46話 ネフィリムとの決闘
さっき見たネフィリムたちとは比べものにならないほど強そうな外観だ。
「ななな……なに、これ」
「ルビア、動くな。下手に挑発なんかしたら、すぐ襲いかかってくるから」
「……」
幸いなことに、ルビアは僕の言葉に聞き従ってくれた。まあ、あの凶暴な生き物を目の当たりにすればみんなああなるかな。
一つ不思議なことは、今までのネフィリムは言葉を話せなかったが、目の前の巨大なネフィリムは、ぎこちなくはあるけど、僕らが聞き取れる言葉で喋っているところ。
二人して断崖の前に立ったまま、ネフィリムを見つめていると、突然話かけてきた。
「人間、なんでここに?」
「……僕は命の木の実のカケラを手に入れるためにここにやってきました」
僕が震える足をなんとか落ち着かせていうと、ネフィリムは目をはたと見開いて再び問うてくる。
「なぜそれが必要なのか」
理由……
「大切な人を守るために、そしてその大切な人が産んでくれた可愛い女の子の笑顔を見るためにそれが必要です!」
「エリック!な、なにを言って……」
そうネフィリムに向かって叫ぶ僕。すると、ネフィリムは動揺する。
「自分のためではなく、他人のために、ここへやってきた……」
「他人……間違った言い方ではありませんけど、二人とも僕にとってとても大切な人たちです」
「それは……愛なのか?」
「愛?」
「大切な人を守りたい……それは愛なのか?」
「それは分かりません……けれど、僕はルビアとエステル女王陛下に幸せになってほしいです」
「見返りは?爵位?お金?権力?」
「そんなの要りません。僕はルビアと仲直りがしたいだけだ」
「そ、それは……間違いなく愛だ……俺がもっとも忌み嫌う感情の一つ……愛はこの世の中においていらない存在」
「え?」
「人間はお互い殺し合い、呪い合い、蹴落とし合ってこそ、本領を発揮する生き物」
「そ、それは違います!」
「なにが違うんだ!?」
「確かに、人間にはそんな醜いところがたくさんあります。けれど、自分を犠牲にすることによって得られる幸せもあります!僕はそれを経験してきました!とてもしんどくて辛かったけど、笑顔を見るたびに、僕のために頑張ってくれるみんなの顔を見るたびに、もっと自分を犠牲にして愛してやりたいという気持ちが迸るんですよ!」
僕が拳を強く握り込み、力説すると、ネフィリムは後退り、首を振りながら大声で叫ぶ。
「あああああああ、ああああああああああ!!!!黙れ黙れ!!!!憎悪こそ人間をもっと美味しくするスパイシーだ!神に叛逆することこそ人間に与えられた
唯一の道だ!!!!!」
「僕はそうは思いません!」
「お前は、必ず死ななければならない男だ。だから全部食べてやる!!ああああああ!」
「っ!」
ネフィリムが手に持っている剣を入り口近辺に投げる。すると、入り口近くの石や土などが崩れてしまい、塞がってしまった。
そして、横にある巨大な剣を拾い、僕に猛烈なスピードで向かう。
「グアアアアアア!」
「っ!ルビア!離れろ!やつの目標は僕だから」
「エリック……なんで……」
「早く!!!」
「わかったわ!」
僕の話を聞いたルビアは、断崖から離れ、目立たない端側へと逃げる。そして僕は、
カン!!!!
「ああああああ!!」
ネフィリムの一撃を剣一本で受け止めきれず、吹き飛ばされてしまった。
「エリック……どうして……」
やっぱり僕はあの巨大なネフィリムの相手にならないほど弱い存在だ。ソフィアだって普通のネフィリムを一人で倒すことができない。ましてや僕なんか……
「……けほ!っ!血が……」
気づけば、僕は血を吐いていた。量はそんなに多くはなかったが、このままだと負けてしまう。
「グアアアアアア!!!!!」
「なに!?」
僕が息を弾ませていると、ネフィリムはすかさずまた僕の方に飛び込んでくる。辛うじて立ち上がった僕はまた剣を握って攻撃を防ぐが、
「あっ!」
また、ものすごい勢いで吹き飛ばされてしまった。剣は弾かれ、体が壁にぶつかった。
「ああ……苦しい……」
「なんで……なんで私とお母様のためにそこまでするの?」
ルビアが遠いところから眺めて呟く。
僕は、ルビアの呟きみたいな問いかけに対して明確な答えを持ち合わせていた。
「ずっと、言ってるだろ?ルビアと仲直りがしたいって」
「……バカ……エリックは本当にバカよ。私はあなたにひどいことをしたのに……昔のエリックを思い出して、好き勝手やったのに……」
「構わないさ。ルビアの笑顔が見られるなら、どんな苦しみも受け入れる」
「……」
「ルビアの周りには、いい人がたくさんいる。エルゼさんも、ブリンケンさんも、そして、ケルツさんも……だからきっと我が国とヘネシス王国は和解できると思うんだ。僕とルビアもきっと……」
「……」
「あ、そういえば、ケルツさん……」
「ケルツ?」
「僕を監視していた若い青年……」
そう言えば、ケルツさんが、別れ際に何かを渡してくれた気がする。それを確認すべく、震える手で、袋の中身を弄ると、
「ロックスリング……」
この袋のところに石を置いて、両紐の先端を押さえて回して放つ武器。今の僕にはこれしか武器がない。おまけに周りには、石がいっぱい転がっている。これにかけてみよう。
なので、僕は拳サイズの石を手に持ち、力を振り絞って立ち上がった。そしてロックスリングの真ん中に設けられた袋みたいなところに石を置いて、両紐の先端を握り、思いっきりそれを回した。
「ぐううう……食べてやる……愛は人間にあってはならない感情……それを広めようとしているお前は……しねええええええええええ!!」
と、本当に僕を殺す勢いで飛び掛かってくる。
チャンスは一回しかない。
ここでしくじったら、僕たち二人ともあの世に行くことになる。
「んばって……エリック……」
ルビアが何か言ったような気がするけど、聞き取れない。今は、目の前にあるネフィリムに意識を集中させよう。
そう自分に言い聞かせてから、僕は片方の紐を離した。
「いけえええええええええ!」
放たれた石はものすごい勢いで飛び、
走ってくるネフィリムの頭を直撃した。
「ヴウウ……アアアアアア!!!」
ネフィリムは均衡が保てず、よろよろしながら、断崖の方で倒れ込んだ。だけど、まだ息が止まったわけなし。早くトドメを刺さないといつか起き上がるかもしれない。
なので、僕は剣を拾い上げ、断崖の方へとひたすら走った。
「はあああああああああああ!!!」
そう叫び、僕はネフィリムの上に乗っかって、剣を頭に突き刺す。
すると、
「ヴエエエエエエエエ!!!!」
轟音と共に、体を痙攣させる巨人。
だが、このネフィリムは予想外のことをした。
「っ!」
爪で、僕の背中を引っ掻いたのだ。
「エリック!!!!」
ルビアが叫び声を上げるが、僕は、体から流れる夥しい量の血を見て、言葉を失った。
そして、
ネフィリムは僕の足を掴んで溶岩が流れる下に飛び込もうとする。
「お前……殺す……愛……なくす……過去の栄華のために」
「やめろ……」
血を大量に流しているため、掠れた声しか出てこない。このまま死んでしまうのか……
と、観念しようとした時、セーラとソフィアとマンダネとルビアの笑顔が脳裏をよぎった。
「やられるものか!!!」
と、僕は力の限りを尽くし、僕を道連れにしようとするネフィリムの手を蹴り上げる。すると、ネフィリムの手は僕の足を離した。
だけど、
時、すでに遅し。
僕は溶岩の中に落ちている。
だけど
無意識のうちに僕は手を伸ばしてみた。
ここで僕を助けてくれる人なんかいるはずがないのに、なぜこんなことをしているんだろう。
まるで、誰かを待っているかのように……
その瞬間、細くて柔らかな手が僕の手首を捉える。
「っ!」
「エリック!」
「ルビア……」
ルビアがそこにいた。
追記
次回は理のカケラさんと、ルビアの過去が出ます
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