38話 恐怖の会話

X X X


「ん……」


 目が覚めると同時にものすごい頭痛が走る。あれからどれくらいの時間が経ったのかはわからない。ただ一つわかるのは、目を開けると四角い空間と外との繋がりを遮断する鉄柵が見えること。つまりここは牢屋の中だということなのだろうか。


 にしても、広い気がする。独房、というわけではなく、周辺にはここと似たようなスペースが三つほどあるが、人気ひとけはない。


 これから、どうなるんだろう。


X X X


 ルビアの部屋


 広々としている部屋でオリエント大陸の3大美女とメイドがテーブルに座っている。部屋には本がいっぱいあって、オリエント大陸の地図やさまざまな筆記用具、スケジュール管理のためにつけた色んなメモなどが目立つ。おそらくイラス王国を攻めるための作戦を考えているのだろう。


 その反面、香料や最上級の化粧品、豪華絢爛たる宝石が散りばめられた手首飾り、かんざし、脚飾り、首飾り、ドレス、などなど、知と美を追求する彼女の価値観がよく現れた部屋である。


「それで、どうしてあの男と一緒にいたの?」

「それは……」

「……」


 ソフィアとマンダネは言い淀む。一番隅っこにいるセーラはルビアの成せるオーラに畏怖を感じていた。


「ハルケギニア王国とエルニア王国は、我が国と手を携えてイラス王国を滅ぼさないといけない大事な同盟国。なのに、その国の未来を担うべき次期女王たちがなんで、あの忌まわしき獣と一緒にいるのか、それが知りたい」


 強圧的な態度でソフィアとマンダネを睨むルビア。その二人は何かを決心したかのように、顔をあげて、ルビアに言う。


「ルビア……あなたがエリックを憎んでいるのはよく知っている。昔の私も全く同じだった。けれど、彼は変わった。もう昔の暴虐の限りを尽くすあの暴君では無くなったから」

「な、なにを言ってるのかしら?」

「そうですよ。ルビア。エリックは変わりました。エリックはこれまで私たちに心の傷を負わせた罪を全部償うことのできる男になりましたよ!」

「マンダネまで……」

「理由ならエリックから直接聞いてくれ。ルビアは彼と会話をするべきだ」

「エリックなら、ルビアにもきっと言ってくれるはずです!」

「……」


 強気に出る二人に戸惑いを覚えるルビア。だが、彼女は、再びあの男を思い浮かべては、眉間にシワを寄せる。


「あの男は……エリックとその父キュロスは、死ななければならない。あの王国は滅ぼさないといけない!」


 と、大声で怒鳴り散らかすルビア。その表情を怪訝そうに見ているマンダネがまた口を開いた。


「ルビア……なぜそこまでするんですか?確かに、エリックはひどいことを言いました。でも、今の彼は、過去の行いに対して謝罪とそれ相応の賠償をしたい気持ちがあります。ルビア……過去を反省している彼を差し置いて本当に戦争を起こす気ですか?」

「……マンダネ、あなたはなにもわからない……あの親子がどんなことをしてきたのか……」

「その口ぶりだとあの言葉以外にも何かあってように見えますね。それが何か、教えてくれませんか?」

「……お黙りなさい」

「……」


 ルビアは一瞬、過去のことを思い出し、目を潤ませたが、やがて冷静を取り戻して、立ち上がり、部屋を出ようとする。すると、何か思いついたのか、たんと踵を返し、彼女は口を開いた。


「あなたたちの存在が知れ渡れば、大変なことになる。だから、一番奥にある貴賓用の宿を用意するからそこに泊まりなさい。そして、そこのメイド」

「は、はい!」

「随分とソフィアとマンダネに信頼されているみたいね」

「……い、いいえ!とんでもございません!私は平民で、まだまだ半人前でございます!」

「あなたは誰のメイドなのかしら?」

「私は……」


 セーラは震え上がり、言葉に詰まる。それもそのはず。エリックの専属メイドだと言ったら、ルビアは投獄されてしまいかねない。


「私の大切なメイドだ!」

「……」

「へえ、ソフィアのメイドね……よろしい。二人が我が国を出るまで私に支えなさい」

「え??」

「ん?」

「はい!?!?!?!?!」


 斜め上すぎるルビアの言葉に、3人はびっくり仰天する。


「名前は?」

「……セーラでございます」

「セーラね。いい名前だわ。明日から、早速王宮のメイド服に着替えて私に支えなさい」


 セーラはブルブル震える体をなんとか落ち着かせてソフィアとマンダネの横顔を窺う。すると、二人は冷や汗を流し、ふむと頷いた。


「は、はい!」


 その反応を見たルビアは満足げに頷いてから、美人姫二人を呼ぶ


「ソフィア、マンダネ」

「ん?」

「はい?」




「催眠にかかっているわけでもなく、弱みを握られているわけでもない。一体なにがあなたたちを突き動かしているのか、それだけ教えて」


 まるで見透かすように眦を細め、眼差しを送る。


「……私は、エリックの女だ」

「私も……エリックの女です」


 そう恥ずかしそうに言う二人を見てルビアは呆気にとられる。そして、


「あは……あはははははははははは!!!!!!!!!見下げ果てた。剣術においては右に出るものがいないソフィアといえども、周りからは聖女と言われるほど人格が優れているマンダネといえども、男を見る目はなさそうね」

「……」

「……」





「合点が言ったわ。ふふふ、見せてあげる。あなたたちが心を寄せている男が、徹底的に壊れていく姿をね。そして、今に気づくだろう。自分は愚かな選択をしたと。自分はあのエリックという獣に騙されたと、早くヘネシス王国側についてイラス王国を滅ぼすべきだと、ね」



「……」

「……」

「……」


 そう言ってから、ルビアは部屋を出た。そしてドアから親衛隊の女性が手でちょいちょいと、手招いたため、残りの3人もルビアの部屋を出て、貴賓用の部屋に案内された。



「さて、あの憎ったらしい獣がどんな戯言をほざくのか、聞いてみようかしら」






追記



 ルビア……怖い……

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