Chapter5「始動する舞台」


討伐期に出ていた騎士の一人が、増援を要請しに戻ってから暫く経ってのこと。

ルフトが戦っていた戦場は完全に静まり返っていた。


理由は簡単。

夥しい数の怪物を、結局ルフト一人が倒し尽くしたから。

そんなルフトは地面に倒れ伏し、気を失っている。


「・・・」


そんな彼に近寄り、見下ろす人影が一人。

赤いツインテールの髪の幼い体躯の少女。

その手には、その体躯に見合わない大鎌が握られている。


ルフトを見る目は、驚くほど無関心で。

だが、それが誰なのか、を理解した瞬間に殺意の色に変化して。


「────悪いケド、死んで」


大鎌を振り上げて、いざルフトの首をはねようとした。




「─────やめろ、ルビィ」

「っ・・・!」


その寸前、一声にてルビィと言われた少女の動きが止まる。

首元寸前まで振り下ろされた大鎌と手は震えている。


「役目はルフト=ホシツキの回収だったはずだ」

「・・・なんで、アンタがを持ってるのよッ」

「父上が限定的に俺に譲っただけのこと。重ねて言うぞ、

「ッ・・・!」


灰色の髪、我欲のない瞳、そんな特徴の青年は命令を重ねる。

彼女に対しての命令には強制力があるようで、ルビィは抵抗しながらも結局は大鎌を収める。


「・・・"最果ての星"、彼はその手がかりだ。それを殺そうとする意味、理解してのことか?」

「じゃなきゃ、態々こんな真似しないわよ・・・アンタ達が何をしようとしてるのかも、ね」


拗ねたように言う少女にしかし、青年は特に言葉を返すことはない。

それに耐えきれぬからか、ルビィは言葉を重ねる。


「・・・本気なの?デイビッド」

「当然だろう。俺が捧げる生涯は、の為以外に有り得ない」

「・・・は、救って欲しいなんて言ってないわよ」

「救う必要が無いとも言っていない。

そもそも、始まりは流されるまま起きたこと。救いが必要かどうか、という議論は不毛だろう」


デイビッド、と呼ばれた青年はルビィの方を見向きもしない。

取り尽く島もない。ずっと波をたてぬ静謐さで、そこに感情はないように感じられる。


「・・・本当に、みたいになってきた。でも・・・最期まで、奥底から隠しもしない思いを捨てられないなら、アンタの理想は叶わないわよ」

「忠告か?」

「嘲笑ってんのよ。無駄だ、ってね」


そこにやはり、腹を立てる様子はなく。

静かにデイビッドは、ルフトを抱える。


「ならば問題ない。俺は、それさえ捨てる場面を考えているとも」


そう言いながら、デイビッドはルフトを抱えながら聖域の方へと歩き出した。

それを見ながらルビィは悪態をつきながら、それについて行くのだった。




『・・・何なんだ、アレ』


魔力干渉ウィザードハッカーにより、聖域の外で行われた戦いと、デイビッドたちねやり取りを全て見ていたクリスティアは、起きた出来事全てに違和感を感じていた。


先ずは整理しよう。


"加護"を受けていたルフトという少年。

正しくそれは強力なものだが・・・


『・・・あの炎、近いのを感じたことあるんだよなぁ』


クリスティアが身近に感じたことのある熱、それをルフトの炎から感じられた。


『それにあの出力の上がり方、あの言動。誰かさんを思い出すんだよねー』


生まれた時から身近にいた誰かさん。

言ってしまえばレイゴルトの事なのだが。

気合や根性で限界を超えて、前へ、前へ・・・なんて腐るほど見た光景だ。

もはや食傷気味と言ってもいい。

だからこそ、そこにも違和感を抱く。


『・・・なんか、んだよね』


無論向き不向きというか、あんな芸当をし続けることが出来るのは、それこそほんのひと握りでしか無いだろう。

だから、いずれは限界が来て諦めるのが普通なのだが・・・。


クリスティアが感じたのはそういう意味ではなく。


『・・・本質は、もっと違うものな気がする』


そもそも、レイゴルトのように気合や根性で捩じ伏せるなんていう在り方が、最初から間違っていると感じる少年だ。

だからこそ、最初の炎の異能にも違和感は増す。


、と。


そう思うには根拠があった。


『・・・あの男の子が最後に向いた方向には、し、何も


そう、気配すらも。

だがルフト側からの発言を鑑みるに、元々彼は優しい人なのだろうと予想できる。



『・・・そして極め付きは、最果ての星と二人の会話』


救うとか、あの子とか・・・とにかく聖域の内部に渦巻く事情が気になってしょうがない。

そして、未だ誰も観測できない最果ての星。

その鍵を握るのは、ルフトをおいてほかは無いと考えられる。


そう、さっきルフトが話していた何かも恐らくは───最果ての星かもしれないのだ。


『・・・よし、決めた』


クリスティアは決断した。

ならば彼らについて行き、聖域に入ってやろうと。

魔電子体のクリスティアは、デイビッド達のあとをつけて飛んで行った。












「始まったな」

「ええ、貴方の望み通りにね」


微笑するカリストと、その横に険しい顔で佇む女性・・・名をメイビス。

紫のロングヘアとメガネが特徴な美女であった。


「素晴らしい。なんという覚醒速度か。

ああおまえこそ最果ての星を降ろす、蝋翼イカロスに相応しい」


今すぐに祝福したいと、聖域の教皇は感動していた。


「胸を張るがいい、蝋翼イカロスよ。君は誰かを救えるとも。最果ての星を降ろし、私の息子デイビッドに創世神話を繋ぐ輝く男になれるだろう」


カリストの言葉に、メイビスは無言だった。

彼と目指す先は違うが、彼女もまたルフトに過酷な運命を背負わせようとする一人だから。

故に、何かを言う資格はないと悟っていた


「では、次の段階へと移るとしよう。異論はあるかな?」

「・・・私に確認を取る意味なんて無いでしょう、私は外様なんだから。それに、止めたとしても貴方は気にせずやるでしょう?なら、一々問いかけないで」


そう、彼女こそがギリシャからの逃亡者。

メイビスはため息をつきながら了承した。

婚約者を戦争で失ってから直ぐに、ギリシャから逃避行を完遂した女性だった。


狙いこそカリストとは大きく違うものの、ルフトに下す運命は変わらない。

故に、反対する理由もない。


物語は大きく動き出す。

役者は揃い、そして暗躍は本格化するのだった。

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