第71話 帰還とナイルの呼び出し

俺はアイテムリストの中に残っていたポーションをチビチビと飲みながら、町へと帰る。

町に戻ると、東門の前では人だかりが出来ていた。

あれだけの人が森から東門に帰ってきて、しかも出入りの痕跡がないんだから、騒ぎになるのもわかる。

この騒ぎだと城に伝わることになるんだろうか、そこはナイルさんに頑張ってもらおう。

だが、近付いてみると先に帰ったジャンさん達の姿は見えず、いるのは門番の兵士と騎士達のみだった。

声をかけないワケにもいかず、門番らしい兵士に声をかける。

 

 「すいません、通れますか?」

 「ん?君は冒険者かい?」

 「はい、カサネっていいます。」

 「カサネ・・・。ああ、ナイル様の言っていた子か。おーい、誰かナイル様に伝えに行ってくれ、カサネが来たってな。」

 「了解、すぐに行く。」

 

兵士よりも後輩らしい若い兵士が駆け足で近くの建物に入って行く。


 「あの兵士さんはどこの所属なんですか?」

 「ああ、俺達は表面上は王城に雇われているんだが、ナイル様の配下だ。君に不利なことは報告が上がらないはずだから安心したまえ。」

 「それはよかった。あれ?さっきの話だとナイルさんがここにいるんですか?」

 「ああ、事後処理でここに来ているよ。壁に穴があるなんてことの連中に知られるとチクチクと嫌味を言われることになるからな。その前に片づけるつもりなのさ。」


そんな話をしているうちにさきほどの若い兵士が戻ってくる。


 「ナイル様の準備ができましたので、ご案内します。」

 「おう、ご苦労。こちたの処理は適当にしとくから、ナイル様に会いに行ってくれ。」

 「すいません、ありがとうございます。」

 「こちらこそ、住民のためにありがとな。」


お互いにお辞儀をして、そのまま別れ、若い兵士の案内で建物に入る。

建物の中にはテーブルと椅子が4個くらいの兵士の詰所だった場所を臨時で使っていたようで、椅子の一つにナイルさんが座り、その後ろにキリヤが立っていた。

ナイルさんはこちらに気づくと笑顔で迎えてくれた。

 

 「やあ、英雄君。話は聞いてるよ。」

 「英雄ってそんなことないですよ。みんなで勝ち取ったものですから。」

 「謙遜することはないよ。トドメを差したのは君って話じゃないか。」

 「それはそうですが。」

 「にしても勇者達は使い物にならないね、帰ってきたと思ったら、部屋に引き籠もっているらしい。根性ないね。」

 「そういえば、詳しく聞いてませんでしたが、何があったんですか?」」

 「剣が折れて、魔力がなくなってから、某ゾンビ映画のようにあちこち噛まれたらしいよ。まあ、トラウマになるのもわかるが、国の代表になるべき勇者がこれじゃね。」

 「見てる分んはざまあと思いますが、不憫なことですね。」

 「さて、勇者はもうどうでもいいとして、これからの君ことについて話そう。今回の活躍によって、特例で冒険者ランクがBになるよ。おめでとう!」


パチパチと手を叩いて、祝福してくれるナイルさん。手を叩くのをやめると真顔に直る。


 「でも、Bランクになったことは城に伝わってしまう。時間稼ぎえをしたとしても一週間が限度だろう。」

 「城に連れ戻される可能性があるってことですか?」

 「ああ、勇者が使えない今、貴重な戦力だからね、職業を偽って馬車馬のごとく使われるだろう。」

 「それは嫌ですね。」

 「で、前に言っていた外に行くことなんだけどね、ぴったりの依頼が見つかったのさ。」


そういって、懐から一通の手紙を取り出す。


 「それがこれなんだけど、そのために準備が必要になったんだよ。」

 「準備って、大掛かりな依頼なんですか。」

 「ああ、そのための準備なんだけど、君にはうちで訓練を受けてもらうよ。」

 「訓練ですか。なんの訓練ですか。」

 「外に出るために必要なことさ、君には商業ギルドの使いとして、あちらに行ってもらう。」

 

ナイルさんがまた懐からカードを取り出し、渡してくる。

そのカードは冒険者ギルドのカードのようなものだった。


 「これは僕の特権で用意したギルドカード。特権といってもランクはFだけどね。」

 「カードをもらうのはいいですが、ランクってどう上げるんですか?」

 「基本的には売買していれば、ギルドカードに記録されていって、決まった売り上げ金額でランクだ上がることになってるよ。でも、今回はあちらに運ぶ荷物を持って行ってもらうから、それでEに上がる予定だ。」

 「ずいぶん早く上がりますね。」

 「まあ、伊達に副ギルド長やってないからね、重要な荷物なのさ。あ、荷物と一緒に騎獣と荷馬車も渡すからそのまま使うといいよ。騎獣に希望があれば、聞くよ?」

 「うーん、厳選したいので時間をください。」

 「まあ、好みも何も実際に見ないとだね、後日時間をとろう。じゃあ、そんなところで終わろうか。店に行くんだろ?」

 「はい、この後、宴会をする予定です。」

 「そうか、参加したいとこだけど、邪魔しちゃ悪いし、城へのごまかしもしなくちゃいけないから、今回はやめとくよ。」

 「また、後日きてくださいね。」

 「ああ、店の方にも事情を話す必要があるからね。」


必要な話が終わり、そのまま、俺は建物をでて、銀狼の休み処に向かう。

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