Chapter14 「蘇る星光」
「早く!みんな宮殿の方面へ!」
「ルフトさん!ルフトさんも・・・無理、しないで!」
ハジの村の結界は破られた。
また修復されるまで、住人は避難。騎士がこれ以上侵入による被害が広がらぬよう踏みとどまるのが役目であるのだが。
今のルフトは剣に加護があるだけの人間。
その役目を一人でこなすのは、誰が見ても無茶であった。
だから当然、ルイはルフトに向けて叫ぶもののルフトはそれに頷けない。
先程の会話があったにも関わらず、今もなお役割を果たそうとするのは、やはり芯まで"誰かのために"と考えてしまっているからだろう。
その在り方は、そうそう変えられない。
「くっ・・・!」
そして怪物に立ち向かう剣は、一応の傷はつくものの致命傷まで至らない。
単純に、進化し続けている怪物にその程度の加護では余程の絶技でも無ければ斬り裂けない。
ルフトは確かに一流と呼べる位には剣技を持つが、大型の獣を狩るには不十分。
熊の怪物による猛攻を、抑えるだけで精一杯だった。
更に
『ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか』
『心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の牙さえ神を討つには至らぬのか』
「っ、こいつら・・・!」
以前戦った自爆特攻を行う人型までもが進撃する。
今のルフトに炎は使えない。
一度は圧倒してしてみせたが、その前提となる炎が無ければ無力。
そして熊型と戦う間に距離を詰められて、襲いかかる人型にルフトはもはや手は無く
「すまないルフト。遅くなってしまった」
瞬間、熊型と人型の首が飛んだ。
目の前で披露された剣閃、それに見覚えがないなどと言わせない。
顔に深い傷跡のある初老の男。
それはルフトの師────ジン=ザンテツだった。
「師匠!」
「無事なら良し。かなり参っているようだが、生きているなら良かった」
安堵するジンは、その感情をそのままに僅かな笑みを浮かべる。
だがそう言っているうちに、また人型の怪物たちが湧いて取り囲んでくる。
二人のやり取りをするには、今は状況が悪すぎる。
「時を稼げ、ルフト。俺が切り伏せる」
「はい!」
瞬間、疾駆するジン。
ジンが狙う怪物以外を引き寄せ、時を稼ぎ始める弟子を見ながら、自身の刀剣の柄を握りしめる。
光弾を放つ怪物。だが、その銃撃が捉えたのはジンの残像のみであり、
地を這うように疾走しながら、剣士は必殺の瞬間を逃すことなく、的確に無慈悲に、斬首の刃を振り下ろす。
左へ右へ、風の如く不規則に。
されど時には迅雷と化し、恐るべき緩急をつけながら。
迫り来る砲撃を紙一重で躱しつつ、接近と離脱を繰り返す。
十対一という圧倒的不利な状況を怜悧な瞳で見切り、予測し、理解して──
距離を詰めた刹那、今度は二つ・・・魔法のように首が飛んだ。
その光景はあまりに異様。
素の身体能力ならば、最弱は紛れもなくジンだろう。
しかし現実はご覧の通り、もっとも戦果を弾き出したのは他ならぬジンだった。
「───安心できるな、お前達は。
速く、強く、頑丈で、だがそれだけだ。獣と変わらん。荒唐無稽な異能がない。ならば後は仕留めることなど容易いものだ」
真に恐れるのは強力な異能。
それを持たぬジン=ザンテツは時代遅れと自称する。
手が二つ、足が二つ、そこに武器と装備が幾つか、そして鍛え上げてきた技。
それのみが己の持てる全てであり、慮外の異能の前では、容易く蹂躙されてしまうと感じる今、ジン=ザンテツという男は、卓抜した剣の冴えを持ちながらも、どこまでも自分自身に対して匙を投げ、諦観に身を委ねている。
『
「っ、なに・・・!」
その証明は、いまこの瞬間に訪れた。
バイザーをつけた美女、ピリオドの姿を象った悪意の怪物は、暴風と共に現れた。
「くっ・・・!」
「師匠!」
同時に風に乗って荒れ狂う氷塊。
それを捌ける身体能力が足りていないジンは、先程まで言っていた優位が一気に傾く。
ジン達は知るよしも無いが、ピリオドは黄金獅子に仕えていた使徒の中でもそう強くない部類で居ながら、発現した能力は徹底した格下殺し。
オリジナルには及ばないものの、それを再現してみせているピリオドに、ジンは対抗手段を失った。
「師匠!」
「来るな、ルフト!くっ」
直ぐに駆け寄ろうとするルフトだったが、ジンの言葉に足が止まる。
瞬間、ルフトの目の前に氷塊が掠めていった。
「ぁ・・・」
一瞬で、足が震えたのを自覚した。
怖い。
あの殺人的な暴風域に足を踏み入れたくない。
踏み入れ、戦える業火の翼がないルフトは・・・もはや、剣を持っているだけのただの人間だから。
「ぐっ、出鱈目な事をしてくれる・・・!」
だが、そうしているうちに視界にはその暴風による瓦礫の氷塊に徐々に削られていく己の師が映る。
『・・・ルフト』
加えて、頭に響く少女の声。
己のトラウマが、一気に掘り起こされる。
火災、血、肉塊、真っ赤に染まったあの日の光景が、ルフトの脳裏で再生される。
「・・・同じだ」
あの日のままのルフトから、なにも前に進んでいない。
そう感じてしまうほど、無力感に支配される。
太陽に向かう
『私を視て、ルフト』
そしてより一層、近づいてきた声。
違う、違う。
ルフトは、今度こそ君を守ると誓っている。
そんなルフトが、少女の手を取れるはずもない。
「・・・ぁ」
これまでは、そうだった。
【俺が望むのは、傷つきながらでも、間違いながらでも、誰かと一緒に手を取りあって歩み続けることなんだよ】
友の言葉を、思い出す。
そしてその言葉で少し晴れた脳内で、少女とあの日の光景が繋がってゆく。
「ああ、そうか────」
そうだ。
俺があの日、あの時に逃がした君は・・・いま語りかけている君だったというのか。
『今度は、私が守る』
────違う、俺が君を守る。
だけど、その為に必要な力が君にあるというのなら。
「────俺に、力を」
『───キミに、想いを』
繋がる意識。明瞭に映る君に、ようやく俺は再会を果たして────
「『─────今度こそ、君を守るんだ』」
「─────」
俺を中心に天を衝く光の柱、それは青く輝いていた。
身体に力が漲るのが分かる。
生命が、これからだと息吹を取り戻す。
それに反応した怪物はこちらを見て、師匠への攻撃が止まった。
まるで、ようやく見つけた獲物を見るようで異様な雰囲気だが────関係ない。
「・・・行こう、アステル」
ようやく思い出した、あの日に逃がした少女の名前を唱え、手を天に掲げる。
「天来せよ、我が守護星───遥かな
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