40話 タブー、そして決意

 ブリンケンさんの話は次のようである。まず、この王国内では、ルビアの憎悪を利用して出世した貴族たちが幅を利かせている。そして、その連中が、ルビアを焚きつけてイラス王国を攻めさせようと働きかけているということ。そして、今までヘネシス王国を支えていた元老たちやルビアの側近たちを次々と排除しているということ。そして、しまいには、ルビアを孤立させて、あの美しい美貌と体を汚すという実に汚い謀略を巡らしているらしい。


 そのような悪巧みを事前に察知していたルビアの母であるエステル女王は彼らに一服もられて、重篤状態。ブリンケンさんは濡れ衣を着せられ、結局死刑を言い渡されて、ここで投獄中らしい。


「……これは、仲直りどころじゃありませんね」

「いいえ、この危機的状況を変えることのできる人はあなただけです」

「僕が、ですか……」

「はい。あなたは、ルビア姫殿下の心の奥底にある悲しみをちゃんと把握しておられた。あの、美しい顔の奥に秘められた孤独と悲痛を」

「……僕、ルビアを助けたい。ルビアを闇から解放してあげたいです!」

「急いではなりませぬ。チャンスは必ず訪れるはずですから」

「……」


 ブリンケンさんの顔は見えない。だけど、その声音からは、何かを切望しているようなオーラが感ぜられた。

 

 しかし、一つ気になることがある。


「あの、ブリンケンさん」

「はい」

「ルビアが怒り狂っている理由、教えていただけませんか?」

「……」

「確かに私は数年前、ヘネシス王国に乗り込んで彼女に酷いことを言いました。だけど、他にも理由があるような口ぶりでしたから……」

「それは……言えません。イラス王国とヘネシス王国における最大のタブーですから。私がそれを言ってしまえば、それこそ重罪を犯したことになります。それはあってはなりません」

「最大のタブーであっても、イラス王国の次期王である僕が知らないのはおかしいです。一体何があったんですか?」

「……本当に、あの王から何も聞いておりませんか?エステル女王陛下のことと、ルビア姫殿下のことを」

「聞いてません。僕の父上は、ヘネシス王国についてはあまり話してくれていませんでしたから。意図的に避けていたような……」

「それはそれは、興味深い。王太子殿」

「はい」

「あなたには何があってもルビア姫殿下とエステル女王陛下と仲直りしなければなりません!」

「る、ルビアはわかりますけど、エステル女王まで?」

「お二方の心の傷を癒すためにはあなたの活躍が必ず必要です!しかし、あなたは言葉によって罪を犯しましたが、あなたの父は行いによって罪を犯しました。仲直りするためには、その罪を、女王陛下と姫殿下が納得する形で償わなければなりませぬ。あなたが、お二方のお眼鏡に叶う男でありますように」

「は、はい!僕、頑張ります!」


 そう訴えかけるブリンケンさんの勢いに気圧されてしまう僕。品のある声は切羽詰まった雰囲気を放っていた。



X X X

 

 次の日、朝早く起きて奥にある貴賓用の部屋でヘネシス王国のメイド服に袖を通している一人の女の子と、それを見守る二人の美少女。


「セーラ」

「はい!ソフィア姫様!」

「すまん。なんだか押し付けてるみたいで」

「大丈夫です!私、頑張ってエリック様がルビア姫様と仲直りできるように頑張ります!」

「セーラ」

「はい!マンダネ姫様」

「えいっ!」

「ひゃっ!」


 マンダネはセーラを抱きしめてその大きな自分の胸で彼女を包み込んであげた。


「セーラはきっとうまくできるはずです!私の国の人たちからお墨付きをもらったセーラのことですから!」

「マンダネ姫様……」

「でも、油断は禁物です。ルビアがどんな状況に置かれているのか、そしてエリックと和解できるとっかかりを掴むことがセーラの任務ですから」


 柔らかいマンダネの胸を享受したのち、セーラは一歩離れ、踏むと顔を頷き返事をした。


「はい!」

「ふふ、いい子」


 その光景を微笑ましげに見つめていたソフィアが口を開く。


「やっぱりセーラには人を落ち着かせるオーラがある。おそらくルビアもセーラからそんなところを見出したからあんなトンチンカンな提案をしたんだろう」

「それ、わかるかも」

「わ、私はそんな大した人ではございません!婢女は平民メイドで、エリック様の所有物に過ぎない取るに足りぬ塵芥のような存在……」


 そう頭を下げているセーラを満足げに見つめるソフィアとマンダネは、互いを見つめあって明るく笑ってから、二人して優しくセーラを優しく抱きしめた。


「セーラと私は身分の違いこそあれど、私の大切な友達だ」

「セーラにガイアのご加護があらんことを……」

「ソフィア姫様……マンダネ姫様……」


 3人の目からはクリスタルのような涙が一滴ずつ落ちて、床に敷かれている高級絨毯じゅうたんを濡らした。


 


 部屋を出て、ルビアの部屋に向かっているセーラの顔には緊張が走っている。体は少し震えているが、エリックとソフィアとマンダネの顔を思い浮かべながら、彼女は前へと突き進んでいった。内ポケットに大切にしまってあるハルケギニアの王宮メイドのサフィナがくれた手帳と共に。



 そして部屋に取り残された二人は


「さ!ソフィア!私たちも動きましょうか!」

「ああ、何事においても情報収集は大事だからな」

「ルビアと和解できれば、きっと素敵な未来が私たちを待っていますよ!」

「うん。今度は私たちが動く番だ」

「気をつけましょう!一応、私たちはルビアに最上級の化粧品の情報を伝える御用達業者という認識ですけど、私たちを知るものもこの王宮内には結構いますから」

「ああ、だから、各々信頼できる高官に当たるとしよう」


 そう決意したオリエント大陸における3大美女のうち二人は、部屋を出でる。





追記



 なんだか物語のスケールがだんだんと大きくなっていくような気がするんだが……まあ、いっか




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