Chapter15「流星」


「あれは・・・」


ジン=ザンテツから見えた弟子の覚醒に目を疑った。

生命を感じさせる光・・・それは、聖樹の加護と同じようで、何か違う。


それに前例にない事態だ。

元々授かった加護が、全く違う異能に覚醒する。そんな事は今まで有り得なかったはず。


「ルフト・・・お前はやはり・・・」


ジンの脳裏にある古傷が刺激される。

これまでのうのうと、あの日の少年に剣を教えた罪が、今になって痛みとして現れた。


あの日の少年が、騎士を目指して自身の指導を真っ直ぐに受ける姿に、罪悪感を覚えながら救いと感じていた自身の心。

なんて浅ましくて、そして愚かなことか。


「───"最果ての星"は、お前を選んでしまったのだな」


青い輝きに目を焼かれこの先にある避けられぬ運命を思い、ジンは悲痛な顔でルフトを見ていることしか出来なかった。








「来たのね、アレが」


宮殿にて、教皇の執務室にいたメイビスは窓の外を睨む。

遠くに見える青く輝く光の柱。

あれには生命が詰まっていると、本能から感じ取れる。


そして向こうにいるのはルフトだと知っている。

ルフトはやはり、最果ての星を呼ぶ器だったのだと確信した。


「遂に、呼んだか・・・ようこそ、"最果ての星"。おめでとう、ルフト=ホシツキ。

やはり運命は君を生贄に選んだ。

君の犠牲は、無駄にはしない。

輝く明日を担う、輝きを繋ぐ男になれるのだ」


カリストは手を広げ、歌い上げる。

それは表裏の無い賞賛だった。


そして────


「ルフト・・・やはりお前こそが運命。

そしてその運命で勝ち取るのは、俺だ。

・・・彼女を救うため、俺はお前から奪おう────許せとは、言わない」


デイビッドは内にある激情を閉じ込めて、拳を握りしめる。

たった一人が為に、無双の神剣は外を睨む。



各々が望む希望への歩みは、本格的なものとなる。

カリストとメイビス、そしてデイビッドは運命の瞬間をまずは見届けることにした。











「天来せよ、我が守護星───遥かな宇宙そらへ祈りを込めて」


紡ぐ詠唱は、俺の身体に命を灯した。

感じるのは星の生命。

聖樹から感じる加護とは似て非なる力が漲ってゆく。


「蝋を灯す焔は尽きて地へ這い蹲る罪人は、遂ぞ己が足で立つことは叶わない


ああ、何たる脆弱か───希望と明日は燃え尽きる」


あの日の君を守れない弱さ。俺の弱さに、何度嘆いたか分からない。

ああ、けれど


『泣かないで、どうか過去うしろに振り向いて


あの日の私は救われた

果てなき放浪の果てに現在いまようやく、宇宙キミに還ってきたのだから』


あの日の少女は・・・いいや、アステルは。

脳裏で青い髪を靡かせて、再会の微笑みを浮かべて抱きしめた。

それが夢想ではないのだと、俺を満たす生命が証明する。


「ならば往こう、君の想いで君を守る」

『ならば見守ろう、私の想いでキミを守る』


お互いが、君を守ると誓う。

ようやく繋がった心は、無限の星光を生みだした。


「『───そして、約束した未来あしたへ飛ぼう

果てなき星々を、見上げるために』」


完遂した詠唱。

そして宿した星光の名を、いま告げよう。


「『極晃星スフィアノヴァ───繋がる境界線に響かせて・流星之型ハウリング・スター・ホライゾン』」


────さあ、流れ星となって皆を救おう。

果てなき旅路となる覚悟を胸に、俺は光を纏って飛翔する。


発現した能力は、星の生命エネルギーの具現。

自分自身を特異点としてそのエネルギーを自在に操り、攻撃や防御、果ては飛翔や加速などが可能となる万能型。


眼前の新たな怪物、バイザーを付けた氷姫は俺に向けて暴風を向けた。

無数に飛び交う瓦礫と氷塊、それらを飛行しながら回避しつつ、掠める物質は俺が纏う星の生命が浄化する。


動揺の姿を再現する氷姫に向け、星光を纏った剣を振り抜いた。

胴を斬り、そのまま二の太刀で首を切り払った。


使い方は煉獄の翼よ、蒼穹を舞え・炎翼之型サン・ブレイズ・オーバーライザーとほぼ同じ。

培った経験で初めて使う能力ながらも、まるで一心同体かのように操れる。


炎のように瞬間的な力は出せないが、安定性は遥かにこの光が上回る。

多少の無茶は、アステルが与える力で補填する。無駄な消耗は全く発生しない。

常に生命が満ち溢れ、身体は軽い。

さっきまでの不調が嘘のようだ。


前へ、前へ───命を共に前へ往こう。

無理や無謀を共に挑もう

道理を理解し、そして受け止めよう。

みんなを守り共に前へ歩めば、未来は必ず訪れる。


「悪意に支配された怪物ども───お前たちは、此処で眠れ」


よって、残りは俺たちの舞台。

青い星光は剣先に集う。

そう、この力は切り裂くだけではなく砲撃としても使われる。

そして、生命に溢れた星光は残った人型の怪物を薙ぎ払った。


『そう、眠って。怨霊の祈り。

君の無念も、私が救うから』


同調するアステルの願い。

同調を重ねれば重ねるほど、その輝きは増していく。


『私が出逢えた宇宙そらで、今度こそ私の役割を果たせるから』


この運命で、悲しみと怒りに満ちた島国を塗り替えよう。

全貌はまだ見えないが、その使命をハッキリと感じた俺たち。

今は、哀れな悪意を祓うのだ。









ハジの村は、救われた。

あの日に見た少年のうちにある悪夢と似た光景。

それを今度は・・・ようやくルフトアステルで、この窮地を救ってみせた。


だがこれが、運命が本当に回り始めた瞬間だったのだと・・・この時のルフトは知る由もなかった。




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