49話 エステル女王、そして3人の女の会話とそれを覗く一人の女

X X X


 一線を超えない程度でお互いの気持ちを確かめ合った僕とルビアは、いそいそと出入り口に堆く積もった石と土の山を取り除いて行った。


 やがて、外から光が差し込んできて、僕たちはこの洞窟から抜け出した。すると、目の前には数え切れないほどのネフィリムの屍がずらりと並んでいて、その真ん中には二人の女の子が立っている。


「ソフィアちゃん……エルゼさん!」

「エリック!ルビアも!」

「ルビア姫殿下……ご無事で何よりです……っ!」

「エルゼ!」


 エルゼさんが途中で苦しい表情をしたまま剣を地面に突き刺してしゃがんだ。その姿を見て心配になったのか、ルビアがエルゼさんに駆け寄る。


「こんなに夥しい量のネフィリムを倒すなんて……あなたにはそれ相応の爵位と領地を与えるわ」

「私は、一方的にソフィア様から助けられました。私にそのような資格はございません。ただ、姫殿下の笑顔が見られてとても嬉しいです。エリック王太子殿と仲直りしたみたいですね」

「……うん。私、エリックと和解したの。もう戦争はしない。私を愛してくれる男の国を攻めることはしないわ」

「ふふ……ルビア姫殿下……私はずっと姫殿下を見てきました。そんな私が断言します」

「断言?」

「今のルビア姫殿下が最もお美しいです。どうかその美しさが末永く続きますように」

「エルゼ……」


 エルゼさんはそう言って、気を失った。


「エルゼ!」

「ルビア、大丈夫だ。エルゼは疲れているだけだ」

「……よかった」


 ソフィアがルビアの肩をさすり落ち着かせる。だが、ソフィアの手は震えていて、エルゼさん同様疲弊しているように見える。


 なので僕は、


「ソフィアちゃん、僕たちのために頑張ってくれてありがとう。その努力と闘志は一生忘れない。全部報いてあげるから……」

「私は……エリックの愛さえあれば、それで十分だ……」

「ソフィアちゃん……」


 と、僕はよろめくソフィアを優しく抱きしめた。ネフィリムを数十体も倒した最強剣士なのに、僕の腕にロックされたソフィアはとたも儚く、美しく、保護欲を掻き立てる。


 甘々な時間を感受した僕たちは、ヘネシス王国へと向かうべく移動を始めた。僕がエルゼさんをおんぶし、ルビアが肩を貸して、ソフィアを支えながら進んで行った。道中、僕はブリンケンさんから得たヘネシス王国をめぐる政治状況を包み隠すことなく全部打ち明け、ソフィアもまた、マンダネとセーラから聞いた情報と自分が持っている情報をルビアに伝えた。


 ヘネシス王国は、ルビアの憎悪を巧みについて、我が国に戦争を仕掛け、ルビアによからぬことをしようとしている。そんなこと、絶対許さない。


 僕の女に手を出そうとする男どもは、昔のエリック以上に暴虐の限りを尽くして、二度と這い上がることができないように潰す。


 とまあ、こんな感じで僕たちは数日かかって王宮に戻った。


 しかし、ヘネシス王国は思っていた以上に、混乱状態だった。


 ブリンケンさん曰く、セーラとマンダネが、この国を乗っ取ろうとする勢力に関わる情報が書いてあるチラシを数千枚、数万枚を国中に流布したという。この世界は印刷技術がないため、手書きが基本だが、ブリンケンさんが開発した活版印刷技術を利用して二人がチラシを大量印刷し、ばら撒いたため、悪い輩に関する情報を知らないものは、もはやいないに等しい。


 なので、平民から貴族に至るまで、ヘネシス王国のアイドル的存在であるルビアを守ろうと、立ち上がって、それに危機感を覚えた悪い連中は、国外逃亡したという。


 ブリンケンさんの冤罪は晴れ、全ての権力を持っているルビアは、彼を宰相に据えた。


 エステル女王は、ルビアが持ってきた命の木の実のカケラによって助かり、一命を取り留めることができた。


 今の僕とルビアはエステル女王の部屋におり、彼女が目を覚ますことを待っている。


「……ん……」

「お母様……」

「……」

「お母様……お母様……お母様!!!」


 目を開けたエステル女王は目をパチパチさせつつ、自分の娘に向かって口を開く。



「ルビア……私の娘……私が最も愛する娘」

「お母様!!!!!!!!」


 ルビアは泣きながらエステル女王に飛び込んできた。まだ病み上がりというのに、エステル女王は、母性愛を放ち、自分の愛娘を抱きしめる。


「エリックが、私を救ってくれました……エリックがネフィリムの王と戦って、命の木の実のカケラを私にくれました……私のために、お母様のために……」

「……そう」

「はい……エリックは、私の全てを受け入れてくれました。ありのままの私を抱きしめてくれました……私は、彼のことが好きです……」

「ルビア……まるで、私の処女だった頃を見ているみたいだね……」


 処女だった頃。おそらく僕の父上と愛を育んでいた時期を指して言っているのだろう。だから、僕は言わなければならない。


 がんじがらめになった関係を解くとっかかりとなりうる根拠をエステル女王に示さなければならない。


「エステル女王陛下」

「あなたは……あの人の息子」

「僕の父上であり、イラス王国の王であるキュロス国王陛下は、償わなければなりません」

「……」

「エステル女王陛下はこの愛くるしいルビアを産んでくれた母です。なので、僕はあなたの幸せを願っております。故に、キュロス国王陛下は責任を取らなければならない」

「……私とルビアの過去を全部知っているような口ぶりですね」

「はい。ネフィリムの洞窟でルビアが教えてくれました」

「っ!キュロスは、あなたに、私たちの過去を教えなかったのですか?」

「はい。父上は、ヘネシス王国の話となると、ずっと悲しい顔をして、何も言いませんでした」

「……わかりました。この体が回復したら、イラス王国に赴いて、あの人に本音を聞いてみます。もし、彼がガイアを裏切り嘘をついたなら、それ相応の罰を受けなければなりません」

「……それで構いません。エステル女王陛下の言い分はごもっともです」

「……エリック王太子」

「は、はい」




「ルビアを救ってくれて、本当にありがとうございます……」


「僕こそ、ルビアを産んでくれて、本当にありがとうございます」



X X X



 ルビアside


 数日たった朝。


 エリックは私の全てを変えた。憎悪という霧は完全に取り払われ、彼の愛を追い求めるようになった。


 ちなみに、お母様はリハビリ中である。エリックは「僕がエステル女王陛下のリハビリを助けます!」とか言って、お母様に付き添って、歩く練習をする際に体を支えたり、散歩にも同行している。


 メイドや使用人にやらせるのが普通だが、エリックはもっと私のお母様と話がしたいと言って、下の者がするはずの役を買って出た。


 あのエリックが……私のお母様に……あまりにも嬉しくて頬が緩んでしまう。私の心を支配している男が……恥ずかしい私の過去を知る男が、私の体を獣のように欲するのではなく、私の大切な存在の世話をしている。


 体が熱くなった。


「……起きよう」


 と、朝ごはんを食べ、セーラたちのいる部屋に行くことにした。ちなみに、セーラはもう私のメイドではなくなった。セーラに爵位を与えようとしたが、彼女は断固拒否し、自分は平民メイドであり続けると私に伝えた。なので、私は、彼女を国賓扱いすることにした。


「……」

 

 セーラとソフィアとマンダネがいる部屋。


 ノックをして、入ればいいのに、なかなか動くことができずにいる自分が嘆かわしい。


 はあ〜とため息をつくと、ドアの隙間から3人の声が聞こえてくる。


「ソフィア!セーラ!そろそろですね!ふふ」

「ああ、キュロス国王陛下とエステル女王陛下が仲直りして、二方とも幸せになれば申し分なしだけどな」

「辛いこともいっぱいありましたけど、光が見えてきました!ソフィア姫様もマンダネ姫様も本当にお疲れ様でした!」

「セーラも本当に頑張ってくれました!」

「ああ。セーラは素晴らしい。もう立派な王宮メイドだ」

「3人の姫を娶る大王となる男に仕えるメイドとして遜色ないレベルです!」

「まだまだでございます……」


 幸せそうな顔で話し合う3人。すると、急にマンダネが恋する乙女のような表情で二人に問いかけてきた。


「あの……二人に聞きたいことがありますけど」

「なんだ?」

「?」





「二人は、エリックの子供……何人欲しいですか?」




「っ!」


 ええええエリックの子供!?





追記



ははは



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る