22話 打倒巨乳同盟結成!
かくして僕は馬車の荷台で寝ることに。二人は、すでにテントの中に入っているので、姿は見えない。どうか二人とも仲良くすることを祈りながら、目を瞑った。
すると、今度は二人の事ではなく、日本にいた頃の出来事が蘇ってくる。
小学生時代から一緒に遊んでいた男友達、僕のことを大切に育ててくれたお父さんとお母さん、そしていつも笑顔で僕を褒めてくれる役所の方々。
振り返ってみれば、僕は実に恵まれた環境でなんの不自由のない生活をしていたと思う。
けれど、僕も人間。黒歴史の一つや二つくらいはあるんだ。
その中で最も僕を苦しめた出来事は
『優しい男は嫌いなんだよね』
『え?』
『なんていうか、見るだけでも吐き気がするっていうか、生理的に受けつけないんだよ』
『……』
『じゃね〜』
大学生だった時、僕は好きになった女の子に告白したことがある。結果は、上掲のように玉砕だった。
僕はソフィアとセーラにプロポーズしたいと思っている。「僕と結婚してください」と、言っちゃったら済む話だ。オリエント大陸の国々の王族は、重婚が認められている。僕の祖父にあたるセンナケリブ王は150人の女性と結婚していたという。父上は一人の女性としか結婚してないんだが。
つまり、過去のエリックの記憶を全部持っている僕は、多くの女性と結婚するということに対して、最初こそ、ものすごい違和感を抱いていたものの、現在は常識として受け入れている。
そう。多くの女子とそういう関係になることはこの世界ではおかしいことではない。が、
過去のトラウマが、僕の口を封印している。旅が終われば、なんとかなるだろうという楽観的な考えをしたまま、逃げているのかもしれない。
「……寝よう」
セーラandソフィアside
二人はテントの中で横になっている。セーラは緊張のため、身震いしながらソフィアの顔色を伺ってした。そんな彼女の状態を察したソフィアはクスッと笑ってから口を開く。
「そう緊張しないでくれ。セーラはこれから一緒に旅をする大切な仲間だ」
「な、仲間だなんて……とんでもございません!私は下賎な平民メイドです……」
「ふふ……私も今や下級貴族だ」
「……」
気を遣うソフィアの優しさにセーラの呼吸は安定する。それを確認したソフィアは、急にモジモジしながら、一番気になることを口にした。
「セーラと一緒に寝ると言ったのは……エリックと今後について語り合いたいからだ……」
「そ、そうでございますか……」
「ああ」
エリックという言葉が出た途端、セーラは耳をそばだててソフィアの言葉を聞き入る準備をする。
ソフィアは咳払いを一つしてから言葉を紡いだ。
「今まで数えきれないほどの剣士たちと剣を交えて負けたことのない私が、エリックに負けてしまった」
「……」
「今まで、オリエント大陸の権力者や遠い国からやってきた王子たちから飽きるほど求婚されたが、ちっとも心が動かなかった。けれど、エリックは、私の心をあっさりと奪ってしまって、私はエリックの女となった……」
「……」
「こんな優しい性格を持つ男は他に見たことがない。まるで、恋愛の神が乗り移ったかのようにエリックは別人になって、私の心を満たしてくれた。今でもドキドキが止まらない……セーラもそう思うだろ?」
「激しく同意します!エリック様は変わられました。そして……とっても優しい態度でこの婢女にも接してくださいます。あの優しさはこの世のものではないと思います……」
「ああ。私もそう思っている……」
と、二人は、下半身を抑えては、身悶えている。だが、首を左右に激しく振って我に返るソフィアは続けた。
「きっと、エリックなら、私も、セーラも幸せにできるはずだ……でも」
「でも?」
「これから会いにいくマンダネは要注意人物だから、心配になる」
「マンダネ……エルニア王国の次期女王となる人物ですね。なぜ要注意人物ですか?」
「それは……エリックに危険を及ぼす可能性が高いからだ!」
「き、危険!?……と、いいますと?」
カッと目を見開くセーラはソフィアを見ながら視線で続きを促した。すると、ソフィアは恥ずかしそうに視線を逸らし、ボソッと漏らす。
「マンダネのむ、胸は私のものと比べ物にならないほどおっきい……」
「あ……」
セーラは自分が考える「危険」とソフィアの考える「危険」に
「ソフィア様も十分立派なものをお持ちです!」
「……確かに私は普通の女性よりサイズは少し大きいものの……あの女の前に立つと月とすっぽんだ」
「そ、そんなに大きいんですか!?」
セーラの問いに、ソフィアは無言のまま頷きを持って返事する。
「男が胸の大きい女を好むのは自他ともに認める常識だ。だから、もし、エリックが、あのおっぱいにうつつを抜かしたら……」
「姫様……」
悲しむソフィアを心配そうに見つめるセーラ。けれど、セーラの頭の中にはすでにかけるべき言葉が存在していた。
セーラは自信に満ちた瞳でソフィアを捉えて大声で言う。
「姫様!」
「えっ!?な、なんだ!?」
「私の故郷では『巨乳は女の敵』という諺があります」
「巨乳は女の敵!?」
「はい!乳の大きさでしか自分の価値を見出せない淫らな女性は断罪しないといけません!」
「……確かに、いわゆる巨乳と言われる女たちは、自分の胸を使い、男をたぶらかす不埒な輩という印象があるな。我が国の王宮でも、胸の大きい使用人が多くの男性を誘惑して結局、懲戒解雇処分が下されたことがある」
「そうでございます!巨乳は女の敵です!」
「……一理あるかも……でも……」
「でも?」
「マンダネはオリエント大陸における3代美女の一人だ。胸だけでなく、顔も綺麗だから、きっとエリックは……」
自信なさ気に呟くソフィアを見かねたセーラは、ソフィアの右手をぎゅっと握り、目を光らせて言う。
「ソフィア様もまた、その3代美女の一人であられます!それに、きっとエリック様の愛は胸の大きさ程度で減ったりしません!エリック様を信じましょう!」
「セーラ……」
「しかし、油断は禁物です!なので……『打倒巨乳同盟』を結成しましょう!」
「打倒巨乳同盟?」
「はい!打倒巨乳同盟でございます!」
「……実にいい響きだ。これからエリックが会うはずの姫たちはみんな巨乳と呼ばれる人だから、保険はかけておいて損はないかもな……」
「他の姫様方が全員巨乳!?」
「うん……だからセーラが応援してくれると……助かるかも」
「もちろんです!私、ソフィア姫様を全力でサポートいたします!」
「ふふ……エリックがセーラを大切にする理由、わかるかも」
ソフィアが自分の手を握っているセーラに対して意味深な笑みを浮かべて小声で言った。
「え?」
セーラは聞き取れずにキョトンと首をひねっているが、ソフィアは満足したようにふむと頷いてから再度口を開く。
「おかげで心の
「あ、あははは……」
「長旅になるはずだ。だから、みんな仲良くやっていこう。エリックもきっとそれを望んでいる」
「おっしゃる通りでございます!」
弛緩した空気を心地よく感じる二人は、他にもいろんな話をしてから眠りについた。
セーラは貧乳、と言われるほど胸が小さい。だけど、ソフィアはそこを高く買っているらしい。
もし、セーラが巨乳メイドだったら、ソフィアは彼女に対して心を開かなかったのかもしれない。
なので、ソフィアと会話を交わしている途中、セーラは自分が貧乳である事に安堵していた。
そして、打倒巨乳同盟は結成されることとなった。
エリックside
目が覚めた。水が流れる音と雀の鳴き声が僕の耳を優しくなぞる。
「ん……」
セーラとソフィア、ちゃんと寝れたのかな?と、心配になりつつも、馬車から降りた僕は、二人を見て驚く。
「こうやって切ればいいのか?」
「はい!とてもお上手です!」
「ふふ、料理というのも案外楽しいものだな」
水辺を見やればセーラとソフィアがくっついて一緒に料理を作っている様子が目に入った。
二人はとても仲睦まじく談笑を交わしつつ作業を進めている。
よかった。
僕は胸を撫で下ろして、セーラとソフィアのいる水辺へと歩調を早める。すると、僕に気づいた二人は、作業を一旦中断し、僕に向き直った。
「おはようございます!」
「エリック……おはよう……」
セーラはとても明るい顔。ソフィアはちょっと照れ顔。この二人を見て、僕は心の中で密かに決心する。
あの笑顔を守る、と
そして、旅行が終わったら「結婚しよう」って言おう、と
「おはよう。今日の朝ごはんは何?」
「今日のメニューはソフィア姫様が狩った鹿の肉と新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダでございます!」
「美味しそう!」
「ふふ、もうすぐ出来上がりそうだから、焚き火のところで待っててくれ」
「うん!わかった」
なんだか、ハルケギニアを出た直後より、打ち解けてきた気がする。
僕たちは、鹿肉サラダを美味しくいただいてから、目的地であるエルニア王国へと旅路を急いだ。
追記
鹿肉サラダ、食べてみたいですね。
それにしてもマンダネの強キャラ感がハンパないですね……
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