19話 始まる旅とソフィアとセーラ

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 僕たちは旅立つ準備を進めた。今着ているイラス王国の下級貴族服装だと、絶対怪しまれる。なので、ソフィアの提案で、ハルケギニア様式の下級貴族の服装を着ることにした。もちろん、セーラにもハルケギニア様式のメイド服を着てもらうことに。


 偽造の身分証明書やエルニア王国で流通する金貨なども用意し、王と王妃とも話し合って、ソフィアと一緒に旅をするという許可をもらった。


 あとは、旅立つだけ。


 時間はあっという間にたち、ソフィアとのデートから数日経った早朝がやってくる。


 王と王妃に挨拶を済ませ、僕たち3人とサフィナさんと親衛隊長さんは夙に厩舎に集まった。


 旅立つのは僕とソフィアとセーラ。


「……」


 親衛隊長が厩舎の中から馬車を探している間、ソフィアは何か恥ずかしいことでも思い出したのか、モジモジしている。その様子が気になり、僕が話しかけて見た。


「ソフィアちゃん、どうした?」

「……こんな服、着たことないから、その……エリックに変に見られるんじゃないかと思ってな……」


 ソフィアは、下級騎士の服装を身に纏い、僕をチラチラと控えめに見ている。いつもは凛としているが、僕に見せるこのウブで可愛い反応につい息が漏れてしまう。なので、僕は照れくさい気持ちを隠すために、彼女の頭を撫でながら優しく語りかける。


「ソフィアちゃんは可愛いから、何着ても似合うよ」

「そ、そうか……」

「うん!服が可愛いんじゃなくて、その服を着ているソフィアちゃんが可愛いから」

「っ!エリック!もう……バカ……」


 そう言ってソフィアは身体を僕に近づける。引き締まっているところは引き締まっているが、他のところが女の子並みに柔らかい。その感触に癒されながら僕は吐息まじりに微笑んだ。セーラとサフィナさんが僕たちの様子を暖かい目で見守っていると、親衛隊長が馬車を持ってきた。


「この馬車を使ってください!見た目は普通ですが、部品は最上級のものを使って私がカスタマイズしました。なので、長旅にも問題なく使えると思います」

「ありがとうございます!」


 そう礼をを言って僕たちは馬車に乗り込もうとする。だが、途中、セーラが向き直って名残惜しそうにサフィナさんを見つめてた。


「あ、あの……サフィナさん……本当に色々ありがとうございました!」

「セーラ……」

 

 サフィナさんは、そんなセーラの表情を見て、口を半開きにするが、やがて冷静を取り戻し、セーラに近づく。そして自分のポケットから手帳を取り出し、それをセーラに渡した。


「これ、セーラにあげるね」

「え?これってなんですか?」


 キョトンとしながら受け取るセーラは視線で続きを促した。


「私が王宮で働き始めた頃からつけていたメモよ。お二方と旅をしている間、そのメモを見ながらエリック殿下にふさわしいメイドとしての技量を身につけなさい」

「こ、こんな大切なものを頂いちゃっても良いですか?」

「もちろん!セーラは頑張り屋で、とてもいい子だからね。それに、オリエント大陸に平和が訪れたら、ずっと一緒にお二方に仕えることになるんだから……そ、その……い、妹みたいな存在だよ……セーラは」


 ソフィアさんはちょっと恥ずかしそうに目を逸らし、なんとか言葉を紡いでいく。セーラはその様子を見て、感極まり、サフィナさんに飛び込んだ。


「サフィナさん!!!!!私、頑張って立派なメイドになりますから!」

「っ!セーラ……ふふっ……可愛い子」


 二人はしばし抱擁する。とても心が温まる光景である。


 それから、ソフィアとセーラは荷台に乗り、


 僕らは出発した。


「無事に帰ることを祈っております!行ってらっしゃい!」

「エリック王太子殿下!私も応援します!!」


 手を振るサフィナさんと親衛隊長に僕は頷きながら手を振った。


 これからは長旅になりそうな気はするけど、お金もあるし、食料や必須品は荷台にたくさんある。


 そして何より、ソフィアとセーラがいる。


 僕は馬の手綱を取り、王宮を出てから、王都を抜け出した。すると喧騒とした雰囲気はいつしか消え入り、鬱蒼とした森が広がってゆく。


 鳥の囀り、風に揺れる草木の音、清流のせせらぎ。もし、ここの風景を撮って、動画サイトに投稿したら、人気出てきそう。ASMRってやつ?


 けれど、ここは異世界。先端技術は存在しない中世時代である。


 そういえば、ここにきてからだいぶ経つな。日本にいた頃は、仕事終わったらご飯食べたり、友達と遊んだりしながら過ごしていた。が、ここに来てからは、最強王国の王子として、暴虐の限りを尽くす昔のエリックが抱えていた問題の解決に奔走している。僕からしてみれば、他人の尻拭いをさせられる感じだが、悪いことばかりじゃない。素敵な出会いがあり、絆がある。


 そんなことを考えていると、後ろの荷台の扉が開く音が聞こえた。そして、慣れた動きで出てきては扉をそっと閉じ、僕のところへとやってきた。この馬車は大きい方なので、僕は左に詰めて、ソフィアを手招く。そしたらソフィアが少し顔をピンク色に染めて、僕の右に座った。


「どうしたんだ?」

「……ちょっと風に当たりたくてな……」

「ごゆっくりどうぞ」


 僕は笑みまじりに言ってから前を向いた。


 このまましばしの時間が経つ。


 果てしなく続く緑を見ていると、突然脇腹から違和感が感じられた。例えるなら猫パンチに近い。気になり、隣を見てみると、ソフィアは前を見ていた。


「……?」

 

 キョトンとしてから再び首を回して前を見ていると、再びポプッと僕の脇腹を打つ。なんぞやと再び右に目を見やれば、またソフィアはぎこちなく前を向いている。しかし、仕切りに目を動かして僕の横顔をチラチラと見つめている。


 か、可愛い……


 しかし、僕はあえて知らないふりをした。次なる攻撃に備えるべく、手綱を握る手の力を緩める。


 数秒経つと、僕の予想通り、ソフィアはまた僕の脇腹を突こうとする。だが、今度はやられないから。


 と、思った僕は、つつこうとするソフィアの手を自分の片手で握り、その勢いを生かして僕の方に抱き寄せる。


「ひやっ!」


 嬌声あげるソフィア。僕は素早くソフィアのお腹に手を回し、もっと僕の体にくっつける。だがソフィアは一切抵抗しない。最強騎士でありながら、僕の拙い反撃にやられてしまうソフィア。そのまま僕の肩に自分の頭を乗せてきた。


「素直にくっつこうって言ってくれればいいのに」

「っ……そんなの、言えるか……」

「可愛い」

「……」

「可愛いソフィアちゃん」

「……」

「僕の可愛いソフィアちゃん」

「……や、やめろ……」

「ふふ」


 ソフィアは震える声音で言う。けれど、僕から離れようとはしない。そんな姿があまりにも愛おしくて、僕は彼女の青くてサラサラした髪をひと撫でふた撫でした。ソフィアは気持ちよさそうに、目を瞑る。


 僕はしばらく甘い時間を堪能してから、手をソフィアから離した。そして両手で手綱を取り、前を向く。だけど、僕たちは相変わらずくっついている。



 僕たちの旅はまだ始まったばかりだ。



 セーラside


 荷台にいるセーラは動揺している。瞳は揺れており、頭を抱えて独り言を呟く。


「どどどどどうしよう……エリック様とソフィア姫様が手綱を握って馬を走らせている……これ、明らかに私の仕事なのに……ソフィア姫様は大丈夫って言って下さったけど……こんなのありなの!?エリック様は次期王様でソフィア姫様は次期女王様……なんだか複雑な気分!」


 セーラは落ち着かない様子で身体を震わせている。


「よ、よし!サフィナさんから頂いた手帳でも読んで、メイド度を上げよう!うん!」


 そう鼻息を荒げて、サフィナの手帳を取り出して読み始めるセーラ。数分が経って、ある程度落ち着きを取り戻したセーラ。だが、気になる存在のせいでなかなか集中できない。気になる存在。それは向こうにいる二人だ。

 

 固唾を飲んだセーラは密かに立ち上がり、窓越しに二人の姿を覗き込む。そしたらくっ付いて仲良さ気な二人の姿が見える。


 実に幸せそうな男女。そして浮かんでくる自分に優しいエリックの姿。


「っ!ダメ!私は下賎な平民メイド!今こうやって、恐怖を感じずにエリック様に仕えていること自体が奇跡だよ!だから、私はお二方の恋を応援しないといけない!エリック様が他の姫様たちとも仲直りできるようにサポートしないといけない!」


 そう闘志を燃やしてみるセーラだが、やがて、力が抜け、そのまま座る。


「……エリック様」






追記


 旅は始まったばかりなのに、意味ありげに「エリック様」と言うセーラちゃん……


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