上向きか、下向きか。そこは問題なのか?

 こんにちは&こんばんは。

田舎の嫁(たぶんまだ初心者)の小烏つむぎです。


 いきなりですが。

お宅、畑ありますか?

もしくは家庭菜園、されていますか?

どんなモノをどんな風に植えておられますか?

ご自分で計画されていますか?


 さてさて

それは春というにはまだ寒すぎる二月のこと。

農家・小烏家ではジャガイモを植えることになりました。


 まず農協から買って来た「タネイモ」をストンストンと半分に切ります。


「ああ、お母さん(小烏のこと)!そんなじゃいけん。

アタマを上に、両方に均等に『芽』があるようにせんと!」

「お義母さん。こんな感じですか?」

「ああ、でええ。」

「...。」

という会話をしつつ「タネイモ」を切ったら、灰(七輪を使った後の炭の灰・腐敗防止になるとのこと)を切り口にポンポンと付けて切り口を上に乾かしておきます。


 さて、植えつけです。


 ここで鍬を杖に立つ司令塔・義母が、ジャガイモを植える範囲を指定します。

今回は二本畝を作る!と計画が発表されました。(ここ数年保存したジャガイモを半分ほど余らせ腐らせているので、夫が強く減反を申し入れていたのが受け入れられた模様です)


 そこを耕すのは管理機。

押し車方式耕運機・管理機は以前は小烏の担当だったのですが、方向転換がうまくいかず隣の畝(なにか植えていた)を掘り起こしてしまってからは担当を外されています。今回も夫が押す管理機が地面を掘り返してふかふかにしていきます。


 小烏は鍬でそこに溝を掘り、牧場から買って来た牛糞を梳き込む係です。

義母の理想とする真っ直ぐな畝を作るために、植える予定の場所の両端に棒を立てて紐をぴんと張り直線を作っているのですが、何しろ素人。溝を掘るのに真っ直ぐな紐に沿って曲がりくねるという荒業を見せて義母を嘆かせます。

「埋めるから、まあいいわ。」という義母の力のない声に背中を押されて、作った溝に牛糞と何か白い粒と、灰色の顆粒を撒きます。


 そのあと土を寄せて畝を作るのですが、今度こそ本番、先ほどの紐に沿ってキチッと真っ直ぐに美しく畝を作らないといけません。


 ここで問題は畝の高さです。


 『芋は地面の下に出来るので深く植えて畝は高くしないといけない』派の義母。

『以前深く植えたとき収穫で掘るのが大変だったから植えるのは浅くていい』派の夫。

義母は農家の本能、『どうせならたくさん収穫したい!』と思い、夫は『食べ切れんのだから収穫量はソコソコでかまわん』と思っています。


 「とりあえず、肥料を鋤き込んで、土を寄せときすね。」口出しできない嫁、小烏はそっとその場を離れました。

小烏がせっせと鍬で土を寄せている間に結論が出たようです。


 「お父さん(夫のこと)!」

畝立てに夫が指名されました。夫、頑張れ!

夫は昔からよく手伝いをしていたので、なかなかうまいこと畝を作っていきます。

「お父さん!その手前、細くなっとる!」

「お父さん!もうちょっと高く作らんと!」

「お父さん!ソコ!揃っとらん!」

「お父さん!」

「お父さん!」

夫の腕も、義母の理想には程遠いようです。


 さて、ジャガイモを植え付けます。


 夫が畝にザックリ自分の感覚で適当に穴を開けていくのを義母が全力で留めます。

ジャガイモ用の「物差し」があるので、納屋から持ってくるよう指示が出ました。

「物差し?そんなものあったか??」と納屋を探ると、竹を二つ割りにしたものに墨で30cmくらいごとに3ヶ所印があり「ジャガイモ」と書かれています。なるほどこれかと畑に持って行きました。同様な竹は他にもあって、「ハクサイ」「キャベツ」「サツマイモ」というのもありました。


 「物差し」を畑に持って行くと義母が畝にそれを置いて印の場所に穴を開けるようにと言いました。

畝の上に「物差し」を置き、印のところにポコポコと穴を開けていきます。それはさっき夫が適当に開けた穴とだいたい重なっていて、夫もやるじゃないかと感心しました(言わんけど)。


 さあ!ついに植えつけです。


 ここでまたしても義母の長年の経験と、夫のネットでの最新情報がぶつかります。

「切り口は下に向けて植える」ものだと主張する義母。「無駄な芽を減らすために切り口は上にするのがいい」という夫。どちらも譲りません。


 両方やってみてどちらがよく育ったか検証してみましょうということで、畝の一列は切り口を下にして、もう一列は切り口を上にして植えることにしました。

そしてここでも義母の農家としての本能が発令されます。

「お母さん!お父さん!

そこ!あー!そこそこ!

曲がっとる!」

芋を置く位置が真っ直ぐではなかったようです。

「どうせ繁るから分からん。」という夫と、「そんなことはない!」と主張する義母。


 植え付けから一か月、タネイモを下向きに置いた畝にはジャガイモの新芽が出てきました。


 『切り口下向き推奨派』の義母は嬉しそうです。

遅れること一週間と少し、切り口を上向きに植えた畝にも新芽が出始めました。

芽の数は上向きの方がかなり少なめです。

下向きの方は結構たくさんの芽がすくすくと伸びて、見た目もイイ感じの畑です。


 ある日義母は「芽カキ」をしないといけないと言いました。

 

 「芽カキ」それはたくさん出た芽の数を減らす作業。太い選ばれし茎を数本残してあとは間引くのです。

夫は、「ジャガイモの本場、北海道ではそんなことはやらない(ホンマか?いつ聞いた?)。」と非協力的。

上向きに植えた方はまだ繁ってもいないので、下向きの列だけ「芽カキ」をやりました。


 次に意見の対立があったのは「土寄せ」でした。


 ジャガイモがしっかり付くように、茎の根元に肥料を混ぜた土を寄せる作業です。

義母は「収穫を期待し深めに、2回したい」と言い、夫は「堀上げが簡単なように浅めで、1回でいい」と言います。


 はっきり決まらないうちになし崩しに作業開始。

深いんだか、浅いんだかよくわからないまま、畝の間の谷間の土に肥料を混ぜ生えている草ごと鍬で掘り返し、ジャガイモの根元に寄せていきます。

踏ん張って中腰での作業の繰り返し。その晩、腕とお尻と背中に湿布を貼りました。

結局土寄せは一回だけでした。


 義母はその後「花芽を摘む」作業もしたかったようですが、夫の2度目の「ジャガイモの本場北海道のあのデカい畑でそんなことするわけがない。」の言葉に、ちょっと不貞腐れて「切り口下向き」チームだけひっそりと蕾を取っておりました。

それでも摘み残しがあったようで、可愛い紫色の花あちこちで咲きました。


 二畝のジャガイモはすくすく大きくなり青々と茂ります。ここまで来たら「上向き」も「下向き」も差がほとんど見られません。


 地方局の気象予報師のお姉さんが梅雨入りの予想を発表した日。

「明日ジャガイモを掘り上げる!」と義母から発表がありました。

うまい具合に長らくお天気続きです。

夫が「まだ下の葉も枯れてないのに早すぎはしないか?」と疑問を呈しましたが、「雨が降る前に掘るもんだ!」と一蹴。

夫が仕事で留守の間に義母と嫁で1日がかりで芋を堀り上げ、日光で乾かし。倉庫に運びました。

 

 さて、気になっていジャガイモの出来映えです。

 

 結果から言うと、それほど差はありませんでした。

強いて言えば「切り口下向き・義母方式」のほうが芋のサイズにバラつきがあり、大きい芋が多くまた小粒なものも多かったです。

「切り口上向き・夫方式」は全体に小ぶりでしたが、比較的サイズは揃っていたような気がします。


 義母は土寄せを一回しかしなかったことが引っ掛かっているようで、もう一回しておいたらもっと大きく育ったはずだと申しております。

いやいや、大きい芋があれ以上大きくなると使い勝手が悪くなります。

一方夫は、掘るのが早かった説を推しております。

あとから思えば、雨が降るまでに数日あったのでもう少し(夫が手伝える日まで)先延ばしに出来たかもしれません。


 そして小烏は収穫したその夜、また腰に湿布を貼ったのでした。








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