第21話 ◆隠されていたこと

ナイルという名前には覚えがある。

それもそのはず、この国グランバニア王国の第三王子ナイル・グラント。。

なんでも、王族としても意識が低く、貴族には疎まれており、表に出てこないので顔も知られていない。

私の記憶では小さいころにカイル殿下の婚約者として城にきたときに人目見た程度だった。

でも、ナイルとよばれたニールにはこの国の王族達とは違う顔つきであり、ミラさんの虚言でしかないと思う。


 「ナイル?誰ですかそれは?」

 「ごまかさなくてもいですよ、ナイル・グラント様!あなたは公爵家の内偵で従者として潜りこんでいただけなんですよね?」

 「何をバカなことを言っているんですか?」

 「偽装の魔道具を使っていること、公爵家一網打尽にする証拠を集めていたこともわかっています。でも、もういいんだすよ。今日ここで終わりにしましょう。」

 

会場全体がザワザワと慌ただしくなる。

それはそのはず、ここには王家の二人が顔を合わせることになり、ミシェルの断罪だけでなく、公爵家の謀反を明らかにする国を揺るがすほどの大事件に発展したのだから。

そんな中、ミラさんに混乱した様子のカイル殿下が声をかける。


 「なあ、ミラ?あれが俺の弟であるナイルなのか?」

 「はい!いままで、無能を演じて、今日ここで公爵家を告発するために従者として入学したナイル様です。」

 「そうなのか・・・。にしてもよく親族である私をだますほどの変装を見破ったなミラ。」

 「はい、これも私の能力のうちです!」


私の能力ね、前世の記憶があったからでしょうに。

にしてもニールはどのEDでも従者であることしかわからなかったはず・・・。

もしかして、私が死んだ後でシナリオが追加された?

ニールも攻略対象者?

それなら、ミラさんがニールを気にしたもの納得がいく。

これが俗に言うハーレムエンドなのかしら。


 「さあ、後はミシェルさんの断罪すれば、すべて終わります。ナイル様、ご苦労様でした。」

 「よくぞ、公爵家の野望を阻止したな、さすがは俺の弟だ。」

 「殿下の弟がこんなに優秀なら国も安泰だな。」

 「ええ、この国の未来は明るいでしょう。」

 「では、ここで諸悪の根源であるミシェル・ガーデニアを処し、その後、公爵家へと乗り込もうではないか!やれ、シール。」

 「かしこまりました。カイル殿下。」


シールが剣を抜きながら、こちらに歩みより剣を私の頭に突きつける・


 「何か言いたいことは?」

 「この後のことはわかりませんが、国全体が混乱に陥ることになるでしょう。皆さま、お覚悟はできて?」

 「ふん、減らず口を。」


信じていたニールは敵なんだと無言でその場にいるニールを見て悟った。

どうしようもないんだと。

もう、疲れたよ、兄さん。

悪役令嬢は救われないんだね。


 「さあ、断罪の時だ!」


シールが剣を振り上げ、私の首に振り落とす様子がスロー映像のように見える。

今度こそは長く生きたかったなあ。

私はあきらめて目を閉じ、その目からは涙が一筋こぼれた。


 ガキン!


が、首に衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開けるとそこには拘束されていたはずのニールが剣を持って、ニールの一撃をとめていた。


 「な、なに?」

 「どうして!その女を殺せば、エンディングなのに!」

 「エンディング、そんなもの知ったこっちゃない!」


ニールは受け止めていた剣をはじき返しながら言う。


 「ナイル!どういうつもりだ!」

 「どういうつもり?元々、俺はミシェル様の護衛だ。護衛が対象を守るのは当然だろう?」

 「ナイル様、あなたはだまされているのよ!その女は悪女よ?」

 「あんたは何をいっているんだ?

ミシェル様はそんな女じゃねえよ。

一人ぼっちでも運命に抗おうと立ち向かう一人の少女だ。

それをよってたかって、暴力を振るうお前達はなんなんだよ。

それにな、俺はナイル様じゃねえよ。」


ニールは顔に手をかけると顔が外れる。それは一枚の透明なマスクだった。

 

 「は?あなた誰よ?」


そのマスクを外した顔を誰も知らない。

でも、私だけは見覚えがあった。


 「兄さん?」

 「おう、久しぶりだな、ミエ。」


ミエ。その名前は私の前世の名前。


 「な、なんでここに?」

 「なんでって、決まっているだろう。俺がこういう場面に立ち会ったらさ。」


   


前世で見た私を安心させるための笑顔を浮かべて、兄さんは言ったのだった。

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