Chapter2「騎士ルフト」

「聖樹」の前に、騎士たちは集う。

彼らのほとんどは、聖樹からの加護を受けた者たち。

聖域に住む民たちを守る者たちである。


「蕃神たちは助けには来ず、"星殺し"という呪いに侵されたこの"カミシロ"は、文字通り呪いの島となった。


そこで聖樹────神の如き大樹は、はるか昔に我々人間を守ってくださった。

星殺しを封じ、我々人間が済むには充分な大地を、水を、そして空を用意してくださった。


だが、それによって救われた過去やその感謝を人々は徐々に忘れ、堕落していると言っていい。

星殺しにより未だ呪われた地で現る怪物たちは、我々の悪意から産まれるモノ。


もしまた、星殺しが甦れば今度こそ我々は救いなどなく、滅ぶだろう。

故に、君たち騎士が振るうのだ。

聖樹からの加護を受け、勇敢な決意を抱いた君たちが。


さあ今一度、聖樹に・・・祈りを────」


祈りを捧げる騎士たち。

聖樹の前で過去と教えを伝えた教皇「カリスト=ウィリアムズ」。

眼鏡をした灰色の髪のカリストは、品性を感じさせながら、祈りを捧げる。



『大義である』



そして、聖樹は輝きながら少女の声。

騎士たちは祈りを捧げたまま頭を上げない。



『ゆえ、これからも励むように』



言葉短く、白く輝く大樹は・・・その光を騎士たちに分け与えた後に輝きは消えた。

今日の聖樹の役割は終わり。


騎士たちとカリストは、頭を上げる。

これにて集会も終わり、騎士たちは持ち場に行くべく解散する。


聖域の騎士。

この聖域で住まう人々を守る者たち。

それぞれの村や町に駐屯し、務めている。

ただし、選ばれた実力を持つ近衛騎士は聖樹周辺で待機し、定期的にその他の騎士の援護などを行う。


騎士は普段、村や町の治安維持を務める。

人々が悪さをしないように、というのもあるが本命はそこではない。

悪意の怪物がこの聖域を守る壁や結界を破ることがある。無論、それを討伐するのも役目。

だが、それを事前に防ぐ為に聖域から出て周辺に湧いている怪物を討伐する「討伐期」という務めもある。



「ただいま戻りました!」



辺境の村に務める、ルフト=ホシツキという少年は、まさに今日の夜が「討伐期」となっている。


集会から戻ってきた彼を、村の人々は出迎える。

みんな笑顔で。そう、彼が村の人々に好かれているのが分かる。


「おお帰ったか!今日が出発だったな!」

「村長!はい、初めての討伐期です!」


村長と呼ばれた老人は何より喜んで出迎えてくる。

ルフトはこの村で唯一駐在している騎士だ。

だからこのように厚遇されているのか、と言われればそういう訳ではなく・・・。


「被害の受けやすいこの村を進んで駐在してくれる騎士がおらんなか、進んで来てくれたのがお前さんだった・・・。

そんな若い騎士が遂に・・・」

「村長、そんな大袈裟な・・・。怪物退治は村でやりましたし、明日には戻りますよ」


辺境の村というだけあり、ここは聖域の中で端の方。

地形の関係上どうしても守りが弱く、怪物に直接結界を破られやすいということで、聖域の中で最も被害を受けるところだった。


騎士も命は惜しいし、何より他の村や町より神経を張り巡らせる時間が長ければ長いほど精神的には辛いもの。

そのため、進んでこの村を駐在して守ろうとする者はいなかった。


「何より、来たとしても偉そうにしてるやつが多くてよぉ。なぁにが加護だ。死んだら元も子もねぇのに」


会話に混ざるルフトと同年代の男性が悪態をつく。

中々駐在に来ないが、決して今までいなかった訳ではない。

しかし駐在に来る騎士は大抵が左遷された者であり、故に腹いせか態度が悪い。


そして、騎士は聖樹から何かしらの加護を受けており、身体能力の向上のみならず何かしらの能力にも開花している。

そんな騎士に手出しできる者はそうそう居ないし、いたとしてもその手を出した住人がどうなるか、など考えたくもない。


そういったことからこの村・・・ハジの村は聖域の騎士とは確執があったのだが、それはルフトの就任で徐々に改善された。


「そう言わないでくれよランド。騎士だってそんな人ばかりじゃないよ」

「そんなこたぁわかってらい!

ただやっぱり、話してて楽しいのはルフトくらいだよ。今じゃ妹までベッタリだ」

「最初の頃はワシらも辛くあたったことを謝らねばなぁ」

「気にしなくて大丈夫。もう過ぎたことだし、今やむしろ俺がよくしてもらってる側ですよ」


それはルフトの人柄によるもの。

優しく努力家で真面目。しかし堅物ではなく、そして忍耐強い。

毎日村の人々を手伝ったり声をかけたりなど、日々信用を得ていたことに他ならない。


「なら良いが・・・なんにせよ、これから腹ごしらえせんか、ルフト。

是非奢らせてくれ」

「必ず帰ってこいよ。帰還祝いの宴も用意して待ってるからな!」

「では、ご好意に甘えます!」


故に、いまやこのように信頼は厚く。

帰ってくることを切に願われる騎士となったのだ。

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