9話 セーラちゃんのマッサージと喘ぎ声
僕たちはソフィアのおかげで、王宮の一番奥にある貴賓用の部屋に泊まることとなった。王宮メイドの話によれば、この部屋はハルケギニアの王と王妃、そしてソフィアの部屋と近く、最側近にあたる人じゃないと泊まることが許されないらしい。なので、王宮メイドさんは、僕たちはとても珍しいケースであると言って、不思議な視線を向けていた。
僕とセーラちゃんは荷物を部屋に置き、ベッドに腰を降ろし、人心地ついている。
「やっと、休めるな」
「そうですね……」
「疲れてない?」
「だ、大丈夫です!エリック様こそ疲れてませんか?」
「うん……ソフィアちゃんとのやりとりもあったし、ちょっと休みたい気分かも」
「そうですか……」
実際、僕はだいぶ疲れている。長旅で腰も痛いし、フィーベルとハルケギニア王国の人たちと一悶着あった。それに、ソフィアとの会話は正直、鬼気迫るものがあり、鳥肌が立ちっぱなしである。
だが、セーラちゃんに疲れた姿は見せたくはない。彼女を見るたびに、暴言を浴びせて、ひどく心を傷つけていた昔のエリックの姿が浮かんできて、もっと彼女を守ってあげたいという気持ちが漲ってくる。
だが、
「エリック様」
「うん?」
「うつ伏せになっていただけませんか?」
「うつ伏せ?なんで?」
「……お願いします」
「お、おう」
意味深な顔で指を絡めながら言うものだから、僕は条件反射的に彼女のお願い通り、ベッドでうつ伏せになる。
すると、柔らかい指の感触が僕の肩を優しくなぞる。
「セーラちゃん?」
「……下賎な平民の指はお嫌いですか?」
「……かわいいセーラちゃんのマッサージ、気持ちいいよ」
僕が素直な感想を述べると、セーラちゃんは僕の上に乗っかって、指に力を入れ、肩と腰を丁寧に揉んで行った。そして、震える声音で話す。
「王都で、人たちに取り囲まれた時、私を抱きしめてくださいましたね?」
「あ、ああ。そうだったね」
「王としてではなく、下級貴族として、私を守ってくださるそのお姿……とても素敵でした」
「セーラちゃんは僕の大事なメイドだ。当然のことをしただけだよ」
「……エリック様……」
セーラちゃんは僕の体を揉みながら、自分の体を僕の背中にくっつけてくる。おかげで、柔肉が僕に覆いかぶさり、気持ちいい柔らかさが僕を支配する。
これはセーラちゃんなりの愛情表現なのだろう。正直、セーラちゃんも日本のテレビ番組に出てくるアイドル並みにかわいい。だからこの刺激は、男心をくすぐって余りある。
疲労がぽんと取れる気持ちよさと、女の子の柔らかい感触を堪能している僕は、だんだん眠気が差してきて、そのまま眠りについてしまった。
どれくらい経ったのだろう。目が覚めると、とっくに日が沈み、
「ん……」
覚めやらぬ目を擦って上半身を起こすと、タイミングよく誰かが部屋の中に入った。
「本当にありがとうございました!おかげさまで、メイド度が上がりました!」
「ふふっ。メイド度とは、なかなかかわいい言葉を使いますね」
「あ、エリック様!起きてらっしゃいましたか?」
セーラちゃんは王宮メイドさんと一緒に部屋にやってきた。
「起きたばかりだよ」
「お身体の方はどうですか?」
「おかげさまでよくなった。ありがとうね、セーラちゃん」
「は、はい……」
僕たちのやりとりを横で聞いていた王宮メイドさんは、にっこりと微笑みをかけて、口を開く。
「本当に、中がよろしいですね。ふふ」
それからというもの、僕たちは、またあの貴賓室に案内され、実に美味しい食事をいただいた。途中、親衛隊や、国の偉い方々とすれ違ったが、僕が笑顔で挨拶をすると、みんな例外なく挨拶を返してくれた。
たらふく食べた後は、王宮にある大浴場にて体を洗い、さっぱりしたところで、部屋に戻って明日の計画を立てた。
だが、計画と言っても、別に大したことはない。一番大事なポイントは、ソフィアの話をよく聞くこと。
モンスタークレーマーだろうが、誰だろうが、要するに、彼ら彼女らの気持ちを察し、話をちゃんと聞くこと。人たちは、忙しいとか、面倒臭いからとか言いながら人の言葉をちゃんと聞こうとしない嫌いがある。諍いはそんな些細なことから始まるのだ。
自分の話をしてくれない場合は、プライドを捨て、もっと相手に寄り添う。それが、僕が役所に就職できた理由の一つだ。
「もうそろそろこんな時間か。寝ようね」
「は、はい!」
幸いなことに、王宮メイドさんが、簡易用ベッドを持ってきてくれたおかげで、同じベッドを使うというシチュエーションからは抜け出すことができた。
「あかり消しますね」
「ああ、お願い」
「おやすみなさい、エリック様」
「セーラちゃんもおやすみ」
「ふふっ」
セーラちゃんは笑顔を浮かべながら布団に潜り、数秒経つと、寝息を立てていた。
「寝るのはや!」
僕は苦笑いして、布団に潜って、重くなった瞼を閉じた。だけど、今日はセーラちゃんからマッサージを受けながら昼寝をしたせいで、再び目を開けた時は、夜明けだった。
時間的には午前3時くらいって感じか。
「ちょっと、トイレでも行ってみようか」
と、僕はすやすやとかわいい寝息を立てて寝ているセーラちゃんを起こさないように静かに部屋を出た。
ここは、王宮の中でも一番奥にあるところ。なので、王と王妃、ソフィアがいる部屋には厳重な警備が敷かれているが、それ以外のところは基本何もない。
王宮は広いし、知っているところといえば、貴賓室だけ。なので、貴賓室の近くにあるトイレを利用するために、歩調を早める。
「ふう……」
用を足して、セーラちゃんのいる部屋に戻ろうとしたが、貴賓室から謎の声が聞こえてきた。
「……ん、ん……ん!」
女の子の喘ぎ声。そう。これは間違いなく女の子の喘ぎ声だ。今は深夜。一体誰が中に入っているというのか。
親衛隊の方々に伝えた方がいいのか。それとも、知らないふりをするべきだろうか。混乱する僕の頭のせいで判断ができずにいる。
「……ずるい男だ……今まで私を散々ひどく扱っておきながら……あんなに優しく……」
何を言っているのかは正直、聞こえない。けれど、僕が近づくにつれて、その声音は鮮明になっていき、聞き慣れた声へと変わっていった。
ソフィア。
ついさっきまでは、逃げたい気持ちでいっぱいだったが、中の人がソフィアとわかった途端、僕の足はひとりでに動いていた。
「ソフィアちゃん!」
「ひやっ!」
月光に照らされたソフィアは、僕が座っていたソファーに体を預けてた状態で、息を弾ませていた。
追記
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