30話 ガイアの預言と裸のマンダネ
マンダネはシャインストーンを手に持ち、周りを照らしながら僕と進んだ。夜なので、足元に注意しないと転ける可能性があるから時々マンダネは僕の裾を掴んできたり、
そんな感じで小一時間探し回ったが、これといった成果は得られなかった。
「どこ行ったんだ……」
「……」
焦り出す気持ちを何とか抑えながら、周囲を見渡すが、泥と化した畑しか目に入らない。
その瞬間、マンダネが急に、はっと目を見開いて口を開く。
「ラケルちゃん……」
「見つけた?」
「は、はい……あそこに……」
マンダネは震える声音で言ってから指をあるところに指した。そこには、大きな水溜まりがあり、真ん中に大きな木が佇んでいる。ラケルはその木の枝の上に座って、畏怖を覚えながら震えていた。
「ラケルちゃん!」
「エリックお兄ちゃん!?」
「すぐ助けるから待ってね!」
「だめ!絶対きちゃダメだから!」
「な、何で?」
「下にエルニアワニがいっぱいいるから……」
「なに!?」
ラケルの言葉を聞いて、冷静になった僕は、水溜まりの中に目を見やる。すると、3~5mほどの巨大なワニ数十匹が、虎視眈々ラケルを狙っていた。マンダネがラケルを発見した途端に動揺したのはワニのせいか。
「ラケルちゃん……どうしてこんなことに……」
「マンダネ……」
マンダネは腰が抜けて、そのまま地べたに座り込んで、ラケルを悲しく見つめている。そんな彼女の表情を見て、意を決したのか、ラケルが口を徐に開く。
「マンダネ様……嘘ついてごめんなさい」
「嘘?」
「ガイア様は私に言われました。エルニアの子孫たちが戦争のために無理な収穫をしてきたから、この地は荒んでいると。この地は泣き叫んでいて、もし無理な収穫を続けるなら、私はエルニアの子孫らに裁きを下すと」
「裁き?」
「裁きという言葉を聞いた時は、あまりにも怖くて……マンダネ様、最近ずっと思い詰めておられましたし……マンダネ様の悲しむ姿を見るのがとても辛くて……ですから、マンダネ様にはガイア様は去年と同じ言葉を述べられたと嘘をついてしまいました……」
「そういう事だったんですか……」
「私は死ななければなりません……」
「いや……でも」
「私はガイア様にもマンダネ様にも嘘をつきました。ですので、ガイア様はワニたちをここへ送りました。私の血肉をここに撒き散らすがために」
「……」
マンダネは重い表情を浮かべる。オリエント大陸を司るガイア。この神の持つ権威は絶大で、もし人間がそれに泥を塗りつけるような行いをすれば、必ず殺されなければならない。王でも貴族でも平民でも例外ではない。
だけど、何かが違う。ラケルがここで死を迎えるのは、あってはならない。そんな気がしてきた。
ガイアは本当にラケルの死を望んでいるのだろうか。あんなか弱い女の子が巨大なワニによって食べられることが正義なのか。
違う。
単なる僕の中途半端な正義感によるものなのかもしれない。僕の我儘である可能性も否めない。
だけど、
僕は、ラケルを守りたい。それと同時にマンダネを幸せにしたい。
気がつくと、僕の足は動いていた。
「エリック!なにをしようとしてるんですか!?正気ですか!?」
腰が抜けたマンダネが立ち上がり僕の腕をガッツリ掴んで止める。目を見開いて息を荒げるマンダネ。僕は、そんな彼女の濡れた頭を優しく撫でてから口を開いた。
「マンダネはここで僕を見守ってくれ。僕の本気を見て欲しいんだ」
「エリック……」
「そんな悲しい顔するなよ。美人が勿体無い」
「……」
「そのシャインストーンで僕を照らしてくれ」
僕はマンダネの頭を撫で終えると、今度は彼女の柔らかい頬に手を添えて優しくなぞる。
「……」
マンダネは目を潤ませて、徐に頷いた。それを確認した僕は、再び足を動かす。
しかし、水溜まりに足を踏み入れたら、全身に鳥肌がたった。ここにいるワニ一匹とっても、僕なんか軽く丸呑みできるほどのサイズだ。
震える足と瞳。諦めて逃げたい。大口叩いたのはいいけど、それを実行できるだけの勇気が僕にあるのかは未知数。
不規則な呼吸が僕の心理状態を物語っている。
ワニたちにめっちゃ睨まれてるし……
怖い……
『誠司くん。行きなさい』
この声は、理のカケラさん!?
『誠司くんは、私が守ってあげるから。ふふ』
何だか、気持ちが落ち着いてきた。体は軽くなり、周りにいる大勢の巨大ワニを見ても、別になんとも思わない。
これならいけるかも知れない。
と、僕はスピードを出して、真ん中にある大木にやってきた。
「ラケルちゃん降りてきて!」
「エリックお兄ちゃん!?」
「早くここから出よう!イサクさんと親切なエルニア王国の人たちのいるところへ行こう!」
「でも、私は……」
「ガイアは本当にラケルちゃんが死ぬことを望んでいるのかな?」
「うん……だって私、嘘ついたから」
「だったら、なんで僕はラケルの前にいるの?」
「え?」
「ガイアが本当にラケルちゃんを殺したいと思っているなら、僕たちに見つからないような場所を選んだはずだよ」
「……」
「僕とマンダネはここにいる。そしてラケルちゃんはまだ生きている」
「……」
「降りてきて!もし、このことで、ガイアがお怒りになったら、その罰、僕が全部受けるよ」
「エリックお兄ちゃん……」
ラケルは唇を噛み締めて、しばし考える。そして、心の整理がついたのか、木から降りてきた。
「そんなのは不公平だよ。もし、罰を受けるなら、私が全部受る。もう逃げない」
「ふふ。ラケルちゃん大人になったね。おいで」
「うん。エリックお兄ちゃん……大好き」
僕はラケルちゃんを抱えて、また巨大ワニが蔓延る水溜まりへと移動した。理のカケラさんの声を聞いてから、恐怖という感情はすでに無くなっているので、軽い足取りで、ひたすらマンダネの立っているところ目掛けて進んでいく。
あともう少し。
あともう少し。
だが、
巨大ワニが僕の足をガブリついた。
「っ!?」
「エリックお兄ちゃん!?」
「エリック!?」
そんなに強めに噛んだ訳ではないが、血が流れるほど、ワニの歯が僕の皮膚を貫いた。
「離れない!エリックから離れなさい!えいっ!」
マンダネは機転を効かせ、シャインストーンをものっそい力で投げて巨大ワニの頭を命中させた。おかげさまで僕は無事に脱出することができた。
「ラケルちゃん!!」
「マンダネ様!!」
「本当に心配してましたよ!」
「ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
二人はお互いを抱きしめあって泣いている。
「いいえ。ラケルちゃんが助かった本当によかったです!私は今まで戦争のことばかり考えて、ラケルちゃんに気をつかわせてしまいました。私にも非があります」
「……」
「帰ったらまた一緒に美味しいご飯をいっぱい食べましょうね!」
「はい……」
「あの、ちょっと……お取り込み中申し訳ないけど、早く小屋に戻ってこの足を治療しないと……」
「あああ!そうでした!ごめんなさい!エリック」
「エリックお兄ちゃん……今度は私が助けるから」
「ははは……そいつは心強いね」
と、血が流れているせいでちゃんと歩けない僕を二人が支えながら、僕たちは歩んだ。シャインストーンが水溜まりにあるため、暗い道をひたすら進んだ。すると、小屋が見えてきた。
「はあ……はあ……痛い……寒い……」
「エリックお兄ちゃん……ここに来る途中で摘んだ薬草で消毒してあげるから待っててね!」
「ありがとう……」
小屋に入った僕が横になると、ラケルが治療を始める。とても慣れた動きで僕の足に流れる血を自分の服を千切った布で拭いてから、薬草を潰して傷口にぬり、止血してくれた。
「傷跡は残るけど、これなら治るはずだよ!」
「うん……ん!」
「どうしたの!?」
「さ、寒い……クラクラする……」
結構血を流したため、精神が朦朧としていて、体が冷えてくる。ソフィアに脇腹を切られた時と同じ感覚だ。加えて、この濡れた服が僕の体の熱を奪っている。
このままだとやばいかも……
一瞬、理のカケラさんを恨みそうになったが、隣にいるラケルの心配そうな顔を見ると、そんなネガティブな感情は跡形もなく消えていく。
「エリックお兄ちゃん……」
「ラケルちゃん……そこをどいてください」
「マンダネ様!?は、はい!」
すると、突然、マンダネが僕の隣にやってきた。
そして
服を脱いだ。
「マンダネ!?」
「……」
驚いて彼女の名前を呼んでも、一向に返事が返ってこない。
目に映るのは白い軟肉。そしてピンク色の下着。
僕が呆気に取られて口をぽかんと開けているが、マンダネは気にすることなく
下着を脱ぎ、
横になっている僕を優しく抱きしめてくれた。
巨大な二つのマシュマロは、僕の冷えた体を芯から温めてくれる。
その極上の心地良さに酔いしれながら
僕は意識を失った。
そしてまた、あの白い世界が広がる。
追記
やっと一段落つきました!
早くマンダネちゃんのデレデレな姿が見たい方は★と♡をポチッと……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます