしまうのだった。





大学のサークルの集まりで終電を逃してしまった葵、美来、和也、達弘の四人は始発の電車の時間までの暇つぶしとして居酒屋で酒を飲み交わしていた。

そして次第に酔いが回ってきたのか四人の話の話題は旧校舎の噂になっていった。


「なぁ、結構いい時間だし旧校舎の噂を確かめに行かねぇ?」


ビールジョッキに注がれているお酒を飲み干した和也がそんなことを言い出した。

美来と達弘の二人は直ぐに和也の意見に賛同したが、葵のみは和也の意見に難色を示していた。

しかし和也の意見に賛同した美来と達弘の二人に言い負かされてしまった葵は渋々だが和也の意見に賛同することになってしまった。

そしてそんな、四人は居酒屋を後にし旧校舎に忍び込むことになった。


四人は旧校舎全体を囲んでいるくたびれた網目状のフェンスを乗り越えて行き、旧校舎の敷地内に侵入して行った。

旧校舎の敷地内に侵入した四人は言い出しっぺである和也の提案により旧校舎を背景にして記念写真を撮影することになった。

まず最初に記念写真を提案した和也が上着のポケットからスマートフォンを取り出して旧校舎を背景にしてシャッターを数回切った。

そして次に和也の意見に唯一難色を示していた葵が和也からスマートフォンを受け取りスマートフォンを構えてシャッターを再び数回切った。


ガサッ!!


葵が数回シャッターを切ったと同時に葵の背後にある草むらの中から何かが動いた音が四人の耳に聞こえてきた。

そんな音を聞いた葵は和也のスマホを握り締めたまま後ろを振り返り和也と達弘の間にいる美来は肩を震わせながら辺りを見渡していた。


「ね・・・ねぇ、今何か聞こえなかった?」


「う・・・うん。今絶対に何か聞こえたよね」


葵と美来が辺りを見渡しながら、達弘と和也の二人にそう尋ねた。葵と美来の話を聞いた二人はお互い耳を済ませて辺りを見渡してみたが聞こえてきた音は風の切る音だけだった。


「風の音を聞き間違えただけじゃねぇのか?」


「そうかもな・・・。ってか、あんだけ和也の意見に賛同してたのにここに来て怖くなったのか?」


和也は耳に手を当てたまま風の音では無いかと言った。

達弘は葵の近くより肩を震わせながら震えている美来を冷やかすように言った。


「こ・・・怖くなんか無いわよ!!た・・・ただビックリしただけよ!!」


達弘に冷やかすように言われた美来は達弘を睨みつけた後自分が先頭になって旧校舎の入り口に向かって歩き出した。

それを見た葵、和也、達弘はお互いに顔を見合わせた後先頭になって歩き続けている美来の背中を追って行った。


「ねぇ、三人ともこの扉鍵が掛かってるみたいで開かないんだけど」


旧校舎の入り口に最初に辿り着いた美来はドアノブをガチャガチャと音を立て回しながら少し遅れて旧校舎の入り口に到着した葵、和也、達弘の三人にそう言った。

すると、達弘が「ちょっと、代われ」と言い美来の代わりにドアノブをガチャガチャと回してみたがドアノブ自体が錆び付いていたため開けることは出来なかった。


「なぁ、ヘアピンとか持ってないか?」


「い・・・一応持ってるけど、何に使うつもり?」


「ちょっとな」


扉が開かないことを確認した達弘は葵と美来にそう尋ねた。

すると美来は鞄の中に入っている化粧ポーチから一個のヘアピンを取り出し達弘に手渡した。

美来からヘアピンを受け取った達弘は自分のスマホのライトをドアノブに近づけヘアピンを細くしドアノブの鍵穴に差し込んだ。


「なぁ、何やってんだ達弘?」


「いいから、見てなって」


達弘が美来のヘアピンを使い錆び付いたドアノブと格闘すること数十分後、ヘアピンを美来に手渡した達弘は立ち上がりドアノブを再びガチャガチャと回してみるとぎぃぃと鈍いを音を立てながら扉が開いた。


「おっ!!達弘。お前すげぇな!!」


達弘の一連の流れを見ていた和也がそう声を上げた。


「まぁ、これぐらいのことなら道具があれば誰にでもできることだよ」


達弘が若干照れながらも得意そうにそう言った。


「んじゃ、達弘のお陰で扉も開いたことだし早速中に入って行こうぜ!!」


「だな!!」


扉が開いたことを確認すると和也と達弘の二人は何一つ躊躇すること無く旧校舎の室内に入って行った。

その場に残された葵と美来は慌てて先に入って行った和也と達弘の二人の後を追って行った。

四人が侵入した旧校舎の室内は窓ガラスが割れたり古くくたびれた壁の隙間から入り込む外の冷たい風が入り込んでいたせいで室内の気温は外よりも数度低くなっていた。

そして勿論電気も繋がっていないため和也は自分のスマホのライト機能を使い辺りを照らしながら歩いていた。


「ね・・・ねぇ、もう戻った方がいいんじゃない?」


「そ・・・そうよ。葵の言う通りよ、今は戻った方がいいって」


お互い手を繋ぎながら歩いている葵と美来の二人がそう和也と達弘の二人にそう言った。


「はぁー。何だよ、ここに来て怖気付いたのか?」


「別にここまで歩いて来ても何も起きなかったんだし別に大丈夫だろ」


葵と美来の前を歩いていた和也と達弘の二人は後ろを振り向きながら同時にそう言った。


「そ・・・そんなこと言っても、怖いものは怖いし」


「そ・・・そうよ!!それに、さっきから何か変な雰囲気を感じるし・・・」


葵と美来は震えながら互いに互いの身体を抱きしめながらそう言った。

和也と達弘の二人は達弘のスマホのライトを頼りに進んで行き、葵と美来の二人は互いに震えながら先を進んでいる二人の背中を追って行った。


そしてしばらくして、四人は歩き続けて行くと旧校舎の最後の教室に辿り着いた。

四人は最後に辿り着いた旧校舎の最後の教室の中に入って行くとこれまで入って行った教室とは明らかに違うところが存在した。

その、明らかに違うところとは一般的な教室にあるはずが無い重量感のある鉄の扉だった。そんな鉄の扉の真上には鉄格子になっている覗き窓が存在し鍵は通常の鍵などではなく金庫とかでよく見るダイヤル式の鍵が掛けられていた。


「なぁ、達弘。さっき見たくこれも開けられねぇか?」


「うーん。無理だなこのタイプの鍵は初めで見たし、仮に見たことがあっても業者とかじゃないと開けることは不可能だわ」


扉のダイヤル式の鍵を見た和也は達弘に旧校舎の扉を開けたみたく開けられないのかと聞いた。

達弘は扉に近寄りダイヤル式の鍵を回しながら確かめた結果開けることは不可能だと言った。


「ってか、この部屋の中には何があるんだ?」


「ちょっと、やめなって!!」


「平気だって、覗いたぐらいで何かあるわけでもないし」


ダイヤル式の鍵が掛けられている扉の中が気になったのか和也が背伸びをして辛うじて見える鉄格子になっている窓から部屋の中を覗き込もうとした。

美来は部屋の中を覗き込もうとしている和也を止めようとするが和也はそれを聞かず部屋の中を覗き込んでしまった。


「お・・・おい、何か見えたか?」


「いや、中が暗くって何も見えない。ちょっと、スマホのライトで中を照らしてみるわ」


達弘にそう尋ねられた和也はポケットからスマホを取り出しスマホのライトを機能を使い部屋の中を照らした。

和也は部屋の中をスマホのライトで照らすと部屋の奥で何かが動いた気配を感じた。

和也はその何かを目で追って行き、部屋の隅で動きを止めた何かを凝視した。

すると和也の目に写ったその何かは誰しもが見たことはあるがこの部屋に絶対に無いはずの人間の目だった。

その人間の目は和也を凝視するとそのまま和也の目の前まで移動した。


『ニゲテ。ココニキテハダメ。』


その目とその声を聞いた和也は大声で悲鳴を上げて後ろに飛びその場で尻もちを着いた。


「お・・・おい!!和也大丈夫か!!」


「だ・・・大丈夫和也君!?」


「な・・・何を見たの一体!?」


その場で尻もちを着き呼吸を荒くしている和也を見て達弘、美来、葵の三人が駆け寄りそれぞれ和也に声を掛けたが和也は部屋をただ指差すだけで何も口にしなかった。


「い・・・一体、何を見たんだ?」


未だに尻もちを着き呼吸荒くしている和也を葵と美来の二人に任せ達弘は恐る恐る和也が覗き込んでいた鉄格子になっている窓から部屋の中を覗き込んだ。

そして次の瞬間和也同様部屋の中を覗き込んだ達弘も言葉を失ってしまった。

達弘の目には恐らく和也が見たと言う目が写っていた。

葵と和也を介抱していた美来は背後に何かの気配を感じた。そして次の瞬間長い自慢の髪の毛を何かに掴まれたのだった。


何かに髪の毛を掴まれた美来は最初誰かのイタズラだろと思ったが次の瞬間それは無いと理解した。

和也は今何かを見て尻もちを着いているし、達弘は和也が覗き込んていた部屋を覗き込んでいるし、葵は自分の目の前で尻もちを着いている和也を介抱していた。

だとすれば今自分のこの髪の毛を掴んでいるのは一体誰なんだろか・・・。

美来はそう考えたが掴まれている髪の毛を振りほどき後ろを振り返り自分の髪の毛を掴んでいる何かの正体を確かめることは出来なかった。


「あ・・・葵。お願い助けて・・・」


「み・・・美来?どうしたの?」


「お願い。何でもいいから助けて。私の手を引っ張って!!」


「わ・・・分かった」


髪の毛を掴んでいる何かを振りほどくこともできず後ろを振り返り髪の毛を掴んでいる何かを確かめることも出来ない美来は自分の目の前で和也を介抱している葵に手を伸ばし助けを求めた。

美来から助けを求められた葵は美来の必死の形相を見てただ事では無いと感じ自分に向かって伸ばしている手を掴み自分の方向に引っ張った。

葵に引っ張られた美来は自分の髪の毛を掴んでいる何から解放され葵の方向に倒れ込むようになった。


「だ・・・大丈夫、美来!?」


「う・・・うん。葵のお陰で今は大丈夫」


「と・・・取り敢えず、今はここから早く出よう!!達弘君も早く!!」


自分の方に倒れ込み未だに身体を震わせている美来見た葵はこれはただ事では無いと思い未だに鉄格子になっている窓から部屋の中を覗き込んでいる達弘に声を掛け旧校舎から出ようとした。

しかし葵に声を掛けられたのにも関わらず達弘には聞こえていなかったのか達弘はその場から頑として動こうとはしなかった。


「達弘君!!早く!!」


「はっ・・・!!あ・・・あぁ」


葵が再び達弘の名前を呼ぶと達弘は気を取り戻したのか扉の前から離れ未だに尻もちを着いている和也の手を取った。葵は身体を震わせて怯えている美来の手を取った。

葵と達弘の二人はそれぞれ美来と和也の手を取り教室から出て行った。


だがこの時四人は思いもしていなかった。

この出来事がこれから起きる事件の始まりになることを・・・。

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