21話 所有物宣言とセーラと一緒に寝る事を望むソフィア
「そんな寂しいこと言わないで」
「……」
セーラはソフィアより華奢で、全体的に細い体型だ。つくづく思うが、よくもこんな体で昔のエリックの暴言に耐えたものだ。
僕が感慨深げに吐息を漏らすと、セーラが自信なさげに口を開く。
「エリック様……こんなに優しくされると、私、混乱します……」
「なんで?」
「イラス王国にいた時、エリック様は高級皿を割った私に対して優しいお言葉をかけてくださいました」
「セーラちゃんが心配だったからね」
「それだけでなく、ハルケギニア王国の王都で、ある貴族に絡まれた時も、私を優しく庇ってくださいました」
「うん。セーラは大切な存在だから」
「……そういうところですよ……エリック様」
「ん??そういうところ?」
要領を得ないセーラの言葉にはたと小首を傾げて続きを問うてみたが、セーラは黙り込んだまま何も言ってくれない。
清流のせせらぎと虫の鳴き声だけが聞こえるこの空間には僕とセーラが体をくっつけているだけ。邪魔するものは誰も存在しない。場合によっては、アクシデントが起こり得る状況。だが、そんな気にはならない。
あるのは、セーラを大切にしたいという強い意志だけ。
なので、僕は、もっとぎゅっとセーラを抱きしめてあげた。そして、セーラの頭に僕の頬を少し当ててみる。
「エリック様……」
「どうした?」
「エリック様の体に触れると、私、邪な気持ちを抱いてしまいます……ですので、離れていただけると助かります……」
「どんな気持ちになるのか僕に言ってくれるか?」
「……そんなこと、言ったら、バチが当たりそうでとても怖いです」
「怖がらなくてもいい。僕はイラス王国の次期王となるものだ。もし誰かがセーラちゃんを罰そうとしたら、僕はそのものに対して10倍も重い罰を与えよう」
「エリック様……」
「だから言ってごらん」
「……」
すると、セーラは体を揺らす。離してくれと伝えているのだろうか。そう思いつつ、すすっとセーラから離れて立ち上がる僕。セーラはというと、僕と同様、立ち上がり、踵を返して僕のいる方へと向き直る。
潤んだ瞳、ピンク色に染まった頬。細い体。そして美しい顔。この全てが合わさって、僕の心を高揚させる。
しかし、僕は微笑まない。真剣な表情をセーラに向けているだけ。もし、ここでセーラを甘やかしたら、全てがうやむやになってしまいそうな気がした。
僕の両目に映っているのはセーラの艶かしい顔。
そして、その艶やかな唇が動き出す。
「エリック様の優しさが欲しいです……エリック様の愛が欲しいです……他の美しい姫様たちと愛を育んでも構いません……どうか、その愛を100万分の1でも私に向けて下されば、私は何も望みません!サフィナさんの下で修行をせずにエリック様について来たのも、エリック様がいないと、私の方が切ないから……この不埒なメイドをどうかお捨てにならないでください!エリック様の手によって殺されても構いません。だけど、捨てないで……」
なるほど。これがセーラの本音か。正直、ちょっと怖かった。昔のエリックはもういなくなったとはいえ、セーラからしてみれば同じ人間。そんな彼女が僕に対して愛を求めている。
とても嬉しくて嬉しくて、心臓がバクバクする。けれど、目の前のセーラは畏怖を感じているようであった。
それもそのはず。次期王である僕に向かって私情を挟んだ上に何かを要求してくる。おそらく、他の貴族や王族だと、重荷に感じるか、逆鱗に触れて、使い捨てられるか、殺されるのがオチだ。
だけど、僕は昔のエリックではない。
転生した山岡誠司だ。
なので、僕は、怯えているセーラに
キスをした。
「っ!?」
「100万分の1だと足りないよね?ちゃんと100%の愛をセーラにあげる」
「え、ええええエリック様!?だって、私は平民で、メイドで……」
「そう。セーラちゃんは平民でメイドだ」
「……」
「でも、セーラちゃんはこの世に一人しかいない僕の専属メイドだ。僕にとってとっても大切な存在。僕の世話をできる人はセーラちゃんだけだよ」
「エリック様……」
僕の話を聞いたセーラは急に涙を流した。頬を伝って落ちるクリスタルのような涙は月光に照らされて輝かしい。
切ないけど尊い姿を見た僕は微笑みを湛えながら両手を広げる。
そして
一言
「おいで」
すると
「エリック様!!!!!!!!!!!!」
そう叫んでセーラは僕の胸に飛び込んできた。
「大地を司る神・ガイアの名において、
「セーラちゃん……まだ16歳なのに、所有物宣言、しちゃっていい?」
所有物宣言。それはメイドや執事といった人に仕えるものたちが
なので、自ら進んでこんなに綺麗な女の子が所有物宣言をするケースは全くないといっても過言ではないだろう。やるとしたら、数十年間主人に仕えて、家族同然の信頼関係を築けた執事長やメイド長くらい。
「いいです。きっと他の貴族や王族の方々なら、よくないことを私に求めてくることでしょう。でも、エリック様は違います。エリック様の優しいお言葉と態度は、いつも私の心を満たしてくださいます。なので、私はこの心臓が止まるまで、エリック様の所有物であり続けます」
「セーラ……」
セーラは僕の胸に顔を埋めている。セーラは自由意志によって、僕の所有物になると誓ってくれた。
そんな彼女に向かって僕は伝え忘れたことを口にした。
「えっと、一ついいニュースがあるんだ」
「ん?なんでしょうか?」
「この前、ソフィアちゃんと出かけた時に、ちょっと父上に手紙を書いたんだ。最上級薬草をセーラちゃんの両親に送るよう頼んでおいたからね。この旅から戻ったら元気なお父さんとお母さんがセーラちゃんを迎えてくれると思うよ!」
「え、ええええええええええええええええええ!?!!?!?!?!」
最上級薬草。王宮メイドが金を一切使わず数年間働かないと買えないものだ。そもそもセーラが王宮メイドになったのも、弟妹たちと病気にかかっている両親を養うためであったので、薬草がセーラの両親のところに届くと、目的は達成されることになるだろう。
「私……エリック様の所有物になってよかった……本当によかった……」
「大切なセーラちゃんを産んでくれた家族だからね。僕にとっても大事な存在だ」
「エリック様……」
「セーラちゃん……」
「一生、エリック様の所有物として、尽くさせていただきます……」
「所有物……ではあるけど、それ以前にセーラちゃんは可愛い女の子だ。壊れたら捨てられる道具とかじゃなくて生きている可愛い僕の専属メイドだよ」
「私は幸せ者です……私の全てはエリック様のものです」
「大事にするよ」
「エリック様……」
僕たちはしばしの間、お互いの体温を感じながら抱きしめあった。
X X X
「ご馳走様。セーラはなかなか料理が上手だな」
「お口にあったみたいでとても嬉しいです!」
「僕の専属メイドだからね!」
「……エリック様……」
「ふふ、そうだね」
ソフィアが持ってきたお肉とセーラが用意した草と木の実と荷台にあった香辛料を使った美味しいスープを食した。
キャンピング独特の雰囲気も相まって食事がとても捗った。
あとは、後片付けをして寝るだけ。
ソフィアは剣の手入れをし、僕が薪木を何本か入れて火力を調整していると、皿洗いを終えたセーラが戻ってきた。
さてと、そろそろ寝る場所を決めておかないと。目の前にあるテントは二人用。つまり、誰か一人は荷台で寝ないといけないというわけだ。といっても、荷台は広いし、あったかい毛布を持ってきあるので、問題なしだ。
「ん……そろそろ寝る場所を決めないといけないんだけど……どうする?」
僕は横目で二人を見て、探りを入れてみる。すると、ソフィアが突然、慌ただしくセーラに訪ねた。
「せ、セーラはどこがいい?」
「え!?わ、私ですか!?」
「う、うん。セーラの意見が……き、聞きたい」
「わ、私は……荷台の方がいいです」
「それだと、私はエリックと一緒に寝ることになるのか!?あのテントで!?」
「そうでございます……」
「……」
「……」
「……」
僕たち3人は無言のまま燃え盛る火をただただ眺める。男女二人があんな狭いとこで一緒に寝たら……色々まずい気がしてならないんだが。
それに、
まだ僕からちゃんと言ってないし……
やっぱりここは……
「やっぱ……」
「セーラは私と寝るんだ!」
僕の言葉を遮ってソフィアが大声で言った。まあ、僕も二人に一緒に寝てもらおうと思ってたから、結果オーライ。
「えっ!?でも、ソフィア姫様はエリック様と……」
「セーラに色々話したいことがある」
色々?
追記
セーラちゃん……可愛い……
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