第59話 ※スミレside 廃村の先へと
スミレは勇者と違い、護衛のいうことを聞き、慎重に進んでいた。
スミレは護衛の人間が城の人間のように自分を道具のように思っていると考えていたが、その正体はカサネの願いによって、配置されたナイル派の騎士であった。
聖女護衛を第一とし、勇者は違和感を感じさせない程度に守るといった体勢であった。
また、護衛自身も聖女が貪欲に訓練をする姿に任務を別としてもいい感情を持っていた。
一行の団結は固く、森を無事抜けるところまできた。すると、森を抜ける手前で先行していた斥候の報告が入る
「この先でゾンビの群れが勇者一行と戦闘中の模様です。」
「報告ありがとうございます。援護した方がいいですか?」
「今は優勢のようですが、段々と均衡が崩れてきています。援護の必要があります。」
「そうですか、では援護に参りましょう。ゾンビには神聖魔法が有効でしたね?」
「は、初級の魔法でもゾンビを鈍らせることもでき、怪我人の治療もできます。」
「では、詠唱しつつ、進みますので、護衛をよろしくおねがいします、」
「は!」
魔法は声に出すことなく発動はできるが、詠唱を合わせることで威力を上げ、魔力消費を軽くすることができる。
短期戦なら即発動、長期戦なら詠唱をするべきと魔法指導を受ける。
が、勇者達は指導を受けなかった。その違いを理解する場になったのはここであった。
護衛はスミレを囲むように陣形を変え、勇者達のいると思われる方向へ進む。
そして、駆け付けたことには勇者の剣は折れ、ゾンビにリンチされることで半狂乱に神聖魔法を全方向に放っていた。
その神聖魔法の影響で周りの味方が被害を受け、そこをゾンビにつけこまれていた。
スミレはその状況を見て焦って、詠唱が崩れそうになる。
そこで護衛がスミレの肩を叩く。
「聖女様、落ち着かれてください。」
「ですが、皆さんが。」
「見たところ、致命傷を負っているものはおりません。魔法さえ発動してしまえば、形勢逆転できます。」
スミレは護衛の真剣な瞳を見て、信じ詠唱を完成させる。
「ホーリーカバー。」
魔法が発動するとスミレを中心として、光が広がっていく。
光が触れたゾンビは動きが緩慢となり、怪我人の傷が癒えていく。
そこにスミレの護衛が切り込み、勇者達を救出していく。
「大丈夫ですか、皆さん。」
ここでスミレが合流。近くにいるゾンビを無力化していき、一端、森まで撤退することになる。
森まで来るとゾンビ達は追ってこなかった。
やっと息をつくことができた。
全体の状態を見ると、怪我人はある程度の傷は治り、動ける状態ではあったが、勇者を含め、ほとんどの人間はゾンビにやられたショックでガタガタと震えていた。
「どうしましょう、聖女様。」
「ここまではゾンビが来ないところを見るとここは安全なのでしょうか?」
「いえ、そう楽観的には考えられません。おそらくゾンビを操っているのは魔剣の持ち主でしょう。今はまだ攻めてきませんが、いつか王都へゾンビが押し寄せてくる可能性があります。」
「となると、魔剣をどうにかしないといけないと、魔剣のある場所は検討がつきますか?」
「あのゾンビの数を見るに廃村の奥が怪しいと思われます。廃村の奥には墓場があったはずです。」
「墓場ですか、とにかくそこまでいくしかありませんね。」
目標が決まったところで行こうとすると勇者達が否定の声を出す。
「お、俺は嫌だ!ゾンビって噛まれると感染するんだろ?はやく治療しないと!?」
「ゾンビの仲間になるのなんて嫌よ。はやく王都に帰りましょう!」
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
勇者達三人はもう使い物にならず、騎士達もおびえてこれでは一緒に連れていけない。
「仕方ありません、私たちだけで行くしかありませんね。」
「廃村を迂回するルートで少しずつ進みましょうか?」
「力は温存したいですからね。ん?ゾンビの動きがおかしくありませんか?」
廃村の入口でうろうろしていたゾンビ達が廃村奥へと移動していくのが見える。
「廃村の奥へと移動していますね、何かあったんでしょうか。」
「他の誰かが墓場に侵入した?」
「とにかく、ゾンビがいないうちに移動しましょう。すいませんが、そこの騎士の方々は勇者様達を安全を確保してください。」
そうして、勇者達は王都へ、スミレ達は廃村の奥へと向かう。
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