18話 セーラちゃんの意思、そして新たなる嵐

 お互いの気持ちと本音を包み隠さず打ち明けた僕とソフィアは保養地であるオルビスから、王都へと戻った。途中、色んな話をした。


 王都は、我が国イラス王国からとれるシャインストーンを使った照明で溢れかえっており、夜であるにも関わらず、まるで日本の繁華街を歩いているかのような感覚だ。


 だが、次の目的地であるエルニア王国は、真っ暗だろう。


 王宮に到着した僕たちは、寝巻きに着替えて、いつもの貴賓室にやってきた。そこには、セーラとサフィナさんもいる。今日は一日中デートしたので、疲れたと思い、ソフィアを部屋に帰したが、事態は急を要すると言ってきたので、こうして4人集まったわけだ。


 僕のそばにくっついているソフィア。セーラはその様子を見て、頬を赤らめ、視線を外す。それに引き換え、サフィナさんは納得顔でうんうん言いながら、妖艶な表情を浮かべる。


「お二方とも、とても仲がよろしいですね。甘いお時間を過ごしてましたか?ふふっ」

「っ!サフィナ!べ、別に甘くなかったぞ!……ちょっと酸っぱかった……」

「何が酸っぱかったですか?」

「……そんなこと……言えるか!」

「あはは……サフィナさん……ほどほどにしてください」

「ふふっ。申し訳ございません。エリック殿下」


 ソフィアは気恥ずかしそうに下を向いたまま、僕の裾を控えめに引っ張る。僕は、可愛らしい反応を見せるソフィアの頭を撫でて、落ち着かせた。すると、ソフィアの頬は次第に緩む。それを確認した僕は、話を始めた。


「これから、僕はエルニア王国に行こうと思っている。もちろんソフィアちゃんも」


 すると、セーラとサフィナさんが心配そうに見つめてきた。


「エリック様……エルニア王国って……」

「現在、イラス王国とエルニア王国は断交状態……ですよね」

「ああ、サフィナさんの言う通りだ」

「エリック殿下、大丈夫ですか?国交を結んでない国に行かれるのは極めて危ないのではないかと」

「……けれど、いかなければならないです。僕が直接姿を見せなければ、何も始まらないから……」

「エリック様……」

「セーラちゃん……」


 セーラは目を潤ませて、僕の事を案ずる。この反応はある意味当たり前だ。ハルケギニア王国とは、仲こそ悪いが、物と人との移動は自由である。だが、エルニア王国へはそもそも立ち入り自体が禁じられている。


 セーラを巻き込むのは、申し訳ない。それに、彼女にはやってほしい事がある。


「エルニア王国へ行くのは僕とソフィアちゃんだけだ」

「え?ど、どういう……」


 当惑の色を見せるセーラの様子を見たソフィアは、サフィナさんに向かって口を開く。


「サフィナ」

「はい!ソフィア様」

「私がエリックと旅立つ間に、セーラを一人前の王宮メイドにしてくれ」

「かしこまりました。その通りに致しましょう」

「え、エリック様!?」

「我が国の王宮では有能なメイドや執事がみんな辞めちゃったからね。引き継ぎもなく、ずっとイバラの道を歩いてきたセーラにはいつも申し訳ないと思っている」

「……」

「サフィナさんは、オリエント大陸におけるエリートメイドだ。きっと、いい先生になってくれるさ。それに、セーラちゃんってここ最近、サフィナさんにくっついて、いつもメイドのことばかり聞いていただろ?」

「そうなんですけ……」

「サフィナさんの下で、王宮メイドとしての教養、知識、スキルなどを学んだら、間違いなく立派なメイドになると思うよ」

 

 これは、セーラのためであり、償いでもある。もちろん、昔のエリックと今のエリックはまったく違う人間ではあるけど、それはこっちの都合でしかない。


 だから、セーラをもっと幸せにしてあげないといけない。


 けれど


「それは、エリック様の命令……ですか?」


 セーラは震える声で、僕に質問した。


「命令ではない。きっとそっちの方が、セーラちゃんのためになると思ってね」


 僕は真面目な面持ちでそう返したが、セーラは切なげな表情を向けてくる。




「エリック様が危険なところに向かわれるのに、私だけが安全な場所に留まるのは……心が痛いです……」

 

 意外だった。いつもは過去のエリックによる八つ当たりをされ、オドオドしていたセーラが、あんなに自分の意思をはっきりと伝えるなんて……


 イラス王国の王都で、御者さんとやり合ってた時といい、僕にマッサージをしてくれた時といい、セーラは意外と積極的で活発な性格の持ち主かもしれない。だから僕は、聞いてみることにした。


「セーラちゃんは、何がしたい?正直に言ってくれ」


 すると、セーラは



「私は、エリック様についていきます。エリック様の婚約者であるソフィア姫様も一緒なのに、この婢女が行かないのは……」



「ふえっ!セーラはななな何を言っている!?こここ、婚約!?そそそそ、そんなのまだやってないから!」

「え!?てっきりされたのかと思いましたけど……私の勘違いでした!!ごめんなさい!許してください!」

「いいい、いや!セーラちゃんは悪くないよ!あは、あはははは……」


 ついさっきまで真剣な雰囲気だったのに、セーラの婚約者発言で、急に面白おかしい空気となった。


 僕とソフィアとセーラが超気まずそうにしているなか、サフィナさんがクスッと笑って何やら呟く。


「エリック殿下も意外と優柔不断なところがお有りですね……これは相当苦労するかも……うふふっ」


 言葉こそ聞こえなかったけど、ソフィアさんの顔を見ると、それは何か不安な未来を暗示しているかのように見えた。








X X X



エルニア王国


王宮



 夜中、とある執務室に、美少女が座って書類に目を通している。橙色の長い髪、エメラルド色の透き通った瞳、顔は全体的に可愛い印象だが、胸のところが結構大きい。背は少し低めだが、18歳にしては恵まれた体の持ち主である。しかし、一つ不思議なところは、蝋燭をあかり代わりに使っている点。シャインストーンによる照明はどこを探しても見つからない。


 そんな彼女の執務室にガタイの良い30代の男がやってきた。


「マンダネ様!農業共同組合のイサクでございます」

「入ってください」


 すると、護衛のものがドアを開けた。


 イサクという男は、マンダネ姫の前でひれ伏し口を開く。


「小麦の種が、到着しました」

「随分、遅かったですね」

「大変申し訳ございません!」

「いいえ。イサクさんは悪くありません。今年の小麦の種の相場は高いんですから……ちゃんと手に入っただけマシです。お疲れ様でした」

「ありがとうございます」

「ところで、今年の土の状態はどうですか?」

「そ、それは……ヘネシス王国の要望により、去年はだいぶ無理をして収穫したので、あまりよろしくありません」

「……」

「今年はどうされますか?」

「……今年も、去年と同じでいきます……」

「……事情は分かりますが、これ以上無理な収穫は……」

「今回で最後です。私の国の土が荒れるのはとても悲しいことですが……今回の収穫が終われば」

「……」






「私の王国から夜の光を奪ったイラス王国は滅亡しますから」

「はい。おっしゃる通りでございます」

「それはそうとして、今回も、体をだいぶ使うことになりそうですね!ふふ!」

「エルニア王国のアイドル的存在であられるマンダネ様が直接取り仕切られたら、きっとみんな、やる気を出してくれるはずです!」

「ラケルちゃんは元気ですよね?」

「は!娘は相変わらずです!」

「ふふ、あの子はとてもとても大事な存在です。ですので、愛情をたっぷり注いであげないと!」






追記



新キャラ登場です



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