大山(だいせん)さん詣り

 こんにちは&こんばんは。

田舎生活2年目、いまだに不慣れな小烏です。


 さて、とある土曜の朝のこと。

「大山さんに行こう」と、いきなり夫が言いました。


 「大山」?


 それは鳥取県にある中国地方最高峰の「大山」でしょうか?

そんな洗濯物を干しているときにいきなり言われても、こちらにも都合というものがあるんですが。 

登山に向いた洋服とか、登山に向いた靴とか、泊まりがけなら着替えの用意も必要だし、宿の予約もしなくては。

あ、日焼け止めは強力タイプね!


 が、夫のいう「大山さん」はあの中国地方最高峰の「大山」ではありませんでした。


 「大山さん」は山に祀られた牛馬の神様だそうです。

牛馬の神様がなぜ「大山」というお名前でなぜ集落の近くではなくわざわざ山の上なのかについては、夫は知らないようでした。

義母にも聞いてみましたが、

「昔から大山さんはそうだった。」とのこと。


 昭和の半ばまでどこの家にも農耕のための牛馬が居たそうです。

そのため「大山さん」祀りは集落あげての行事だったようです。

その「大山さん」までの参道の手入れが一年に一度行われます。

その下見に行こうという誘いでした。


 義母があそこにいくなら危ないから二人で行った方がいいと言いました。


 危ないから、二人でいったほうがいい?


 それはどんな険しい道なのか?

草刈り当日(翌、日曜日)には宮司さんも一緒に行って、草刈りのあと山で神事もするそうです。

アラフォーならぬアラフセブン、アラエイテェなメンバーなのに、大丈夫なのか?

そう思いつつ、我が家のツーシータ4WD、別名軽トラに乗りました。


 集落を過ぎ、山を越え、県道を逸れて谷沿いの畦のような道を進みます。

道幅は車一台分、舗装もなく半ば泥道。

何ヵ所かタイヤがハマって抉れた痕もあります。


 これはかの有名な「ポツンと一軒○」の捜索隊が行く道より厳しいのではないか?

何で昔の人はこんな山奥に集落の牛馬の神様を祀ったんだ?


 そうこうしているうちに、こんもりした山裾に到着。


 え?この山の登り口はかなりの急登きゅうとうなんですが、ここを皆さん草刈り機やらノコギリやら鎌を担いで上がるんですか?

梯子を立て掛けてもらわないと小烏、登れないんですけど!


 はい?

やっぱり自力でここを登るんですか? 

手を引いてももらえないんですね。

この手弱女の小烏になんてことを!


 登り口に縄梯子でも作ってよ!という傾斜のキツイところを何度もずり落ちつつ四つん這いになって登り、そのあとも尾根に向かって山登り。

(写真、右上を参照)

植林された杉の間を「吉田○の『にっぽん百低山』」を思わせる山道が続きます。

 

 途中竹に侵食されて道の真ん中ににょきにょき立派な竹が生えているところがありました。

こういう状況を見て手入れ当日持って行く道具を決めるそうです、

大風や雪で大きな枝が落ちているのを、道からどけつつ進みます。

頂上に着いてここが目的地かと思ったのに、ここから尾根づたいに二つ先の山へ行くとのこと!


 再びあの疑問が胸を過ります。


 ――何故?こんなところに?

もっと集落の近くの山でええやんか!


 杉に囲まれたアップダウンする尾根の細道をてくてくと再度『にっぽん百低山』。

(写真、左下参照)

もうどっちに向かって進んでるのかわかりません。

ここで夫とはぐれたら遭難する自信があります。


 しばらくして何となく三本の道(と言えるかもしれないモノ)の合流したような場所に出ました。

その先の頂上は整地され広場になっています。


 その広場のハシッコに四本の柱に屋根をかけた小屋があって、その下には石碑のようなものが立っていました。

古い注連縄を、かけられた石。

なんというか、ででーん!という擬音が似合ういきなり感満載な状況です。

(写真、左上参照)


 これが、「大山さん」。


 回りの木々が大きくなってまったく見通しは良くないのですが、木がまだ小さかった頃は……

さぞかし眺めが良かった、かもしれません。


 昔は集落の近くの山から尾根づたいにここへ来る道があったそうですが、今は草が繁って通れなくなっているとのこと。


 しかし!

それにしても!です


 そもそもここ、集落からもかなり遠いぞ!

はっきり言って、隣の市ではないか!

この山にした意味とは?

しかし小烏の疑問に答えてくれる人はいません。

知っている人はもう誰もいないのです。 

集落の皆さんもやってる妙な行事に、してやってると思っているようです。

毎年「もう止めたらいいんじゃないか」という声があがっているそうです。

それもそうです。

牛馬を飼っている家はもうないのですから。


 帰って夫が古い郷土史をひっくり返して調べました。

「大山さん」は、やはりあの中国地方最高峰の大山由来であるようです。

ついでに、集落のお宮に頼んでお祓いを行事であることもわかって、今回参加者に周知徹底したそうです。


「大山の地蔵菩薩信仰」。

地蔵菩薩と牛馬との関係は、未だに謎ですが。

(調べました)


追伸

・山の登り口で蕨をたくさん採ってきました。(写真、右下参照)

春ですね。

 

・この「大山さん」はうちの集落の「大山さん」で、他の集落にはそれぞれ別の「大山さん」がおられるそうです!

つまり、あちこちの山の上にはたくさんの「大山さん」が乱立しているの?


近況ノートに写真があります。

https://kakuyomu.jp/users/9875hh564/news/16817330656431114883



*******************

 

にっぽん百低山

NHKの番組

酒場詩人の吉田類氏が全国の標高1500m以下の魅力的な山々を登りその魅力を紹介する番組

「それは低いながらも人々に愛され、物語を秘めた山。」のナレーションで始まる


大山の地蔵菩薩信仰

大山の中腹にある大山寺には地蔵菩薩が祀られている

地蔵菩薩が生きとし生けるものすべてを救う仏さまであることから、平安時代に大山寺の基好上人が、牛馬安全を祈願する守り札を配ることを始めた

また山の中腹に広がる牧野で牛馬の放牧も奨励した

これが次第に「牛馬信仰」となっていく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る