3話 姫たちとの結婚が唯一の解決法
朝食を済ませた僕は、部屋から出て、王宮会議室へと向かった。帝王学を学ぶためである。
僕は過去の記憶を参考に、いつものエリックを演じた。だが、過去のエリックは性格が悪く、ことあるごとに他の人に当たり散らかすので、急に優しく接したら怪しまれるから、体調が悪いと言い訳をし、なるべく口数を減らして静かにしていた。
ここでのルーティンは、比較的簡単。さっき言及した帝王学を3時間くらい学んでからは、基本自由時間である。過去のエリックは、この自由時間を利用し、贅沢の限りを尽くしていた。コロセウムという競技場で猛獣と人間を戦わせたり、イラス王国の民らを一ヶ所に集めて煌びやかなパーティを開くなど、まるで、ローマ帝国のネロ皇帝がやるようなことを過去のエリックはやっていた。
もちろん、この王国は裕福だ。だから財政的に問題はないが、この王国を取り巻く環境は悪化しつつある。他国との関係もそして内部事情も。だから今日、お父さんに話してみよう。
そう考えてた僕は、夕食時間がやってくるまで、作戦を練っていた。
そして時間はあっというまに過ぎて、夜となる。お父さんとの食事タイムがやってきたわけである。
なので、今はお父さんであるフィリップ陛下と一緒に広々としたテーブルに座っている。目の前のあるのは、最高級ステーキに野菜、パンなどなど。
二人きりの食事。過去のエリックとお父さんは仲がいいので、素の僕を見せても怪しまれる可能性は低い。
「エリック。今日は奴隷たちがコロセウムで仕留めた水牛を使ったステーキだ。遠慮せずに食え」
「ありがとうございますお父様!ではいただきます!」
と、僕とお父さんは食事を始めた。
「あ、エリック。最近、ヘネシス王国の動きがますます怪しくなってる」
「お父様が王になられてからずっとハルケギニア王国とエルニア王国を味方にし、ここを攻めようとしていますからね」
「ああ。だから、そろそろ、あの三国にはシャインストーンの輸出を制限しようと思っているんだ」
「シャインストーンはここイラス王国でしか発掘されない熱と光を発する魔法石。数えきれない国々がイラス王国からシャインストーンを購入し、夜でも経済活動ができるようにしています。要するに、シャインストーンは経済発展においてなくてはならないもの。輸出制限をかけたら、きっとものすごい反発が予想されます」
「だろうな。だが、国内だろうが、国外だろうが構わない。邪魔なやつは、思い上がるやつは皆殺しにするまでだ」
「交渉をなさる気はございませんか?」
「俺の頭の中に交渉という単語は存在しない。力に物を言わせて、強引に服従させればいいだけの話だ。俺たち以外の人間は所詮道具にすぎない」
「……」
昔のお父様はこんな非情な人間ではなかった。いいお父さんだったのだ。だが、王位をめぐる争いによって、兄弟から命を狙われ、信じていた部下から妻と娘と息子を殺されてからは全くに別人になった。
「お父様、やっぱり戦争はよろしくありません。戦争によってシャインストーンの生産に問題が生じたら、オリエント大陸だけでなく、他の諸外国の経済に大きな打撃を与えることになります。もちろん我が国にもものすごいダメージが……」
「それはわかっている。だから、色々考えている。だけど、このままだと戦争は免れないんだろう」
イラス王国はオリエント大陸の中では一番強い国だ。軍事力ももちろん強いけど、主に経済面で繁栄している王国である。戦争なんかして貿易による経済が止まってしまったら、貴族たちと民らは反発し、お父様への支持率は下がるのだろう。
だからやるべきことは一つ。
ちょっと恥ずかしくはあるけど……
「お父様、僕に妙案がございます」
「ん?妙案?言ってみなさい」
「あの3国は、子宝に恵まれていなくて、王となる男が一人もおりません」
「ああ、ハルケギニア王国もエルニア王国もヘネシス王国も確かに次期王となるものは、どれも一人娘だったはずだ」
「そうでございます。なので、3国の王たちは一人しかいない自分らの娘をとても大切にしていることでしょう」
「うん。そうだね」
「なので……あの三人と僕がもし、結婚したら、戦争はできなくなると思います……」
日本だと重婚は禁止されているので、言うのはちょっと恥ずかしいけど、この際仕方がない。
「ぷふっ!はははははははは!やっぱり我が息子だ。その貪欲なところ、悪くないぞ。全部お前のモノにして、お前の奴隷にするつもりだな」
「あはは……」
奴隷にするつもりは毛頭ない。
「だが、エリック。お前は、この前、あの三人にだいぶ酷いことを言って、思いっきり嫌われていると思うが」
そう。過去のエリックは、3国の姫たちにとんでもないセクハラ発言をした。実は、あの3国が力を合わせているのも、お父さんと俺の強圧的な態度によるものだと言えるだろう。
属国になることを要求し続けるお父さん。侮辱的なセクハラ発言をした昔のエリック。雁字搦めになったこの関係から抜け出すためには、僕があの三人の姫たちと仲直りして結婚するしかない。
だから、僕がこの世界に召喚されたというのか。
「お父様、確かに僕はあの三人に酷いことを言ったのですが、諦めません。僕もお父様に似てて絶対諦めない男ですよ。必ずやあの3国の姫たちと結婚して平和を手にしてご覧に入れます!もし、この件がうまくいけば、全てがお父様の手柄になり、お父様はイラス王国における偉大なる王として記録されることでしょう」
「やっぱり……持つべきは息子か。エリック、お前こそが俺の支えだ。だが、もし、失敗したら、戦争をするしかなくなる」
「はい。それは重々承知しております。なので、ちょっと旅をしてきますね!」
「旅?」
「はい!旅です!」
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