32話 マンダネの本音と怒り狂う絶世の美少女

X X X

 

 かくして、小麦の種をめるぐ交渉は丸く収まる形となった。結論から言うと、僕がイラス王国の金貨一万枚を支払うことを保証する小切手に、持ってきた父上のハンコを押す事によって取引は成立。ソフィアはハルケギニア王国の金貨4千枚をエルニア王国に貸すことを求める内容の手紙を書き、それを自分の父にあたるハルケギニア王国の国王陛下宛に送った。


 小麦の種は会議に参加していた商人たちの全員の協力もあってか、三日後に半分近い量が到着した。そして、今度は農業協同組合の長でありラケルの父でもあるイサクさんが責任者となって、農作業をやるらしい。


 正体がバレた僕とソフィアは、貴賓扱いされることとなったが、貴族や平民たちにまで知れ渡ったら偉い事になるため、僕らの存在は機密情報として扱われることと相なった。


「エリックは素晴らしい……やっぱり私が認めた男だ」

「ソフィアちゃんが助けてくれたおかげだよ」

「昨夜、国王陛下と話したけど、イラス王国との戦争はやるべきではないとおっしゃった」

「ほ、本当?」

「うん……エリックの態度を見て、考えを変えたみたい」

「やった!ソフィアちゃんは国王陛下の心を変えるために、ずっと努力してくれたもんね。やっぱり、僕の女だよ」

「エリック……私はあなたのためなら、なんだってする……だから、私に愛を……」

「うん。いっぱいあげるよ……」

「エリック……好き」

「僕もソフィアちゃんのことが大好き!」


 セーラが他のメイドたちと一緒に、農作業をしている人のために食事を作っている間に僕とソフィアは甘々な時間を満喫中である。だけど、一線を越えるようなことはしない。まだやるべきことが残っているから。


 それはそうとして、後でセーラが帰ってきたら、たっぷり可愛がってあげよう。


「あ、ソフィアちゃん」

「うん?」

「ちょっと畑行ってきてもいい?」

「いいけど、私も一緒に行く?」

「ううん。大丈夫。いくら下級貴族の姿とはいえ、オリエント大陸の3大美女の一人と一緒に歩くと周りがね……」

「そんなことどうでもいい。私はエリックだけの女だ」

「ふふ、ありがとう。後でたっぷり可愛がってあげるから、しばらくここで待っててね」

「う、うん……わかった。待ってる……」

 

 そして軽くキスをしてから僕は部屋を出た。


 そしたら


「……」

「マンダネ?」

「……」

「大丈夫?」


 また、マンダネがドアに前に立っていた。顔はすっかり赤くなっており、呼吸が荒い。そして足がガクガク震えているので、体調でも崩しているのかなとつい思ってしまう。


「……」


 だが、マンダネは僕の問いに答えてくれない。やっぱり、いまだに根に持っているのかな。ちょっと悲しくなる。でも、仕方ないことだ。


 なので僕は何も言わずに、ちょっと申し訳なさそうに微苦笑を浮かべて通り過ぎようとした。が、


「あああ、あの!」

「ううえっ!?ま、マンダネ?」


 マンダネはいきなり大声で僕を呼び止めた。振り返ってマンダネに視線を送るものの、後ろを振り向いていて、彼女の表情は見えない。


「この前の返事……まだしてませんから……今夜、この部屋で、ちゃんと言います……」

「あ、ああ」


 そう言ってマンダネは、ものすごい勢いで走り去った。


 忘れてないんだな。


 どんな返事をくれるのかは分からないが、ちゃんと心の準備をしておこう。そう胸に刻んで僕は畑に赴いた。


X X X



「エリック様!」

「セーラちゃん!頑張っているんだね!」

「はい!汗水流して農作業をされるエルニア王国の方々の姿を見ると、助けてあげたくて……」

「素晴らしい。頑張った分、後でたっぷり可愛がってあげるから」

「エリック様……はい……わかりました!私、死に物狂いで頑張ります!」

「い、いや……ほどほどにね」

「ふふ、わかりました!」


 おにぎりを配っているセーラを褒めていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「よ!エリック!体は大丈夫かい!?」

「あ、はい!大丈夫ですよ!」

「エリックはもう俺たちの家族のようなもんだ!畑の仕事は俺らでなんとかするから、エリックはたっぷり休んどけ!足、まだ治ってないんだろ?」

「ラケルちゃんを助けてくれた恩はいつか必ず返すっからよ!」

「ははは……ありがとうございます!」


 平民たちと貴族たちが僕を歓迎してくれる。その事に安堵してから歩いていると、また聞き慣れた声が聞こえてきた。


「エリック王太子殿下」

「イサクさん……バレたらまずいからその呼称は……」

「……いいえ、あなたはエリック王太子殿下であられます」

「……」

「その節は本当にありがとうございました。あなたは救国の英雄です」

「いいえ!僕はやるべきことをしたまでです」

「……」

「ところで、作業の方はどんな感じですか?」

「は、はい……王太子殿下の思惑通り、大洪水によってここは肥沃な土地に変わりました。このままだと間違いなく豊作でしょう」

「よかった!」


 僕が笑顔を浮かべると、イサクさんはもどかしさをあらわにする。


「?」


 小首を傾げてイサクさんを見つめていると、イサクさんは口を開く。


「王太子殿下御一行の旅路にガイア様のご加護があらんことを祈ります。そして、マンダネ姫殿下のことをよろしくお願いします」


 そう告げてから、イサクさんは立ち上がり、そそくさと歩き、現場に戻る。


 え?マンダネをよろしく?どういう意味だろう……まあ、これ以上長居したら返って邪魔になるだろうし、そろそろ帰ろっか。


 

X X X



 仕事を終えたセーラをたっぷり甘やかしてから、僕は体を洗い、寝巻きに着替えた。ソフィアもセーラも寝るために自分達の部屋に帰ったため、僕の部屋は静寂に包まれている。


 今まであったことを思い返しながら余韻に浸かっていると、誰かが僕の部屋のドアをノックした。


 きちゃったのか……


「マンダネ?」

「は、はい……」

「入っていいよ」


 と、余裕ぶって言ったが、既に僕の心臓はバクバク。断られるのか、それとも許してくれるのか。


 一緒に旅はしなくてもいい。けど、仲直りして再び国交を結ぶところにまでは持って行きたい。


 いろんな思惑が交錯する中、僕の前に姿を現したのは











 一人のメイドだった。




「ま、マンダネ!?なにそこ格好は!?」

「エリック……」

「マンダネは、この国の姫様だろ?次期女王となる人でしょ?なのに……これは一体……」






「もう、我慢できません……」




 と色っぽい声を漏らし、僕の胸に飛び込んできた。


「マンダネ……」

「あなたの顔を見るたびに、ソフィアとセーラに優しく接するあなたの姿を見るたびに、あなたに触れるたびに、体が熱くなって……切なくて……こんな感情を抱いたのは初めてです……」

「……」


 体が震えるマンダネ。その振動を感じた僕は我に返って、マンダネの背中に腕を回し、優しく抱きしめてあげる。


「大丈夫。おかしくないから、その感情、僕に全部ぶちまけて」

「エリック……」

「マンダネ……」

「だ、だめです……こんなの恥ずかしくて言えない……」

「ふふ、マンダネが言ってくれるまで、ずっとぎゅってしているね」

「ず、ずるいです!」

「マンダネが可愛すぎるのが悪い」

「も、もう!」

「言ってごらん」


 巨大な二つのマシュマロが僕の胸を圧迫する快楽に負けじと、マンダネの頭を撫で撫でする僕。いい香りといい感触……








「私の全部を差し上げます……この体も心も……あなたのメイドにも奴隷にもなります……その代わりに、愛を私にください……」


 オリエント大陸の3大美女の一人であるマンダネが、僕の奴隷メイドに……


「ほ、本当に?」

「……」


 マンダネは気恥ずかそうに視線を逸らし控えめに頷く。


「今まで溜め込んできた感情、全部受け止めてあげるから、もっと言って」

「……昔のエリックは、とても怖くて、傲慢で、すごく嫌いでした。でも、今のエリックは……とても親切で、ラケルちゃんを助けるために命をかけてくれて……」

「ラケルちゃんだけじゃないよ。マンダネが危ない目に遭っても、僕が命をかけて守ってあげるから」

「ひやっ!?エリック……そんな言葉は……」

「どうした?」

「……意地悪ですよ……」

「僕は本音を言っただけだよ」

「その本音が私の心を支配して……離してくれないんですから……」

「マンダネを離さない」

「……あたなはすぐ私とソフィアとセーラとルビア以外の女を見つけて同じことを言うんでしょうね……」

「僕は……」

「これから私はあなたを監視します!あなたが正しい道を歩めるように!」

「……うん。マンダネがいないと、僕、グレちゃうかも……」

「そんなことあってはなりません!今のエリックがいい……」

「僕も今のマンダネが好き」

「ひゃっ!また、そんな言葉を……」

「マンダネは僕のこと、好きじゃない?」

「……好きです」

「どれくらい?」

「さっき言ったじゃないですか……私の全てを差し上げるほどだと……」

「僕も同じだよ」

「え?」

「僕もマンダネに僕の全てをあげる。マンダネが僕の奴隷メイドなら、僕はマンダネの奴隷執事だよ!」

「そ、そんなこと言われたら……」

「言われたら?」






「エリックがもっと欲しくて欲しくてたまらなくなるんじゃないですか!!!!!!」



 甘美なる吐息を吐きながら発せられた言葉。まるで僕に催眠でもかけるかのようにその美しい旋律は、僕の頭を痺れさせる。


 なので、僕は



 ちゅっ!



「っ!エリック……」

「マンダネに僕の愛、全部あげる」

「……マンダネちゃんがいいです」

「ええ?でも、ちゃん付けは禁止って……」

「マンダネちゃん!」

「……はい……マンダネちゃん」

「エリック……」

「マンダネちゃん!」

「エリック!」


 ちゅっ!


「私、あなたを助けます。あなたの女になったから、エリックを助けるのは当たり前です!だから……あなたについていきます!」

「マンダネちゃん……ありがとう」

「これからヘネシス王国に行くんですよね……」

「ああ」

「ヘネシス王国は軍事大国で、ルビアは手強い女の子です。でも、私はエリックを信じますから……」

「ありがとう。マンダネちゃんがいてくれると助かる。必ず、ヘネシス王国とも仲直りして、オリエント大陸に平和をもたらしてみせるさ!」

「素晴らしい心構えです……でも……」

「でも?」

「今は、私だけを見てほしい……」

「ふふ……わかった。これまでの心の溝を埋め合わせよう」

「エリック……」

「マンダネちゃん……」


 蝋燭の光はいつしか消え、月光が窓から差し込んできて、僕たち二人を密かに照らしていた。


 マンダネの柔らかい胸とお腹と腰と腕は僕にこの上ない満足感を与え、橙色の長い髪とエメラルド色の瞳、そして可愛い顔立ちと色っぽい表情は、マンダネが僕の女になったことを物語っていた。


 しかし、一線を越えることはない。


 なぜなら、



 


 最後の関門が残っているから。






X X X


 ヘネシス王国


「エリック……憎んでも悪み足りない男……イラス王国を破壊し尽くして、エリックとその父・キュロスを無惨に殺して、ヤツらの記録を世の中からことごとく消してやる……殺す……エリック……必ず殺す!」


 夜中、オリエント大陸の3大美女のうち最も美しいと崇められる女の子がベッドに横になったまま、怒りを露わにする。


 ピンク色の長い髪に、エリックよりは小さいが女性にしては少し大きめの身長、マンダネに匹敵するほどの大きな胸、そしてソフィアに匹敵するほどの美しくて整った目鼻立ち。


 完璧としか言いようがない美貌だが





 彼女は





 怒り狂っている



 


追記




 マンダネちゃんのつんとデレがちゃんと出ているのかな?


 それにしても最後のヒロインは手強そうですね……


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