34話 それぞれの気持ち

 セーラとソフィアが謎すぎる反応を見せてから僕たち4人は争いこそしないが、ギスギスした雰囲気が続いた。

 

 確かにセーラとソフィアの胸はマンダネに遠く及ばない。


 だけど、胸が小さいからといって、ソフィアの魅力が減るわけがなく、セーラが僕に向ける信頼と忠誠心がなくなるわけでもない。なのに、なぜ二人はあそこまで怒っているんだろう。


 理解に苦しむ僕だが、悩んでも時間は流れる。けれど、僕たち4人の仲が良くなることはない。


 お昼の時間でも


「エリック様、エルニアの熟成ワニ肉を使ったサンドイッチでございます」

「あ、ああ……ありがとう……」


 セーラは口は笑っているが目がマジだ。


「マンダネ姫様も」

「は、はい!ありがとうございます!あはは……」


 マンダネはセーラの成す凄まじいオーラに気圧されて顔を引き攣らせる。


「ソフィア姫様、そうぞ」

「ありがとう。セーラも一緒に食べよう」


 しかし、不思議なのは、ソフィアに熟成ワニ肉サンドイッチを渡す時のセーラは、まるで愛くるしい自分の伴侶に接するように目がキラキラしていた。いつの間にか派閥ができあがっているような気がする。


 人間というのは、共通目標がある時は、お互い団結するんだが、目的がなくなったり、ちょっとした余裕ができた時は内部分裂により空中分解する生き物だ。これは、僕が日本にいた頃、散々経験してきた絶対法則のようなもので、おそらくこの異世界にも成り立っているのではなかろうか。異世界でも日本でも人間は人間。


 しかし、僕はそんなことは許さない。敵同士で争うのはアリだと思うんだが、僕の大切な女の子たちがお互いを警戒したり、憎み合うのは絶対嫌だ。


 そう!僕がこの不自然な空気を変えてみせる!


 と、宣言したはいいが……


 あの二人は入り込む余地を全然与えてくれなかった。


 夜になってもギクシャクした関係は変わることはなく、ソフィアは肉を調達するために茂みの中へ、セーラは木の実や草などを手に入れるために木々の中へ……


 僕とマンダネはというと、二人きりでテントを設営しているところである。


「大きなテントだから心配してたけど、二人で作業するとあっという間だね!」

「そうですね!」

「あはは……」

「ははは……」


 ぎこちない笑い声がした後、虫の鳴き声と清流のせせらぎがしきりなしに聞こえる。


 やっぱりマンダネも意識しているんだね。僕は、ちょっと暗い表情を浮かべるマンダネをなんとか落ち着かせるために、口を開く。


「大丈夫だよ!きっと機嫌直すと思うから!二人とも!」

「そうだと、いいんですけど……」

「最悪、僕がなんとかするから」

「……ふふ」


 僕が真剣な表情を向けると、マンダネは笑みまじりに息を吐く。


「ん?」


 気になり、視線で続きを促したら、マンダネが優しい表情で言葉を紡ぐ。


「女の子の心はとても繊細ですよ。男の人がその気になっても、うまく行かない可能性の方が高いと思います!」

「そ、そんなものか……」

「ふふ、」

「……」





「でも、そんな男に、心底惚れちゃいましたからね……私も、あの二人も」

「っ!」

「何かを必死に頑張る必要はなく、エリックの本当の心を見せればいいですよ」「必死に頑張らなくてもいいの?」

「はい。心のこもってない行いはアンコの入ってないパンのようなモノです!」

「心ね……」

「エリックが本気なら、二人もきっと本当の気持ちを打ち明けてくれるはずです!」

「……やっぱり女の子の心って難しい……」

「ふふっ、悩んでいる表情、かわいいですよ」

「か、かわいいって……」

 

 一瞬、からかっているのかと思ったが、マンダネの表情を見ると、そんな安っぽいゲスの勘ぐりは消え失せた。


 マンダネはとっても明るい表情で笑っている。



X X X


「どうしようどうしようどうしよう……私、エリックになんてことを……」


 血まみれの剣を握ったソフィアの手が震える。隣には数匹の巨大牛や猪が倒れたままで、ソフィアは恋する乙女のようにはにかむ。


「私……エリックともっとイチャイチャしたいのに……エリックの優しい言葉を聞かないと安らかに眠れないのに……なんであんなみにくい姿を晒したんだ……私のばか!ううう……」


 ソフィアが目を潤ませて、地べたに座り込む。


「謝った方がいいかな……いや、それだと色々……」


 剣を地面に置き、思い悩むソフィア。



X X X


「エリック様エリック様エリック様……」


 水辺で果物と草などを丁寧に洗いながら途方に暮れているのは一人の美人メイドさん。


「打倒巨乳同盟の一員であられるソフィア姫様がエリック様と幸せになれるように全力でサポートしないといけないのに……エリック様と疎遠になるのは心が痛い……私、エリック様なしじゃ生きていけないから……」


 そう言ってため息をついてから、手を止めて、下を向くセーラ。


「エリック様……」


 そう色っぽく彼の名前を呼んでから、切ない表情で再び果物と草などを洗っていく。


X X X


「ごちそうさま!」

「ごちそうさまでした!セーラはとても料理が上手ですね!」

「お粗末さまです。ソフィア姫様が持ってこられたエルニア巨大牛の新鮮なお肉のおかげです」

「ううん。そんなことはない。セーラの料理の腕がいいからだ」

「……サフィナさんの手帳のおかげです」


 焚き火を取り囲むような形で、僕たちは夕食を食べている。一見なんの問題もなさそうな会話だが、それぞれの言葉の端々から、表情の変化から多少のぎこちなさを感じる。


 咀嚼音、虫とフクロウの鳴き声、そして僕たち4人の無味乾燥なやりとり。どこか欠けているようにも映るこの光景に僕は密かにため息をついた。


 ご飯を食べ終えてからは、セーラが後片付けをしてくれた。マンダネがいなかった時は、この後、3人で語り明かす勢いで話し合ったり、互いの体の温もりを確かめ合ったりしながら旅を楽しんでいたのだ。だけど、今はそういったことをするような雰囲気ではない。


 なので、僕は荷台に移動し、布団をかぶって寝ようとしている。向こうの3人も広いテントの中に入ったようだし、朝日が登るまで安らかに寝るとしよう。


 でも……


「……全然眠くない」


 やっぱり、今日の出来事があったせいか、普通なら5分足らずで眠りにつくんだが、現在は1時間が経っても頭が冴えている。


「ちょっと夜風にあたろうっか」


 そう呟きながら、僕は荷台から降りて焚き火のところへと歩む。


 するとそこには


 




 ソフィアとセーラが物憂げな表情で座り込んでいた。








追記



 マンダネの件で、あまり出る幕が無かった二人。マンダネと仲良くしているエリックの姿に焦っているのかもしれませんね。


 次回はソフィアandセーラsideで書きます。


 (続きも砂糖多め)


 気になる方々は★と♡をポジっと……

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