45話 洞窟の中へ

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 僕とソフィアは巨人を討伐しながら目的地へと突き進んだ。ソフィア曰く、2人一組でないと、太刀打ちできないとのことだった。


 ネフィリムに襲われたら、ソフィアが真っ先に攻撃を防ぎ、身動きが取れないように足を攻撃し、僕がとどめを刺すという流れで討伐して行った。


 最強剣士でも勝てない。だけど、二人で助け合えば退治することができる。なので、僕たちは戦えば戦うほど、絆がだんだん強くなっていき、夜になれば、シーンと静まり返る森の下で、一線を超えない程度で愛を確かめ合った。


「エリック……私、頑張るから、帰ったら、私を幸せにして……」

「ああ、ソフィアちゃんが僕のために頑張ってくれた努力は必ず報われるはずさ」

「……エリックと一緒なら、私なんだってできる」

「ソフィア……」


 時間が経てば経つほど、危機的状況に瀕すれば瀕するほど、僕たちの愛は、もっと深く、もっと強いものへと変わって行く。日本にいた頃には感じたことがなかったこの気持ち。一生大切にしていきたい。


 そう胸に刻みながら進んでいくと、僕たちは、いよいよ命の木の実のカケラが存在する洞窟へとやってきた。


「やっと、ついた」

「ああ、数日かかったけど、ソフィアちゃんが一緒にいてくれたおかげて辿り着くことができた」

「エリック」

「うん?」

「怖いのか?」

「……正直にいうと、ちょっとは怖いかな。けど、大丈夫。勇気の方が優ってるから」

「ふふ……それでこそ私の男だ」

「行こう」

「ああ」


 と、僕たちが洞窟へと向かおうとした瞬間、後ろから不気味な音を立てる存在が現れた。目をはたと見開いて、後ろを振り向くと、



「な、なんなだ!?この数は!?」

「ざっと数えて二十体ってところか……エリック、剣を抜け」

「……ああ」


 洞窟へ入ろうとする僕たちを狙う二十体あまりのネフィリムたちは、「うううう」とか「がああああ」とか、まるでゾンビのような音を出し、右手に剣を持っている。あと、どれも例外なく赤い髪をし、両手と両足の指が12本ずつで、歯は二重歯列構造である。

 

 これまでは、一つずつ処理して行ったのでなんとか凌げたが、こんなに大勢集まるとなると、かなり危ない。


 僕たちが剣を抜いてネフィリムの群れを警戒していると、突然、あの群れのうち半分が横にある大木に突撃する。


「「ぐうあああああああああ!!!」」


「な、なんだ?なんであんなところにつっこんでいくんだ?」

「……」


 ソフィアに言われたけど僕は返事することができず、横にある大木の方へ視線を送った。


 すると、



「きゃああああ!!」

「姫殿下!」


 剣と剣がぶつかり合う音とともに、聴きなれた声が聞こえてきた。


「ルビア!?」

「なんでルビアがここに!?」

 

 質素なドレスに身を包んでいるが、ピンク色の髪と美しすぎる顔は隠しようがない。


 エルゼさんは剣で10体ほどのネフィリムと戦っていた。というよりかは、攻撃を弾き返して間合いに入らないようにしていた。


「っ!あのバカ!」


 と、ソフィアが顔を顰めてからルビアとエルゼさんのいるところへと走ってゆく。すると、僕らを見ていた残りの10体ほどのネフィリムたちもソフィアを狙いに大木へと向かう。


 要するに、20体あまりのネフィリムの全部がソフィアとルビアとエルゼさんを狙っている。


「ルビアはエリックのところに逃げろ!ここにいたら間違いなく君は死ぬ!」

「え、エリック!?なんで私があんな男なんかと……」

「死にたくなければ、行け!!!!!!!!」

「ルビア姫殿下!ソフィア姫殿下の言葉に従ってください!お願いします!ルビア姫殿下は死なれてはなりません!」

「……わかったわ!」


 そう言って、ルビアは頃合いを見計らって、僕のところへと走ってくる。


「ルビア……」

「エリク……」

「なんでこんな危ないところにきたの?」

「……教えない」

「……」


 ルビアはスッケンドンな態度で言ってから目をふいっとそらした。だけど、その顔には動揺が見て取れる。


 それよりもあの二人だ。無事なのかと確認すべく視線を飛ばしてみる。


 すると、


「エルゼ!このネフィリムはとても動きが早くて強い。だから、別行動で戦うと私たちは必ず負けてしまう!」

「私は最強剣士であるソフィア姫殿下の命令に従います」

「連携が大事だ。ネフィリムの足を重点的に狙え!倒れ込んだら、二人で仕留める!あとは君の腕に任せるとしよう!」

「かしこまりました!ソフィア姫殿下と一緒に敵と戦うなんて……光栄でございます」


 と、会話を交わしていると、突然ソフィアが何かに思い付いたのか、僕に向かって大声で言ってくる。


「エリック!ルビアと洞窟の中に入って、命の木の実のカケラを探すんだ!」

「……わかった!ルビア!早く!」

「……」


 だが、ルビアは、唇を震わせて、僕の言葉に反応しない。怖気ついたのか、それとも、僕を信用できないのか。おそらく両方だろう。


 時間がない。今は二人があの大量のネフィリムの群れを引きつけているおかげでなんとか持ち堪えているが、もし一体でもこっちにやってきたら、大惨事だ。だから、仕方あるまい。


「ルビア!ごめん!」

「え、え!?」


 僕はルビアの手を強く握って走って洞窟の中へと入っていった。


 洞窟の中は、意外と明るかった。なぜ明るいのか、僕は確認がしたかったので、奥まで入っていくと


「(ルビア)暑い……」

「(エリック)これは……溶岩?」

 

 断崖絶壁の下には溶岩がものすごい熱気を放ちながら流れていた。僕とルビアがボーとなって溶岩をひたすら眺めていると、ルビアが突然僕の手を振り解く。


「っ……ごめん」

「ふ、ふん!」


 正直すごく気になる。なぜルビアがここにいるのか、その理由が知りたかった。けど、言ったところでまた素気無くあしらわれるだけだろう。


 それはそうとして、とにかく現状把握が最優先だ。と思い、僕は周りを見渡してみる。すると、


「こ、これは……」


 3Mを超える剣と巨大な防具。そして豪華な宝石と金銀。全てが巨大なサイズでそのビジュアルに圧倒されてしまった。もちろんルビアも同じである。


 すると、呆気にとられて言葉を失った僕たちに誰かが声をかけてきた。





「人間……美味しい人間……食べる……過去の栄華を守るため……人間……食べる」




「っ!?」

「っ!?」



 肌がそば立った僕たちは、低い声のするところに目を見やると、


 そこには、







 煌びやかな防具をつけて、宝石が散りばめられている剣を手に持っているネフィリムが立って、僕らを睨んでいた。


 横には、光り輝く小さな木がいて、そこには、純白の実が実っていた。


 おそらく、あれが命の木の実か……









 




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