第10話 パン粥と涙
「ありがとうね、シャル。あら、あなたは?」
「始めまして、俺はカサネ。お試しでここで働かせてもらっています。」
「そうなのね、あ、私はシルビア。この度はご迷惑をおかけします。」
「いえ、俺も行き場がなくて困っていましたから。」
シルビアさんの様子を見るに、このスープを平らげるほどに食べてるとは思えないなあと考えながら、ベット脇の机に置く。
「とにかく、お母さんはこのスープ飲んで早く治そうね。」
「そうね、じゃあ、いただくわ。」
置かれたスープをゆっくりと口にするシルビア。具材も口にするがあまり咀嚼できないようだ。
「ちょっといいかな?」
「?なんです、カサネさん?」
「料理ってつくっていいかな?」
「え、料理ですか?今の時間ならお父さんに頼めば大丈夫だと思います。」
「そうか、ちょっといってくるよ。」
そういうと俺は部屋からでて、ジャンさんに許可をもらうことにした。
「ジャンさん、少しいいですか?」
「シルビアになんかあったか?」
「今、料理を持っていったんですが、あまり食べれないようなので、食べやすいものをつくろうと思いまして。」
「食べやすいものか、どんなやつだ?」
「ミルクとパン、さきほどのスープを使ってパン粥を作ろうと思います。」
「パン粥?」
「とにかく作ってみますね。」
まず、パン、パンは固めの黒パンしかなかったので外の部分は落とし、細かくしてから水とともに煮る。柔らかくなったら、ミルクとスープを様子をみながら少量ずつ加えて、ひと煮立ち。
「こんな感じですかね。」
「味を見てもいいか?」
「どうぞ、奥さんの食べるんですから確認しないといけませんしね。」
「ふむ、薄味でパンのおかげでほんのりと甘いな。」
「主に離乳食で作られるものなので、こういう味なんですよ、病気にかかっている時はこれがいいんですよ。じゃあ、持っていきますね。」
「ああ、頼んだ。」
俺はお椀一杯分のパン粥をもって、再び、シルビアさんのもとに向かい、ノックする。
「お腹にいいものを持ってきました。」
「お腹にいいものですか?今、開けます。」
「で、これがそのパン粥です。ジャンさんにも食べてもらってる許可をもらったよ」
「ありがとうございます、カサネさん。じゃあ、お母さんどうぞ。」
「あ、おいしい。」
「よかった、お母さん。」
食べる様子をみてみると先ほどよりは食が進んでいるようで、目の前に親子が笑っている光景がある。
「私も後でもらっていいですか?カサネさん・・。ってあれ、カサネさん、それ・・・。」
「それって、え!?」
頬になにかが伝う。これは涙?なんで、涙が?あ、そうだこの光景は・・・。
元の世界にいた時、俺は妹の病室によくお菓子を作って差し入れしていた。お菓子を食べて「おいしい。」と笑っていて、俺もそれで元気をもらっていた。
ああ、俺はまたこの光景を見てかったんだな。妹がなくなった時に泣いたきりだった涙がどんどんあふれてくる。たまらなくなり、その場で膝をつきかがんでいると背中に暖かい感触がくる。
「泣きたいなら泣いていいんですよ、それも自由ですから。」
静かなシャルちゃんの声が身にしみるようだった。そこからはもう涙が枯れるほどに泣いた気がする。
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