50話 あま〜〜〜〜〜〜〜い時間

「こ、子供ね……そういえば、タイミング的にもうすぐエリックと結婚することになるから」

「そうですね……うう……私みたいな婢女がエリック様の子供を……」

「ふふ、セーラとソフィアの反応、とても可愛いです」


 子供……私もエリックと結婚すれば、いずれお腹の中にエリックの子供が……


 私がモジモジしていると、マンダネが意味深な表情を浮かべて口を開く。


「私はいっぱいエリックの子供を産みたいです……最低でも10人は」

「ままままマンダネ!?は、はしたないぞ!」

「はしたなくありません!好きな男と結ばれて、子供を作ることは、大きな祝福ですから」

「そ、それは……そうだよね……はしたなくないよね……」

「ソフィアはエリックの子供は何人作りたいですか?」

「……私は、11人」

「な、なんですと!?だったら私は12人です!」

「13人」

「14人!」

「15人!」


 二人がエリックの子供をどれくらい産むのか競り合っていると、セーラは顔を赤らめて、慎ましく言葉を添える。


「そんなにいっぱい産むと、体が持ちません……」


「ああ、」

「うう……」


 まるで鶴の一声のように発せられたセーラの言葉は二人を黙らせた。


「少し落ち着きましょう」

「……そういうセーラはどうだ?」

「そうですね。セーラはまだ言ってませんからね」


 と言って、ソフィアとマンダネはセーラを睨んでくる。


「わ、私は……」

「私は?」

「何人ですか?」





「20人……」






「セーラ!」

「セーラ!」




X X X


「不便なところはありませんか?」

「大丈夫です。お陰様でだいぶよくなりました」

「よかった!」

「……エリック王太子はお優しいですね」

「い、いいえ!前にも言いましたが、当然のことをしただけです」


 僕はエステル女王を支えつつ部屋に入った。エステル女王の体は数日前とは比べ物にならないほどよくなり、皮膚もツルツルで、とても美しい。やはりルビアを産んだ母だけのことはある。


「それじゃ」


 言って、僕は自分の部屋に戻るべく、踵を返した。


 すると、


「待って!」

「?」


 急に大声で呼ばれたので、ちょっと体をびくつかせ、再びエステル女王のほうへ向き直った。


「あの話って本当ですか?」

「あの話?」

「あの男が、他の女に手を出さなかった話……」

「僕が知る限り父上は、母上が死んで以来、他の女性に手を出しておりません」

「そう……わかりました」

「ふふ、頑張って元気になってください!」

「は、はい」

「それじゃ」

「っ!ちょっと!」

「え?」


 今度こそ、部屋に戻れるのかと思いきや、またエステル女王は僕の名前を呼んだ。


「なんでしょうか?」

「……ここでも歩く練習をしたいです。申し訳ございませんが、助けていただけますか?」


 視線を外して、恥ずかしそうに唇を噛み締めるエステル女王。年齢は僕の父上より五つ下だと聞いたが、どう見ても20代後半くらいにしか見えない。


 美女を困らせてはならない。


 もし、ルビアと、け、結婚すれば義理の母になるわけだし……

 

「わかりました!」


 そう言って、僕はベッドに座っているエステル女王の腰に腕を回して


「立ちますよ」

「……うん」

「せい、の」


 そして始まる練習。


 顔をエステル女王に向けると、


 彼女は、僕の匂いを嗅いでいた。


 まるで、昔を懐かしむように。


 お互い口こそ開いてないが、僕たちは、交感している。




X X X



 エステル女王の部屋から出た僕は、自分の部屋に向かった。一人でお茶でもしてから、3人の部屋に遊びに行って、甘々な時間を楽しもう。


 軽い足取りで鼻歌を歌いながら部屋の近くにやってくると、見慣れた女の子がいる。


「ルビア」

「エリック」

 

 煌びやかなドレスを身にまとい、綺麗な姿を出し惜しみせず僕に見せつけているルビアを見て、つい見惚れてしまった。


「ど、どうした?エステル女王陛下なら元気だよ」

「……お母様のことじゃない」

「じゃ、どうしてここに?」


 僕が首を捻って訊ねると、ルビアが両手で自分のドレスの下の部分をぎゅっと握り込み、潤んだ目を向けて


「私、エリックの子供を産みたい。それが、私の存在意義だと思うの……」




「えええええええええええ!?!?!?」



 開いた口が塞がらないとは、まさしくこのことか!?


 昔のエリックが放った言葉によって、ルビアは僕を殺すと決意した。


 『お前は、このオリエント大陸の中でもっとも美しい女だ。だから、僕の子を産め。それこそが、お前のたった一つしかない存在意義だ』


 だけど、


 今は、


 自ら進んで僕の子を産みたいと……


「私は……30人くらい産むから……」

「さ、さんじゅうにん……」



 僕は、ルビアを落ち着かせるのに1時間もかかってしまった。それからまた1時間、

 

「エリック……本当に私、呪われてない?」

「ああ。ルビアは祝福された女の子だよ」

「この熱い感情、感じる資格……私にあるの?」

「飽きるまで感じて良いよ。もし、ルビアにnoを突きつけるものが現れれば、僕の全ての権力を用いて、徹底的にルビア守ってあげる」

「私……守られているのね……」

「うん。守られている。ずっと守ってあげる」

「好き」


 ちゅっ!


 みたいなやりとりを、僕のベッドでした。

 

 そして、昼飯を食べた後


 痺れを切らして僕の部屋にやってきたソフィアと


「エリック……やっぱり私にはエリックが必要だ。エリックがいないと何も成り立たない……」

「ソフィアちゃん、命をかけてネフィリムを倒していた時の姿は、本当に美しくて強かった」

「私は、エリックだけの奴隷剣士だ。エリックは決して自分だけのために権力を振りかざすような男ではない。私がエリックに尽くしたら、エリックは私に愛をくれる。その愛こそが我が国を強くする礎だ」

「好き」

「……私も、好き」


 ちゅっ!


 夕食を済ませてから、マンダネたちの部屋のベッドでマンダネと二人きりで


「エリックを見る度にだんだん心が熱くなります……」

「僕もだよ」

「私は、あなたを信じて、ここまでついてきました。そして気づきました。やっぱりあなたを信じて正解だったと」

「マンダネちゃんはいつも僕が正しい道を歩むことを望んでいた。そんなマンダネちゃんについ甘えたくなっちゃう時もあるけど、これからはずっとマンダネちゃんが幸せになれように尽力する」

「……甘えてもいいですよ。私がいついかなる時もこうやって包み込んであげますから」

「柔らかくて温かい……」


 巨大な二つのマシュマロが僕の顔を覆うが、それ以上に、マンダネの包容力が僕の心を溶かしている。


「マンダネちゃん」

「エリック……」

「好き」

「私は、大好きです」


 ちゅっ!


 

 深夜、寝巻き姿で僕の部屋にやってきたセーラを後ろから抱きしめて


「僕はセーラがいないとダメだ。ずっと僕のそばにいてくれ」

「……私はエリック様の所有物に過ぎません。ですので、お望みなら、いつでも……」

「前にも言ったけど、僕はセーラの自由意志を尊重する。セーラの本音を聞かせて……」

「そんなの……そんなの……エリック様とずっと一緒に過ごしたいに決まっているじゃないですか!この婢女は、ずっとエリック様の味方です……永遠に」

「セーラ」

「……エリック様」


 ちゅっ!



 一線を越えるようなことはしてない。だけど、少し怖くなった。


 今も幸せすぎて死にそうなのに、実際、結婚したら、どれだけの快楽が僕を襲ってくるんだろう……


 だけど、まだ終わったわけじゃない。


 やらなければならないことは山積みだ。

 

 エステル女王が元気になったら、僕、セーラ、ソフィア、マンダネ、ルビア、そしてエステル女王はイラス王国に向かって、オリエント大陸に住む全ての人に向かって平和宣言を発表する、という大事な仕事がまだ残っている。




 

 

追記



結婚後のエリック、大変そう……


 

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