第32話 追跡者の気配とソルトサーモンの親子丼

店に帰ってきてから、セリナさんに厨房使用の許可を得て、ご飯を焚くことにした。

米は前の世界に比べると少し茶色くなっており、米を研ぐのは5回くらいにしてみる。

一回目はかなりの水の濁りだったが、五回まで行くと、濁りも薄くなっていった。

そこから、軽量カップがないので、目分量で水に付けていく。

そして、水につけるのは30分ほど、暇になる。

今のウチにソルトサーモンを焼いて置こう。

そして、ソルトサーモンを弱火で焼いている時にミエがさきほどのあれについて聞いてくる。


 「兄さん、あれってなんのことだったんですか?」

 「・・・今は気配がないからいいか、どうもペディさんのウチから帰ってくる頃から誰かにつけられていたようなんだ。」

 「え、そうなんですか?」

 「ああ、俺も魔力を感じていた。」

 「リムさんもなんですか。」

 「始めはレードさんについているのかと思っていたんだが、観光している時にまた後ろに気配を感じたもんだから、俺達を狙っているとわかったんだ。」

 「でも、手だしはしてこなかったな。」

 「ああ、どうも、俺たちがマルセル商会から出る時には気配が離れていってたから、あの証拠品をどうにかしようとしていたんじゃないか?」

 「ええ!じゃあ、なんでそれを伝えなかったんですか?」

 「この首都のトップに喧嘩を売るようなマネはできないだろうし、高ランク冒険者も近くにいるから大丈夫だろう。お、もう焼き鮭はいいな。」


そんな会話をしているうちに焼き鮭が出来上がる。


 「ミエ、今日は鮭といくらの親子丼にするから、これをほぐしておいてくれ。」

 「あ、はい、わかりました。」


続けて、焼き鮭をつくっていく。

米をつけてから30分、様子を見てみると、水を吸って白くなっているが確認できた。

後はこれを鍋で焚いていく。

まずは蓋をして、中火で加熱していく。

しばらくして、蓋の横から泡がでてきたら、弱火にしておく。

後はたまに蓋をあけて、水がなくなるのを確認して、完全に水がなくなったら、火をとめて、10分蒸らす。

焚きあがったら、木のへらで切るように混ぜていく。

鍋の下部分はほんのりとしたお焦げが出来上がっていた。


後はご飯を器に盛り、その上にほぐした焼き鮭、いくらをのせれば、完成。

本当は酢飯、海苔があればいいんだけど、酢と海苔はあの店にはなかった。

まあ、手がかりは見つかったからいつかワコクまで行こう。


出来上がった親子丼をレードさん達の待っているテーブルに並べる。


 「おまたせしました、ソルトーモンの親子丼です。」

 「親子丼?どういう意味ですか?」

 「私の故郷では親の肉と子供の卵で作った具をご飯に乗せたものを親子丼というんですよ。」

 「へえ、そうなんですか。」

 「じゃあ、いただきます。」


さっそく、久々のご飯を味わう。

焼き鮭については試食の状態で味わった通りにいい塩味、いくらは少し塩辛いがそれに合わせたご飯で緩和されている。

ご飯については少し水っぽいが、思った通りの懐かしいご飯の甘味を感じる。

ああ、やっとご飯が味わえた。


 「あの酒のつまみにしかならないと思ったものが、このご飯と合わせるとちょうどいい味になりますねえ。」

 「腹持ちもいいですし、これは冒険者に売れそうですね。」

 「これがご飯か。いいな。」

 「ふええ。ご飯だああ。」


皆の反応もよさそうだ。

ミエは約15年ぶりのご飯だ、涙まで出ている。

ナイルさんとスミレにもおにぎりを差し入れするし、米の在庫が欲しい。

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