4話 セーラちゃんは駆け引きが上手
数日後
というわけで、僕とセーラはまず、ハルケギニア王国へと向かうべく、いろんな準備をすることにした。
あの3国にとってエリックという存在は、いわばクズ男。だから親衛隊や部下たちを連れて行っても、返って悪い印象を与えるだけだ。なので僕は、王族が着る最上級の服ではなく、どこかの名知らぬ下級貴族の子息が着ていそうな質素な服を取り寄せて、それを着ている。
「どうかな?」
「とてもお似合いでございます!あ!下級貴族がお似合いってわけじゃなくて、エリック様はイケメンですから何着ても全部似合うって意味で……」
「ありがとう」
「えへへ……」
数日間、僕はセーラにずっと優しく接してきたから、だいぶ懐いてくれている。だけど、時折、過去のトラウマを思い出しては、怖がるけど、じっくり時間をかけてセーラを大切にしていけば、いずれ治るだろう。やっぱり人間の心の傷はそう簡単に治らない。
今のセーラはとても明るい。が、やがて何かを思いついたらしく、突然心配そうに僕を見つめてきた。
「あの……エリック様」
「うん?」
「護衛も付けずにエリック様と私の二人きりで行動をしてもいいのでしょうか」
やっぱりそこを心配してくるのか。まあ、ある意味当然のことだ。僕はイラス王国の次期王。普通なら暗殺フラグ真っしぐらだろう。
けど
「大丈夫だよ。僕は絶対暗殺されないから」
「は、はい……」
日本からここに来る途中、謎の存在が僕に告げたのだ。
僕には絶対暗殺されない加護を与えると。つまり、刺客から命を狙われることはない。日本での僕なら、きっとこんな状況にビビったと思うけど、加護が僕を勇気づけてくれている。
「王室が発行した小切手を使ったらすぐ身元が特定されるからな……だったら金貨はこのくらいあれば足りるか……あとは……うん?」
金貨を革製の袋に入れていると、セーラが僕をぼーっと見つめている。
「どうしたんだ?セーラちゃん?」
「あ、す、すみません!」
「別に謝ることはないよ。んで何?」
「……その……昔のエリック様とはだいぶ様子が違って……エリック様があの三人の姫様に謝罪がしたいっておっしゃった時は、本当にびっくりしました」
「ははは……僕がこんな事言えるのってセーラちゃんだけだよ。お父様が恐怖政治を敷くからなかなか素の自分を見せることができなかった。前も言ったけど、これが本当の僕だからね。前にも言ったけど、これからはセーラちゃんを大事にして行くから」
「……(ドキッ)は、はい……」
セーラと会話をしているうちに旅の支度を終えた。お父さんを説得することは中々大変だったけど、これからは、僕は旅人だ。もちろん、王族メイド服じゃなくて、下級貴族に仕える時に着るメイド服を身に纏っているセーラも。
「それじゃ、行こうか、セーラちゃん」
「はい!エリック様」
X X X
僕とセーラは王族しか知らない秘密通路を介して誰にもバレずに宮殿から抜け出すことができた。
そしてしばし歩くと、王都に到着した。オリエント大陸における最大の都市と言われるだけあって、ものすごく賑わっている。
「とりあえず駅馬車に向かおう」
「はい!」
ここには平民もいれば伯爵や公爵といった位の高い貴族もいるため、僕たちは離れたところから見ると、単なるしがない下級貴族とその使用人だ。
食堂、鍛冶屋、工房、服屋など、いろんなお店を見物しながら歩くこと数分。僕たちは駅馬車に到着した。
「お世話様です!ハルケギニア王国行きの馬車はありますか?」
「あ、ハルケギニア王国行きですかい。外国行きは、ここにいる御者と交渉してくださんな」
「わかりました」
僕が駅馬車の受付のおじさんと話をしていると、黒い服を身にまとい黒い帽子を被った御者が近づいてくる。
「そこの貴族の旦那。ハルケギニア王国に行きたいのかい?」
「あ、そうですね」
「私も、ちょうどそこに用事があって、銀貨一枚でどうですかい」
「うん……」
正直、今まで散々贅沢してきたので、ハルケギニア王国まで行くのに正直どれくらいのお金を払えばいいのかわからない。
僕が考えあぐねていると、セーラがいきなりドヤ顔で突っ込んできた。
「銅貨90枚!」
御者さんはセーラの顔を見て、唇を噛み締める。ちなみに銀貨一枚=銅貨100枚である。
そして
「いや、そうはいかん!少なくとも銅貨98枚!」
「銅貨92枚がちょうどいいと思います!」
「ほほ……中々肝の据わったメイドちゃんですな。銅貨97枚!」
「いいえ、高いです!銅貨93枚で手を打ちましょう!」
「銅貨96枚!もう譲れない」
「いいえ、銅貨94じゃないと難しいです!」
「ははは……これはこれは……じゃ95枚でどうよ」
「ふふっ!いいですよ!じゃ銅貨95枚ということで!」
セーラ……意外とこんな駆け引きには強いんだな……僕が呆気に取られたまま口をぽかんと開けていると、セーラが口を開く。
「エリック様、行きましょう!」
「うん!」
僕は笑顔を湛えているセーラちゃんの頭を優しく撫でてやった。
「銅貨5枚浮いたから、セーラちゃんの好きな食べ物とか買ってから馬車に乗ろうね」
「んにゃ……そうしてもいいですか?」
「うん!セーラちゃんが頑張ってくれたおかげで節約できたからね」
「……エリック様……」
「ほほ……旦那、そんなに優しくすると、後で相当苦労するんですぞ」
僕とセーラは、旅行用の乾燥肉や種無しパンなど、長持ちする食材を買ってから馬車に乗り込んだ。
よし。
これからハルケギニア王国へ行き、ソフィアと仲直りして、あの3国同盟をなんとか破らなければならない。
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