33話 事案発生

X X X


 かくして農作業で汗水を流し、巨大ワニに足を噛まれ血を流し、イラス王国の金貨を1万枚を払うことでやっとマンダネと仲直りができた。


 普通、こういう異世界モノのアニメや小説だと、主人公がチート級能力を簡単に手に入れ、無双し、夢や目的をなんの努力なしに叶えるのは、もはや常識となっている。が、この異世界は一味違うようだ。


 No pain, no gain。対価を払わないと欲しいものは手に入らない。これから会いにいくルビアと和解するために一体どれほどの対価を払うハメになるんだろう。


 とまあ、とりあえず、これからのことは後で考えるとして……今は馬車の前に立っている3人の女の子らと旅を楽しもう。


「エリック!早く早く!」

「うん!ごめん!」


 しばし僕が考え事をしたせいで、痺れを切らしたマンダネが明るい声で呼んできた。


 セーラ、ソフィア、マンダネ、そして僕。メイドであるセーラを除けば、みんな下級貴族の服装である。なんだか、申し訳ない気持ちだ。でも、この3人は僕に信頼を寄せている。なので、僕はそれに対して誠意を示さなければなるまい。


 息を深く吸って吐いてから、僕はにっこりと微笑んで口を開く。


「行こう!みんな!」



「はい!」

「はい!」

「うん!」


 色々あったが、僕らは再び旅を再開する。途中で、平民たちと貴族たちが僕に手を振って「エリックは俺たちの家族だから、いつでもきてね」みたいな声をかけてくれた。本当に心が温まる。


 エルニア王国の国王陛下と別れの挨拶をした際、マンダネが長い間不在でも民らが疑わないように手を打つと言ってくれた。


 僕は後ろの窓から楽しく談話を交わす3人の姿を見ながらふと考える。


 ソフィアもマンダネも僕も、それぞれ王国を治めないといけないという重大な使命を担っている。なので、長引くのはよろしくない。できる限り早くルビアと仲直りしたいのが本音だ。だが、果たしてうまくいくのかな……


 過去のエリックは、ルビアにとてもひどいことを言った。ルビアと関わりのあるマンダネから聞いた話だが、ルビアは僕と父上を殺そうとしている。それどころか、存在自体を消そうとしている。焚書のように。


 エルニア王国の国境を抜けてからも、ルビアについて色々と思いを馳せる僕。


 年齢は僕より一歳年上。父は二年前に暗殺されたらしく、王妃が女王として君臨し、我が国と同じく恐怖政治を敷いている。


 今はどんな風に変わったのかは知らないが、数年間、僕は断交状態のヘネシス王国に官僚たちや商人たちを率いて無断で入り込み、ルビアに対して暴虐の限りを尽くした。その時のルビアは、僕が今まで見てきた女性の中で、最も美しく、最も魅力的な見た目だった。


 けれど、

 

 彼女は怒り狂っていた。


 サラサラした長いピンク色の髪、整った目鼻立ち、品のある体つき、そして、




 僕に殺意を向ける赤い瞳。




 噂だと、オリエント大陸外の国々の王子から、ものすごい量の贈り物が送られてくるらしい。それを金で換算したら、ヘネシス王国の国家予算の5分の1に達するという。


 けれど、ルビアは、その全てを送り返して、今だに彼女を近くで見た外国の貴族や王族の男は僕以外、存在しないらしい。

 

 実に謎に包まれた女だ。


「はあ……」


 先が思いやられるな。と、心配しながら、緑が続くこの道を馬車でひたすら進んでいる僕。


 むにっ


 だが、そんなプレッシャーを一気に吹き飛ばす柔らかい感触が僕の右腕に伝わる。一体なんなんだろうと、手綱を握ったまま右を見ると、心配そうな顔のマンダネがエメラルド色の瞳を僕に見せ、艶やかな唇を動かす。


「どうかしましたか?」

「ふぇ?い、いや!な、なんでもありません……」


 決して意図的に当てているわけではないと思う。運転席が狭いので、マンダネのサイズ的に必然と当たってしまう。


 や、柔らかい……


「なんで急に敬語使ってるんですか?」

「い、いや……それよりなんでこっちにいるの?荷台にいるんじゃなかった?」

「ふふ、もうここは私の国じゃありませんし、人の目を気にする必要もありませんからね!」

「ま、まあ……そうだけど、荷台にいる方がもっと楽だと思うよ」

「……エリックの隣がいいです……」

「っ!」


 一瞬ビクッとなって、腕が少し動いてしまった。けれど、マンダネの巨大なマシュマロが優しく僕の腕を受け止めてくれた。ブラックホールのように沈みこむ感覚に極上の心地よさを感じていると、今度は左から、マンダネよりは多少破壊力で負けているが、気持ちのいい柔らかさが伝わってくる。またなんぞやと左を向くと……


「ソフィアまで!?」

「エリック」


 ソフィアは思いっきり僕に胸を当てながらちょっと拗ねた表情で上目遣いしている。な、なにこの構図……


「ど、どうした?」

「マンダネの時と反応が違いすぎるぞ……」

「え、え?どういうこと?」

「……んねのことだ」

「ん?声が小さすぎてよく聞こえないんだけど、何か言った?」





!!!!」




「む、胸!?」


 今、必死こいて意識しないように僕の理性を総動員したつもりだけど、脳裏に刻み込まれるほどはっきりと言ってくるなんて……


「やっぱり……エリックは大きい方が好きなのか!」

「え?な、なんで急にそんな話になるんだ?」

「やっぱり優しいエリックも、蓋を開ければただのケダモノだったのか!」

「い、いや……そうじゃなくて……」

「ふん!エリックなんかもう知らない!」

「お、おい!ちょっと!ソフィアちゃん!」


 怒り心頭のソフィアが走っている馬車から急に立ち上がり、荷台の中に入った。器用な動きだな、と呆れ半分驚き半分の気持ちで後ろを振り向いていると、窓からセーラの顔が見えてきた。


「セーラちゃん!?明るく笑っているのに後ろからドス黒いオーラが漂っている!?」


 こ、怖い……今日初めてセーラという女の子の怖さを知ってしまった。なぜあんなオーラを出しているのかは梅雨しらず。


「あはは……私、何か悪いことしましたかね……」


 マンダネが落ち込んだ声音で僕に言った。


「い、いや!マンダネちゃんは悪くないよ……とは言えなくもなくもなくもないかもね」

「どっちですか!?」


 僕もわかりません……


 だって、いつしかセーラの隣にソフィアまでやってきて、僕とマンダネをめっちゃ睨んでるもん……








追記



 次回からは野営が始まりますw


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