17話 繋がる心
「エリック!?ななな何をやっている!!そ、そんなゴツゴツしたところに……」
ソフィアは当惑しながら言うが、抵抗らしい抵抗はしない。だが仕切りに手をびくんとさせて、僕の鼻や唇が擦れる。
しばしキスをしてから、僕は見上げて可愛い彼女に僕の本音を伝える。
「ソフィアちゃんの全てが愛おしい。僕の心は揺るがない。ソフィアの可愛い笑顔、また見たい」
愛を囁く僕にソフィアは目をパチパチさせながら頬を桜色に染める。そして、両手を胸の前で組んで、しばし考えるそぶりを見せた。しばしたつと、ソフィアはその艶やかな唇を動かし、問うてくる。
「私、エリックに優しくされて、嬉しかった……仲直りする前も、エリックとスキンシップした時、とても暖かくて、気づかないうちにずっとエリックの温もりを欲している自分がいて……」
「そ、そうだったのか?」
「うん」
意外だった。だけど、はにかんでいるソフィアの表情を見るに、とてもじゃないが嘘をついているとは思えない。僕は、無意識のうちにすっと立ち上がりソフィアを正面から見つめる。それを続きを促している視線と踏んだのか、ソフィアが嬉しそうに続ける。
「エリックは、私を騎士でなく、一人の女の子として見てくれた。そんなエリックのことを想うたびに、女としての感情が湧いてくる……」
「ソフィアは魅力的な女だよ」
「……本当に?」
「うん!僕が心底惚れるくらいだから!」
「……一つだけ聞いていいか?」
「なんでも聞いて」
「その……エリックは、これから他の王国に行って、他の姫たちとも仲直りするつもりだね?」
ソフィアは、思いつめた表情で僕に鋭い質問を投げかけてきた。ここで誤魔化すことは許されない。だから、正直に答えるしかないだろう。
「……そうだね」
「エリックはイラス王国の次期王となるもの。だから、他の女たちと結婚しても、問題にはなりえない。だけど、もし、他の女とも結婚して、忙しくなったら、エリックの優しさを感じる機会もだんだん減っていくから……もしそうなると……私……」
「そうはならない」
「……本当?」
「本当だ」
「本当に本当?」
「本当に本当だ」
「本当に本当に本当?」
「本当に本当に本当だ」
「嘘だ!きっと他の女の子らにうつつを抜かして……」
「ソフィア」
「ん?」
頬を膨らましているソフィア。プンスカと怒る彼女に僕は上着を少しめくって、傷跡を見せた。
そして、僕は笑顔のまま
「もしそうなったら、またその剣で、僕を切ってくれ。ソフィアという女を手に入れる為なら、それくらい甘んじて受け入れるから」
と、伝えた。
すると、ソフィアは、諦念めいた顔で嘆息を漏らした。それから、悔しそうな表情で腰につけていた剣を地面に置いてから
僕に飛びついてくる。
「そ、ソフィアちゃん!?」
「そんなの……大好きな男にできるわけないだろ……」
華奢な体。けれど、女であることを主張するように柔らかい肌と、マシュマロのような胸、そしていい香りが僕を惑わす。
誘惑された僕は、結局抗えず、ソフィアの腰に手を回して、彼女を感じだ。そして彼女は、
「エリック……」
「うん?」
「好き」
「僕も好き」
「大好き」
「僕も大好き」
「私……エリックの奴隷剣士になる」
「ええええ!?」
「昔のエリックはとても強引でいやだったけど、今のエリックなら……優しい言葉と態度で私の心を満たしてくれるエリックなら、なってもいい……これが、私の自由意思」
「本当に、大丈夫か?無理してないよね?」
「無理してない……エリックなら、私を支配してもいい。私の肉体と心は、全てエリックのものだ……」
理性が崩壊しそうになった。けれど、僕は辛うじて男の本能という魔の手から抜け出すことができた。そんなことは世界平和が訪れてからでも遅くない……
昔のエリックから奴隷剣士になれと脅迫を受けていたソフィア。だけど、今の彼女は、自ら進んで奴隷剣士になると言った。そのことがあまりにも信じられなかったので、僕はポカンと口を開けたまま、ソフィアをただただ見つめる。
「な、なんでなにも言わないんだ!?私、何か変なこと言ったか?」
「い、いや!ソフィアちゃんがあまりにも可愛いこと言ってくるから、頭が処理し切れてないというか……」
「か、可愛いって……」
かあっと顔が真っ赤に染まったソフィアは両手で顔を覆う。そんな彼女があまりにも愛くるしくて、僕はまた口を開く。
「ソフィア」
「な、なんだ?」
ソフィアは指の隙間から僕を見ている。
「僕は、アンフェアなことが嫌いなんだ」
「え?どういう意味だ?」
「ソフィアちゃんが僕のものなるのは嬉しいけど、僕だって……ソフィアちゃんのものになりたい」
「……エリック……」
この異世界は、基本、中世のヨーロッパに似ているため、男が女のものになるという発想はあまりない。だから、僕の言葉をソフィアがどのように受け止めるのかは正直に言ってわからない。
だけど、
彼女を僕のものにしたい。それと同時に僕も彼女のものになりたい。その強い気持ちが僕の背中を押している気がしてならない。
ソフィアは急に足をぶるぶるさせて、ドレスの太ももあたりの部分を両手でぎゅっと握り込んで、僕に蠱惑的な視線を送ってきた。そして口を開く。
「私は負けた。最強騎士である私は、エリックという男に負けてしまった……私は、あなたに勝てない……だから、あなたについて行く……」
「ソフィアちゃん……」
「これからエリックは、マンダネのいるエルニア王国に行くんだろう?」
「あ、ああ。地理的近いし、そのつもりだ」
「私、エリックの女だから、エリックを助ける。戦争は絶対起きてはならない。そして、エリックなら……私の男なら、戦雲が漂うオリエント大陸に平和をもたらすことができる」
「僕を信じてくれるのか?」
「私の心を奪った男を信用できないなら私は一体誰を信じればいいんだ?」
「ソフィアちゃんらしい言葉だ」
「……エリック」
「ソフィア……」
水平線へと消えゆく太陽は、まるで、僕たちを祝福してくれるかのように、微かな光を送ってくれた。
この光がなくなる前に、お互いの気持ちを確かめ合おう。
そう思いながら、僕たちは、顔を近づけて目を瞑って
ちゅっ!
お互いの甘くて酸っぱい味を確かめ合う僕たち。
この味は、僕たちの繋がった心を物語っているように感じられて、僕らをより強く結びつける。
やがて甘い時間は終わり、目を開けてソフィアの顔を見ると、
彼女はとても明るく笑っていた。
追記
甘い……糖尿病かかるのかと思った。
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