第50話 ※王side 魔剣紛失報告

責任者である教会の司教は焦っていた。

保管していたはずの魔剣がなくなり、鍵の保管をしていた男がミイラ状態で見つかったのだ。

焦っていた理由はこの国の王から魔剣を勇者に与えるべく、教会にて保管せよと前金を受け取っていたからだ。

魔剣の受け取りは明日の予定にあり、それを紛失してしまったとなれば、自分は王に殺されるか、教会の上層部に破門を言い渡され、路頭に迷うことになるだろうと。

すぐさま、この近辺の目撃証言を部下達に指示し、唯一得られた情報は指名手配犯であるリンガが教会の中から出てきたという証言だった。

リンガは高価なものを欲し、厳重な警備の中にでも入り込み、見られたものには問答無用で殺し、すぐさま出ていくので、遠目からの目撃証言ほどしかなかった凶悪犯。

だが、今回は教会から堂々と出てくるのを近所の男が目撃している。

今回に限って、なぜそんなミスを犯したのかはわからないが、魔剣を持ち去ったのはこの男に間違いないと思われた。

司教はこの男のせいであると王に報告し、前金も盗まれたことにすれば、いいのではないかと企てる。


司教はそのことを報告すべく、城へと赴く。

緊急連絡と兵士に告げ、王の間へと向かう。

 

 「王、ご無沙汰しております。」

 「おお、司教か。魔剣の納品は明日のはずであったがどうした?」

 「それが魔剣が盗まれました。」

 「なんだと!?」

 「申し訳ありません、鍵を管理していた者が昨晩、死体で発見され、他に盗まれたものがないかと調査すると。王からの献上金もなくなっていたのでございます。」

 「金もだと、では、その金の存在を知っていたものが怪しいではないか、司教よ?」


王の視線は司教に止まる。司教が魔剣を渡すのをしぶり、そんなことを言っているのであろうと。


 「い、いえ、そうではありません。今回の犯人は特定されております。あのリンガでございます。」

 「何、あのリンガじゃと!」


リンガのことはこの国の貴族であれば誰でも知っている。なぜならば、リンガの標的が金銀財宝であることから、貴族が狙われることが多く、大半の貴族はリンガ対策のために自衛費をつぎ込んでいたからだ。


 「どこからか情報が漏れていたと?」

 「そうでなければ、教会に強盗に入るなどしませんでしょう。」

 「そうなるとどうするか?」

 「失礼いたします。私に提案があるのですが。」

 「宰相、それはなんじゃ?」

 

沈黙を保っていた宰相が声を上げる。

 

 「勇者達にまかせてみてはどうでしょう?」

 「勇者にか。元々、勇者に与えるつもりではいたが。」

 「今、勇者達は強く、訓練の必要もないほどで、部屋にこもっております。どうにか外へだそうにも騎士達では太刀打ちできず、どうしようもありません。ですが、今回、魔剣が盗まれました。勇者へ与えるものをです。あの勇者は自分のものになるものを盗られるのを見過ごすでしょうか?」

 「ふむ、あの勇者なら怒るであろうな。」

 「はい、後は少し誘導してしまえば・・・。」

 「思い通りになると。」

 「さようにございます。」

 「では、そのように通達せよ、宰相頼めるか。」

 「ははっ!」


その様子を見て、静かに事の成り行きを見ていた司祭は二人に見えないようにニヤリと笑った。


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