Chapter9「遠征準備」
「という訳で、色々怪しいんだよね」
デイビッドたちについて行き、潜入捜査を決行してから一週間。
毎日偵察に行った結果、色々と聖域内部を探ってみると少しずつ裏の顔が見えてきたし、逆にわからないことが増えている。
それを聞かされている士郎たちはというと。
「「・・・」」
呆れていた。何と危なっかしいことをしてくれたのか、と。
当の本人はケロッとしてまるで懲りた様子がないのが、なんとも言えない。
「でも流石に聖域付近は守りが強すぎて無理だったね。
と、なんとかギリギリ踏みとどまるだけの頭はあるようで安心した。
とはいえ、恐らくは今後も潜入捜査はするのだろうが。
「・・・で、何が分かったんだ?」
「そうだねぇ。まず結論から言うと、ルフト=ホシツキは"最果ての星"との繋がりが予測されてて、それを巡って暗躍が起きてる・・・かな」
「最果ての星・・・ああ、そういえば誰も観測出来たことがなかったんだっけ?」
クリスティアは頷く。
前提として存在は認知されているが、誰かがその姿を確認できた情報は何一つない。
カミシロはそれを求めている国というおさらいをした上で、まとめた書類を机に置く。
「聖樹周り以外は何とか探りを入れられたから、それを共有するよ。
といっても、あっちさ何がしたいのかまだ読めないんだけどさ」
クリスティアの情報提供が開始される。
元軍人である士郎と鈴は若干の懐かしさを感じながら、クリスティアの話を聞くのだった。
クリスティアからの話で分かったこと。
"最果ての星"に関係がある可能性の高いルフト=ホシツキは、教皇から厚遇されていること。
教皇の騎士団長は親子であり、ギリシャからの逃亡者メイビスと共に何かしらの暗躍をしていること。
ルフトが聖樹からの加護により使っている火炎発生能力が本当に加護によるものか?疑わしいこと。
能力を使ったルフトは、まるでレイゴルトのような口調になって際限なく強くなるが、似合わないという感想が出ること。
聖樹の遣いが二人いて、この二人も暗躍に関わりがあるとのこと。
加護と呪いは年々強化されているとのこと。
悪意の怪物は、加護がない武器では全身消し飛ばすつもりでないと倒せないこと。
「なるほどな。教皇を頭として、表向きは今まで通り最果ての星を求めているが、裏では違うと?」
「案外、最果ての星を目標としてるのは変わらないかも。そのプラスアルファで、何かやってるとか?」
「有り得るな。まぁクリスティアでも分からないなら、これ以上は考察のしようがないが」
「流石にそこまではお手上げだったよ」
士郎と鈴が考えうる可能性を考察するが、今はまだなんの糸口もない。
そこで士郎は狼の姿になっているブランに視線を向ける。
「お前はどう思う」
一つ、ブランの観察眼に頼ってみることにした。
ブランもクリスティアと共に
「・・・さっき教皇って人が頭、て言ってたけど。たぶん違うよ」
「どういう意味だ?」
少年の姿になって、ブランは淡々と思ったことを言う。
「一番強いのはデイビッドって人。クリスティアがルフトに着いて行った間に、教皇の部屋に入ったんだ」
「いつの間に・・・」
クリスティアは絶句した。
一人で彷徨いて聖域内に入った途端に教皇のいる場所まで行くとは、これまた肝が座りきっている。
【胸を張るがいい、
「中心はデイビッド、て考えてるよ。あの人。教皇って人は、あくまで作戦考えてる感じ」
「待て、いま
「言ったけど。どうしたの?」
「・・・そいつはギリシャ神話に出てくる登場人物だ。手がかりが増えたぞ」
「・・・ブラン、テレパシーで送り忘れたでしょ。今度は些細なことでも伝えてね」
「ごめん」
ブランの犬耳が少し垂れた気がした。
表情に変化はないが、反省はしているらしい。
もしくはクリスティアに注意されたのが、少し落ち込んだのか。
何にせよ、話が少し進む。
イカロスは簡単に言えば蝋で作った翼で飛べるが、飛びすぎて太陽に溶かされ落ちて死ぬという話。
「でも、あたしが見る限りそんな傲慢な人じゃ無かったし、多分意味合いは違う」
「それが、あくまで自分の命を蝋を溶かすように燃やして強くなることか、それか本当にギリシャ由来の能力なのか・・・或いは、両方か」
「どっちにしたって、ルフト自身の秘密があるかもね」
聞いた三人はそれぞれの考えを出す。
答えは情報の少なさから出ないが、いずれにせよ役に立ちそうな情報なことには違いない。
「危なっかしいけど、よく聞けたなぁ。反省はあるけど、それはとしてよくやったよ」
「役に立てるならよかったよ」
((犬だ・・・))
クリスティアがブランの頭をぽんぽん、とするとブランは小さくしっぽを降る。
本人の名誉の為に士郎たちは黙っておいたが、これにてブランの印象は大きく和らいだ。
「でだ、紅さん。そっちは進んでるかい?」
話は変わる。
カミシロに向かう為の準備を、士郎は任されている。
その質問に、腕を組んで小さく頷く。
「最終調整が済めば完了だ。実物を見せてやる」
「おお・・・」
鈴の家の近くにカバーを被せられた物体が、士郎の手により顕になる。
それは小型の船。それなりの荷物が詰めるコンテナもある。
「本来なら船だけで独自の推進力を付けたかったが、残念ながら時間と資材が足りん」
「え、じゃあどうすんの?」
「ブラストスライガーで牽引する」
「・・・マジかぁ」
空を飛ぶ超高機動バイク型の魔道具、ブラストスライガー。
それを空か海上から牽引する腹積もりだろう。
シュールな光景だが、現状それくらいがこの四人で行える最速の移動方法だ。
「そのコンテナに食糧や薬、水やキャンプ用品を詰め込む。
向こうの環境は俺達には一切味方してくれないからな」
「薬?」
「魔力ポーション入りの飲み物だよ。わたしたち二人はほら、火力は出せるけど持続性が無いから」
士郎と鈴は二人共に長期戦に不向きな能力。
現場の食べ物で回復が見込めないのであれば、持ち込みで回復をするしかない。
「じゃあ、しっかり最短ルートを絞り出した方が良さそう?」
「頼む。でなけりゃ、遠征先で毒を食らう羽目になる」
クリスティアは了解し、士郎は再び船にカバーを被せる。
出立までは、あと数日といったところだろう。
主演達が集う島国に、想定外の役者が揃うまでの時間が刻一刻と迫っていた。
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