第58話 ※勇者side 廃村のゾンビ

銀狼の休み処にいる冒険者達が動き出した頃、勇者一行は東門から出て、森の前に来ていた。


 「で、ここに例の剣を持った奴がいるのか?」

 「暗部の報告ではこの森に潜伏しているとのことです。」

 「そうか、なら行くぞ。」

 「お待ちください、今、斥候が先行しますので。」

 「いや、待てない!はやく、俺の魔剣を取り戻さないとな!」

 「それにはやく、切ってみたいしね。」

 「私は燃やしたい。」


まるで狂犬のような勇者達はお預けされるのを嫌い、森に進んでいく。なんとかお供の騎士達は斥候に急げを命令しつつ、勇者の後に続く。

森の中は妙に静かだった。魔物、生きものの気配さえない。


 「勇者様、お気をつけください。この先に生きものの気配がしません。」

 「ん?俺達が強いから、逃げたんじゃないか?」

 「そうよ、はやく切りたいのに弱虫ねえ。」 

 「丸焼き・・・。」


何も出てこないことに苛つきがどんどん増していく勇者達。

それをフォローしつつ、続く騎士達は嫌な予感にとらわれる。何か恐ろしいものが待っていると。


 「失礼いたします。この先からは廃村になっております。今のところ、何もないですが、十分にお気をつけください。」


先行していた斥候が最低限の偵察を終え、勇者に伝える。


 「廃村?いるとしてもゴブリンとかザコモンスターだろ、気にするだけ無駄だって。」

 「私達にかかれば、一瞬よ、一瞬。」

 「塵も残らない・・・。」


やっと敵がいると思い、その足ははやくなる。ドンドンと進んでいき、森を抜けるとそこは報告通りの廃村だった。


 「なんかホラーっぽいな。」

 「建物からなんか出そうね。銃が欲しくなっちゃう。」

 「ヘッドショット狙おう。」


特に警戒することもなく、勇者達は廃村の中に踏み込む。

最初の家を通り過ぎようした時、それは影から出てきた。

タクヤは慌てず、腰にある剣を抜き、影を切り捨てる。

切り裂かれたものが、倒れ、正体があらわになる。

それは全身が青白くなった人間の男だった。


 「なんだこいつ?」

 「それはゾンビでございます!頭をつぶさない限り死ぬことはありません。」


騎士は勇者にゾンビの特徴をいい、頭に剣を突き立て、頭をつぶした。


 「へえ、じゃあ切り放題というワケだ。」

 「ボーナスゲームね、なんなら競争する?」

 「一位はもらう。」

 「おう、そうだな。ビリなら後で罰ゲームといくか。」


一体を倒したのが合図だったかのように廃村の影という影からゾンビが現れた。

それを勇者達は切り伏せ、神聖魔法で浄化、属性魔法で潰したりと虐殺のように倒していった。

騎士達はその様子を見て、歓喜した。いつも自分達をいびる勇者達の本当の雄姿を見たと。

だが、そうした気持ちも続く戦いにどんどんとなくなっていく。

いつまでも出てくるゾンビ。削れる体力と魔力。

ふと力が抜けた騎士が餌食になる。気づいたときには腕をゾンビにかまれていた。


 「うわああああ!?」

 「くそ!こいつ!?」


近くにいた騎士がゾンビを引きはがし、ころんだところを足で頭を踏みつぶす。

その行動から陣形が崩れ、ゾンビの攻撃をまともにくらうようになり、騎士達は総崩れとなる。

そして、騎士達の援護もない状態になった勇者達にも変化がでてくる。


 キン!


タクヤの持っている剣が折れた。


 「は?」


剣の折れた理由、それは勇者の力そのものが原因だった。タクヤは修練もせずに剣を握れば、無敵ともいえる腕前であった。

だが、それは剣の強度を考ない場合のみだった。つねに無意識で全力を出していた剣技に剣が悲鳴をあげた。

そして、スキルに頼っていた剣が失われた勇者は・・・。


 「うわああ!」


剣がなくなった瞬間、スキルの恩恵がなくなり、高校生程度の動きしかできなくなった。

そこに集中するゾンビ。あっという間にゾンビに噛まれ、引き裂かれる。が、勇者のステータスでは細かい傷しかつかない。が、心は別だった。

先ほどの高揚感もなくなり、半狂乱で神聖魔法を使う。それによって、周りのゾンビは倒せたが、その余波が他の者へと向かう。


 「きゃっ!きゃああああ!」

 「な、何!?コレ!」


飛び散ったゾンビ破片がミサキ、マホに向かう。全身にゾンビの破片がぶつかった二人もまたパニックに陥る。

剣聖の剣はでたらめに振り回され、地面に接触、折れてしまう。

賢者は魔力が暴走し、炎水土風の魔法が辺りに降り注ぎ、魔力を使い切ったマホが気を失ってしまう。

タクヤもまた魔力を使い切ってしまい、ゾンビの攻撃をただ、耐えることしかできなくなっていた。

あわや、全滅かと思った時、光が辺りに降り注ぎ、ゾンビの動きが鈍くなり、味方の傷が癒えていく。


 「大丈夫ですか、皆さん。」


そこに駆けこんできたのは数名の騎士を連れた聖女スミレだった。


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