39話 エリックとルビアと謎の人物

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 ここを照らしているのは蝋燭の火だけ。窓もなく湿った空気が気持ち悪い。おそらく向こうの分厚いドアの外側には看守たちがいることだろう。


 理のカケラさん……僕、一体どうなるの?と、若干恨むような表情でため息をつく。


 いや、まだ諦めるには早い。きっとチャンスは訪れるはず。僕はなんとしてもルビアとも仲直りしてみせる!


 そう意気込んでいると、分厚いドアが開けられた。


 噂をすれば……


 蝋燭の光に照らされているのは、絶世の美女。


「ルビア……」


 ルビアが僕を取り押さえた親衛隊の女性一人を連れてきた。ルビアの手には鞭が握り込まれている。


「あらあら……前と比べると、見る影もないね」

「……」


 僕は頭を下げ、何も返事をしなかった。


「二人を惚れさせるなんて……きっとろくでもない戯言で丸め込んだんでしょ?」

「……」

「本当におぞましいわね。あの美しい女たちの処女を奪って逃げるつもりでしょ?貴様の考えることなんか全部知ってるわ」


 だが、最後の挑発には口をつぐむことができなかった。


「違う!僕はそんなことしないし、したこともない!」

「口だけは一人前ね……エリック!!!!!!」

「っ!」

「エルゼ!捕らえて」

「は、は!」


 エルゼという親衛隊のものが、鉄柵で遮断された牢屋の鍵を開けて、中に入り、再び僕を押さえつける。なので、僕の手と足は壁にある金具に固定された状態となった。


「ふっ!」


 立ったまま何もできない僕を嘲笑してから、ルビアは近づいてきた。


「エリック」

「なんだ……」

「なんでそんな下級貴族の格好で我が国に来たのか、理由を聞こうかしら」


 冷め切った声音。けれど、その声には怒りと悲しみが混じっている気がする。怖い……もし、僕がルビアの気に障る事を言ったら、あの丈夫そうな鞭で打たれるかもしれない。


 だけど、引き下がるわけにはいかない……


「僕は……ルビアと仲直りするためにここに来た!」

「は、はあ?」

「何があっても、僕はルビアと仲直りして、オリエント大陸に平和をもたらしてみせる!それを叶えるために僕はなんだってするから!」


 一瞬、エルゼという親衛隊の女性が体をびくつかせた。だが、ルビアは。


「ふふ……あは……あははははははは!!!大した計画ね。私と仲直りがしたいと」

「ああ。そうだ」

「でも、残念。私にそのつもりはないの。貴様と貴様の父が私の手によって殺されることこそが私の望み」

「……理由を教えて」

「なんの理由?」







「どうして、そんなに悲しい表情をしているのか」

「っ!私が……悲しい表情を?」

「ああ、ルビアは悲しくて寂しい表情をしている」

「貴様の目は飾りか?一番殺したい人間の一人が転がり込んできたの。今の私は上機嫌よ」

「いや、表面上は笑っているけど、心の中は悲しみに暮れている」

「っ!!!」

「確かに、僕は昔、ルビアに酷いことを言った。だから、その傷が癒えるまでいっぱい謝って、いっぱい尽くして行きたいんだ……でも、その表情を見るに、僕だけが原因のようには見えない。だから言って欲しい。どうしてそんな辛くて悲しい表情をしているのかを!」


 僕が少し目を潤ませて訴えかけると、ルビアは当惑の色を見せてから数歩後ずさる。


「うるさい……うるさいうるさいうるさい!!!貴様……わかっていてそんなことを……」

「いや、僕は分からない」

「この私に嘘をつく気?あの獣のような男の息子もやっぱり嘘つきのようね!」

「僕の父上と何かあったのか?」


 僕の問いかけに、ルビアは徐に頭を下げる。そして、急に激昂し、鞭を振り翳して、僕を威嚇した。


「許さない……絶対、許さない!!!!!!!!!」


 そう言って、ルビアは思いっきり鞭を握っている手に力を込めて、僕を打とうとする。


 が、


「ルビア姫殿下!」


 隣にいたエルゼさんが手を上げ、それを止める。


「エルゼ……」

「私は、ルビア姫殿下のことがとても心配でございます……明日、宴会でその美しいお姿を貴族たちに披露される予定ですのに……こんな最低最悪の男のために体を使われては……ルビア姫殿下の美しさに傷がつくのではないかと……それを見るのはあまりにも心苦しいです」


 その声を聞いたルビアは、目を丸くし、鞭を握っている手の力を弱める。すると、鞭が床に落ちた。


「そうね。もしここで、私が取り乱したら、明日の予定に影響が出てしまうわ」

「差し出がましいことを言ってしまい、申し訳ございません。どんな罰でも受けます。どうかその美しさ永遠に続くことを……」

「いいえ。私を心配してくれてのことだもの……エリック、命拾いしたわね」

「……」

「行きましょう」

「は!」


 ルビアは僕のいる牢屋から出た。エルゼさんは僕の手と足に繋がれた金具を素早く解いてくれた。


「……」

「……」


 エルゼさんは何かやるせない表情を浮かべている。一体僕に何を言おうとしているのだろう。だけど、エルゼさんは何も言わない。


 立ち上がり、分厚いドアに近づこうとした瞬間、彼女は口を開く。


「ブリンケン卿」

「エルゼ」

「彼はイラス王国の王太子で間違いありません」

「ああ。先ほどの会話でお二人がどんな関係にあるのかよくわかった。引き続き、ルビア姫殿下を守ってくれ。希望が見えてきた」

「はい。お気をつけて」


 斜め方向にある部屋からお年寄りらしき声が聞こえてきた。どうやら投獄されているのは僕だけではないらしい。


 エルゼさんは、話が終わると、足早に歩いてこの牢屋を抜けた。


 しばし静寂が続いたのち、謎のブリンケン卿という人が僕に向かって話しかけてくる。


「エリック王太子……」

「あなたはどなたですか」

「私は名前はブリンケン。ルビア姫殿下の母方にあたるエステル女王陛下に仕える公爵の爵位を持つものです」

「公爵……なのになぜこんなところに?」

「ここは、王族に対して重罪を犯した上流貴族たちが収監される監獄です」

「ブリンケンさんはルビア姫やエステル女王に悪いことをしたんですか?」



「……長い話になりそうですな。でも、あなたは知っておかねばならない。ルビア姫殿下と仲直りしたい強い意志のあるあなたなら……」



 それから、僕はルビアを取り巻く壮絶な状況を知ることとなった。





追記



意外と絶望だらけではなかったんですね。


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