36話 ルビアの演説
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ヘネシス王国国境付近
エルニア王国を出て数日間の移動を経てようやく僕らはヘネシス王国にたどりついた。
あの日にソフィアとセーラが言ったように、3人は仲良くなり、旅の初めに見せたあのぎこちない態度は無くなった。
セーラをのぞく僕たち3人はエルニア王国の下級貴族の服装をしており、ヘネシス王国の王都へと通ずる国境付近の検問所を無事に通ることができた。すると、夥しい数の兵隊や戦車、武器を運ぶ人たちが目白押しだ。我が国に戦争を仕掛けるべく軍備を強化しているようだ。
複雑な気持ちをのせた溜息をついて、手綱を握りながら兵隊の方へ目を見やれば、鼻息を荒げ何か喋っている。
「お前も勤務が終われば王都に行くんだよね?」
「あったり前じゃん!今回はなんと!ルビア姫様が直接、大衆に向かってイラス王国関連の演説をされるからな!」
「いつもは女王陛下がなさるのにね。まあ、ルビア姫様は将来、ここヘネシス王国を治める唯一の権力者だもんだ。だからそろそろ、王位を継がせようとしているとの噂も出回っているぞ」
「まあ、あれだけ美人で、聡明だから、俺たちからしてみれば言うことなしだよね?」
「ああ!なにせ、オリエント大陸の3大美女のうち、最も美しいと崇められるお方だからな」
「あんなパーフェクトな方は、一体どんな人と結婚されるのかな?」
「ん……やるとしたら、イラス王国のあのクソ野郎くらいの権力を持つモノじゃないと、難しいんじゃないかな?」
「ははは!まあ、確かにそうなんだけど、あいつの国はもうすぐ滅びることになるんだからな。あの王子はルビア姫様の奴隷となるか、殺されるか、二者択一だよな」
恐ろしい話を交わしている。マンダネからある程度、この国のことについて教えてもらったが、その現状を実際、目の当たりにしている今、僕は鳥肌が立った。
しかし、あの兵士らは使える情報を僕に与えてくれた。今日、王都でルビアが演説をする予定だ、と。
焦る気持ちと震える手をなんとか抑えて僕は、ヘネシス王国の王都に入り、宿をとって、ルビアが演説する予定である、ガイア神殿の広場にやってきた。
「ものすごい数だ……」
「ですね……」
ソフィアとセーラが広場に集まっている溢れんばかりの人波を見て、嘆息を漏らす。
「警備も以前より厳しいですね……これだけの兵を演説のために動員するのはちょっとおかしいかも……」
「そう?」
「あ、あくまで個人的見解ですけど……」
マンダネの言う通り、ものすごい数の兵士らが民たちを厳しき統制している。まるで自分に危機が及ぶことを必死に防ごうとしているように。
「静かに!!!!!!!!」
神殿に
すると、広場の人々は黙り、ものすごい数の人がいるにも関わらず、辺りがシーンと静まり返る。
「ルビア姫殿下の演説を心して聞くがいい!」
男性はそう言い終えると、後ろに引き下がる。すると、ピンク色の髪をし、紫色をした綺麗なドレスを着ている一人の女性が現れる。
「見て見て……すごい綺麗!」
「本物のルビア姫様のご尊顔を見るのは一年ぶりかな?」
「お美しい!」
「ヘネシス王国に栄光あれ!」
たちまちこの広場は歓喜に溢れる。
間違いない。あれはルビアだ。結構遠いところから見ているつもりだが、あのオーラは、数年前に僕が感じ取ったあの雰囲気に酷似している。
ある程度時間がたつと、市民たちは図ったように、一様に口を
「今日は、このように好天気に恵まれ、上から見たガイア神殿の広場は実に素晴らしい。きっとこれは大地の神・ガイアが私たちを祝福している証だろう」
「「(歓声)」」
「もうすぐ我が国はオリエント大陸の覇権を握っているイラス王国をも凌駕するほどの軍事力を持つようになる」
「「(歓声)」」
「もうすぐオリエント大陸の覇権は我々が握ることになる。もし、イラス王国がその事実を認め、我が国の属国になることを受け入れれば、彼ら彼女らは我々の奴隷となり、命を繋ぐことはできるだろう……」
「「……」」
「だけど、もし奴らがそれを拒否すれば、滅びあるのみだ!王族から平民に至るまで、例外なく殺され、イラス王国の全土が血に染まり泣き叫ぶだろう。我らは寛大だ。故にチャンスは与える。だが、それを彼らが跳ね除ければ、イラス王国は最も呪われた地として、よよ限り無く軽蔑され、蔑視され、無視され続けていくことになるだろう!」
「「うあああああああああああああああああ!!!!ヘネシス王国万歳!ヘネシス王国万歳!ヘネシス王国万歳!」」
「……」
「これはひどい……」
「エリック様……」
「ルビア……この前あった時より、もっとひどくなっていますね」
ルビアはコメカミに血管を浮き立て、民衆を扇動している。華やかな美貌と雄弁ぶりが合わさって、民衆はあたかも催眠でもかかったかのように興奮しているのだ。
ルビアの演説は約30分間も続いた。反応は見ての通り、大成功と言っていいほどの熱狂っぷりだった。吃ったり、間違った言葉や失言は一度も見せることがなかった。
だが、
「と、言うわけで、明るい未来が私たちを待って……っ!?」
ルビアは急に話を止め、目を丸くし、ブルブル震え出した。
「あれ?いきなりどうしたんだ?」
「やっぱり演説は初めてだから緊張なさっているのかな?」
「にしても、ずっとこっちを見ておられるけど、なんでだろう」
「さあ……」
そう。
ルビアはこっちを見ている。
僕を。
あの時と同じか、それ以上の怒りが込められた燃え盛るルビのような赤い瞳で僕を捉えている。
そして、ルビアは演説を急に中止し塔から降りる。すると、またあの偉そうな男性が現れ、大声で叫ぶ。
「ルビア姫殿下は傲慢で暴虐の限りを尽くすイラス王国の連中の蛮行に大変傷ついておられる!だから、これにて演説は終わりだ!」
「イラス王国……絶対許さない!」
「俺たちも、もし戦争が起きたら、志願しよう!」
「一緒にルビア姫様を守るんだ!!」
「「おおおおおおおおおおおおお!」」
追記
状況が、二カ国と比べて深刻ですな
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