Chapter1「カミシロ」


島国"カミシロ"。

古くから蕃神側の世界に存在した呪われた場所。

その島の大地の殆どは呪われていた。

水は腐り泥となり。

果実は毒と呪いに満ちて。

花は悪意ある毒々しさを持ち。

獣や虫は息絶えて。

代わりに意思と命なき悪意の化け物が溢れかえっていた。


だがそんな島の中心部のみ、人の営みがあった。

水は清く山から湧き上がり川となりて。

果実は瑞々しく実り、生物の栄養となり。

花は色とりどりで人を癒し。

獣や虫は健全に生きて死に。

そして人々は閉ざされた島の中で懸命に生きていた。

その人が営む、結界と壁に守られた場所。

それをこの島の人々は「聖域」と呼んだ。


そんな聖域を支えるのは、更に中心部にある大樹・・・名付けて「聖樹」。

その聖樹は神のような存在で、人々はそれを信仰する。

閉ざされた島でありながら清く、健やかに過ごすことを約束されている。


そんな「聖樹」から加護を受けて、聖域を守る者・・・その名を「騎士」。

更に強力な騎士は「近衛騎士」と呼ばれ、聖域を侵す怪物を退治する。


そして、カミシロの目的は一つ。

願いを叶える輝き、最果ての星を掴むこと────。






「─────と、いうのがカミシロらしいんだよね」


蒼空鈴の家にて、クリスティアはまとめた資料を見せながら説明した。

此処にいるのは四名。

紅士郎、蒼空鈴、クリスティア、ブラン。


最果ての星という、果てなき宇宙の最果てにある星の神。その矛盾した在り方と、そもそも誰もそれを見たことがないという珍しさからクリスティアは興味を持ち、その流れでカミシロについて調べたという訳である。


「・・・で、問題はあるのか?」


そこである。

言ってしまえばカミシロという国は体制上は蕃神側なのだが、話の通り閉ざされた国・・・つまり、実質的に不可侵領域になっている。


不可侵になった理由も簡単。

誰も入れないし、誰も出られないからだ。

その呪いとやらが恐ろしいのは火を見るより明らかであり、そんな島国を欲しがる国は居ないのである。


身も蓋もない言い方をすれば


「この情報なら、単に呪いを押し付けられた可哀想な国・・・くらいしか分からんが」


という評価になる。

現状では士郎は興味はないし、鈴は可哀想だと言うことしか出来ない。

ブランに至っては小柄な狼の形態で丸まって寝ている始末である。


「それがさ、あたしってギリシャから逃避行したじゃん?」

「そうだな」

「あたしの他に、もう一人前例がいるらしいんだ」

「それがなんだ」


それがなんの関係があるのかと暗に士郎が問うと、クリスティアは地図を指さす。

それは、カミシロの位置で。


「逃避行の到達地が、カミシロだったらしいんだよ」


絶対的な不可侵領域。

そう思っていた島国に、例外あり。

それもギリシャから。


「その逃避行した人は優秀な医者だったんだけど、同時に霊に関しての研究してたみたい。

どうも恋人が戦争で死んだから、死人を甦らせる為に選んだ場所がここなんじゃないかな、て」

「要は、確証はないが気になるしきな臭い・・・ということか」


唯一の例外、それがどういう結果を齎したのか。

もしカミシロの聖域に、逃避行が果たせたのなら、荒神陣営と蕃神陣営の関係に新たな1ページが刻めるだろう。

それか、何か企みがあるのかもしれない。

はたまた、何も無いかもしれない。


「それは行ってみないと分からないよね」

「ああ、あたし行ったよ?魔力干渉ウィザードハッカーで」

「「は?」」


では、残りは足で調べてみるしかないだろうと思った矢先、クリスティアは衝撃の報告をした。

あまりの行動力に、思わず士郎と鈴は素っ頓狂な顔をする。

ブランは起きて欠伸をした。


「地獄だよ。まるで異界だ。

太陽は遮られたし、風も湿っぽい。

伝承通り、サバイバルさえ出来やしない。

そして・・・聖域には入れなかった」


残念、と呟くクリスティアに二人は呆然としている。

クリスティアはというと、気にすることなく起きたばかりのブランを撫で回す。

そして撫ですぎて噛まれた。


「よっぽど強い結界なんだと思う。それでも怪物は入ろうとしてるみたい。

もし入ろうと思うなら・・・聖域周辺の怪物を狩る騎士に取り付くくらいしかないかな」


噛まれた手を揉みつつ椅子に座るクリスティア。

ようやく脳細胞が働いて理解した士郎と鈴はため息をついた。


「で、だ。そこで相談。何か実りがありそうなら現地に行ってみたいんだ」


視線は士郎に向く。

嫌な重労働を予感した士郎は冷や汗を一つ。


「でも手段がない、かつ陸に上がったあとサバイバルもままならない。

よって、それが可能な乗り物と道具を作って欲しい」


士郎は頭を抱えた。

人手不足な日本軍ですら、もう少しホワイトだった。

何たる無茶ぶり、スローライフはどこいった。


「大丈夫、急ぎじゃないから。あたしも暫く調べる方に集中したい」

「わたしからもお願いしたい」


そして、まさかの鈴が同調。

結構切実だった。


「閉ざされた島なんでしょ?可哀想だよ。

もし、どうにか出来るなら力になりたい」


と、いつもの救いたがり。

これには士郎もお手上げ。

クリスティアならともかく、鈴に言われては行動に移すしかなく。


「・・・わかった。だがその依頼をこなす間はブランを借りるぞ。力仕事にはいい人材だ」

「おっけー。じゃあ契約成立、てことで」


ため息混じりの条件提示、それも滞りなく了承。二人は握手を交わしたのだった。

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