第65話 VSリンガ 魔剣、最後のあがき
「があああ!」
右腕を落とされたリンガが絶叫しながら、倒れる。
俺は倒れたリンガが動き出さないか警戒する。
が、リンガは白目をむいており、起きる心配がない。
腕の出血もあり、このままでは死ぬ可能性もある。
俺は目のまえで人が死ぬかもしれない光景をみながら、冷静でいる自分に気が付く。
この世界にきて、ゴブリンの死体を見るまではかなりきつかったのに、俺は慣れてしまった・・・。
嫌な思考になろうとしているとリムがこちらに飛んでくる。
『カサネ、大丈夫か?』
「ああ、大丈夫だ。人質はどうなった?」
『騎士達がゾンビを無力化して、聖女が回復したおかげで全員無事だな。で、こいつはどうする?』
「迷ってはいる。でも、こいつは殺人鬼、このまま死んでもいいと思ってる。」
『そうか。でもな、魔剣だけはちゃんとしとめておけよ。』
リンガから切り離された右腕の魔剣を見やる。
すると、ズルズルと移動していた。
「あの状態でも動けるのか。他の人を操られると厄介だ。どうすればいい?」
『鍔部分についている水晶が奴の核だ。あれを破壊すれば、あいつは終わる。』
「そうか、リムいいのか。同胞みたいなもんだろ?」
『同胞か・・・。寄生虫みたいな奴を同胞と言えるか?』
「言えないな、じゃあ、やるか。」
俺は逆手に持った剣を手にして、魔剣に近付く。
-魔剣side-
最初に自分を自覚したのはいつのことだろうか。剣にはめた時?魔物を倒した時?
主とともに幾多の魔物、人間を相手にしてきた。
主が大型モンスター用に手に入れた大剣を手に入れてからは俺はメインの武器ではなくなっていたが、並みいる敵を打ち倒す主の姿をいつもそばで見れることに歓喜していた。
そんな日常も主が病に陥ったことで崩れていった。
病で体が弱まって行く中、いままで、避けてきた者達が打ち取るチャンスとして幾度となく襲撃を繰り返す。
弱った体では大剣を扱うことができず、俺はまたメインの武器として扱われるようになる。
そのことに喜びを感じるとともに主の弱りゆく体を間近で感じることに途轍もない悲しみを感じた。
その感情に反応したのだろうか、俺はスキルに目覚める。
魔力浸食
これにより、主の体は元気を取り戻していく。
また、主とともに歩んでいける。
そう思っていたが、考えが甘かった。
魔力浸食は諸刃の剣だった。段々と主の心が獣のような獰猛さに支配されていく。生きているものすべてを襲う魔物のような姿をさらしていた。
やめれば、良かったのだろうか。それでも主が生きるにはこうするしかなかった。
英雄と思われていた主は、殺戮者として、追われる日々となる。
過酷な日々にも終わりが訪れる。俺を持っていた右手が切り落とされ、主とのつながりが断たれた。
主は罪人としてつかまり、俺は武器庫へと入れられる。
俺は武器庫に出入りしている者を洗脳し、主の元へと向かおうとする。
だが、手遅れだった。
主は処刑され、その死体はどこぞへと葬られたと聞く。
俺はそれでも主を探しつづけた。
何人も何人も洗脳を繰り返し、町から町へ移動。ようやく、主を見つけたのは疫病でなくなったこの廃村の墓場だった。
主が生前使っていた大剣が突き刺さった墓に嫉妬の感情がわくが、それよりもやっと会えたという歓喜が勝る。
主の体がここにあり、私には魔力浸食がある。なら答えは一つ。
かつての主を取り戻すために、俺はイケニエを求める。
人から人に乗っ取りを繰り返し、今のリンガにたどり着いた。
その結果、あともう少しというところで無様な姿をさらしている。
後ろからは剣を持ち、トドメをさそうとする男が近付いてくる。
そして、俺の本体へとその剣をつきおとす。
が、ここまで来て諦めてやるものか、砕けようとも主の復活を・・・。
-カサネside-
ガキン!
剣を突き落とし、核となる水晶が割れる。
「これで終わりか?」
『ああ、魔力が霧散していくのが見える。直になくなるだろう。』
「そうか、後はあの魔石の山かな?イケニエってなんだったんだろうか。」
『ろくなもんじゃなさそうだな。』
その時、俺達に影が差す。
影に気が付き、後ろを向くと血を垂れ流すリンガが立ち上がっていた。
「こいつ、まだ動けるのか!?」
『いや、目を見てみろ。ほとんどゾンビみたいなもんだぞ。って来るぞ!』
リンガが腰を屈め、こちらに最速で突撃してくる。
俺は剣で迎撃するが、切られたのを気にせず、そのまま、俺の脇を通りすぎていく。
「逃げ出すのか?」
『いや、あれを見ろ、左手に魔剣の水晶がある!』
リンガは左手で水晶のかけらを取り、そのまま魔石の山に突っ込んでいく。
魔石の山に当たり、リンガの血が魔石に飛び散り、そのまま、崩れ降りていく。
「なんだったんだ?」
『っこれは、カサネ、魔石から魔力があふれてきている、気を付けろ!』
魔石の山から黒い光が出始め、辺りを照らし、地面が揺れ始める。
「今度は地震か!?」
地震かと思う揺れに驚愕している中、目のまえの大剣が刺さっている墓が盛り上がる。
ボコッ!
そこからは人間のサイズよりも大きな手がつき出てきた。
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