7話 カミングアウト
「仲直り?」
「はい!仲直りです!」
僕の返事を聞いたソフィアは小首を傾げて、はてなマークを浮かべている。仲直り。この言葉は、ポジティブな意味合いを持っているので、周りの人々は安堵のため息をつく。そして、各々の目的地へとゾロゾロと歩き出した。
「うん……」
思案顔で考えるソフィア。
実は、僕がここへやってきたのは、君と仲直りして結婚をし、戦争を防ぐためなんだ。けれど、それをこの大勢の前で打ち明ければ、大騒ぎになるだろう。幸いなことに、ソフィアは僕の正体にまだ気づいていない様子。
あんな暴虐の限りを尽くすエリックが、下級貴族の格好でハルケギニア王国に来るのは、ソフィアからしてみれば、あり得ないこと。
「エリック」
「はい」
結構考え込んでいたソフィアは、何か思いついたのか、僕の名前を呼んだ。
「私は、イラス王国のものの中で君のような素晴らしい人格を持っている貴族は見たことがない」
「あはは……僕はそんな大したものではありません」
「ちなみに、その仲直りしたい人は、まだ見つかってないのか?」
「それはですね……」
今目の前にいますけど……
どう答えたものかと悩んでいると、セーラがより体をくっつけてきた。だいぶ人数が減ったとはいえ、ここでずっといるのはあまりよろしくない。かといって、ソフィアとこうやって、せっかく出会えたんだ。このまま引き下がるのはもったいない。
考えあぐねる僕を心配そうに見つめるソフィアが、微笑みを湛えて提案する。
「もし、エリックさえよければ、私が協力してあげよう」
「え?」
「邪魔なのか?」
「い、いいえ……すごく助かります」
と、いうわけで、僕とセーラは美人騎士団に守られながら王宮へとやってきた。
もし、僕が王子としてここへくる場合は、護衛と他の官僚たちも一緒に同行しなければならず、ハルケギニア王国を見下す彼らはきっとトラブルを起こして関係回復に冷や水を差すのだろう。
けれど、今の僕は違う。王子と王女とではなく、人間と人間として、男と女として話し合うことができる。
だが、過去のエリックの言葉により、ソフィアは心に深く傷を負っている。赦してくれるかどうかはわからないが、やってみるしかない。
と、そんなことを考えていると、僕とセーラは大きな城の門を通され、人がほとんど来ない一番奥の貴賓室に案内された。
華やかな飾りなどはないが、なかなかいい雰囲気の空間。古い木材のいい香り。
「適当に座ってくれ」
古いけど、高そうなソファーを指差しながらソフィアは自分専用のソファーに腰を下ろした。なので、僕らも頷いてから、ソファーに腰をかける。
やがて、王宮メイドがお茶を持っては、ソーサーとコップを置いて、お茶を注ぐ。なかなか洗練された動きに、セーラは穴が開くほど、王宮メイドの動きじっと見つめながら観察していた。ちなみにこのメイドは見た目だと20代後半くらい。それに引き換え、セーラは僕より2歳下の16歳。なのに、過去のエリックからひどい待遇を受けがなら、尽くしてくれた。必ずセーラを幸せにしてみせる。あと、ソフィアも。
「それでは失礼します」
王宮メイドが立ち去り、ドレスに着替えたソフィアは細い指で取っ手を握り、そのままお茶の味を吟味する。
すごく品のある姿だ。
「ここは、私の恩師や親友のために使っているんだ。だから、我が家だと思ってくれ」
「お気遣いありがとうございます。セーラちゃん、いただこう」
「は、はい!」
最初は少し緊張していたが、いつしかここはお茶の香りとデザートの甘い匂いで充満していた。
「ところで、探している人って我が国のものなのか?」
「そうですね……」
ソフィアちゃん……君だよ。
「エリックは何故そのものと仲直りがしたいんだ?」
「過去にひどいことを言って傷つけてしまいました。だから、素直に謝って、その人を幸せにしてあげたいです」
「意外だな。とても優しい君が人を傷つけることを言うなんて……」
「あはは……思い返してみれば、ひどいことをいっぱいやってきたなと最近気付きまして……」
「なるほど。普通なら、自分の誤りに気づいても、プライドのせいで知らないふりをするのが人間の性。なのに、エリックは謝罪するためにわざわざここへやってきた。きっと、そのものも君の優しい心がわかれば、許してくれるだろう」
許してくれるのか……
「ソフィア様がそうおっしゃってくださるなんて……とても嬉しいです」
「本音を言っただけだ……ところで、幸せにするとか言ったが、その相手はもしかして女?」
「そ、そうでございます」
「貴族の中で、エリックみたいに優しい男は滅多にいない。その女が羨ましくなるね」
「ソフィア様……」
ソフィアは寂しい表情を浮かべ遥か彼方を見つめながらお茶を飲む。確かにこの異世界の貴族やらは、優しくない。
自分の権威を振り翳して、女を道具のように扱う。もちろん、そこに愛はなく、優しさもない。王族とてそれは変わらない。過去のエリックはそんな男たちの醜いところを全部付け足したようなひどい人間だった。
だから、
だから、
僕はそんな理不尽なところを変えていきたい。
「ソフィアちゃん」
「うん?」
慣れない呼び方に戸惑うソフィアは僕をみてキョトンとする。そんな可愛い反応を見ながら、僕はポケットから王族であることを示すバッジを見せて、
「君と仲直りがしたいんだ」
追記
さて、どうなるのか……
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