ウチに2羽、ニワトリがいた日

 こんにちは&こんばんわ。

田舎の嫁、他いろいろ不馴れな小烏です。


 それは先日のこと。まだ線状降水帯が豪雨を連れてくる前の、小雨の降る梅雨の昼下がりのことでした。漬物小屋に通じる軒下を通った時のこと。聞きなれているけれど、我が家の敷地内では聞くはずのない声が聞こえました。


 コケコッコー!


 小烏の家のある集落は東西に蛇行して流れる川沿いにあります。ゆ~るい丘が連なる(いくつかの丘の先っちょには昔の山城の跡がある)地域です。川の北側には、町屋が並び個人商店も郵便局も駅も小学校も役場の支所も農協も昔ながらの内科、昔ながらの美容院もあります。川の南側の平らな場所には田んぼが広がり、民家は丘のふもとか丘の中腹に建っています。(我が家はこっち側)


 我が家はお隣とは畑同士は斜面で地続きですが家はそれぞれ丘の途中を削って建っているので、小烏の家の裏の崖(2mほどの高さ)の上にお隣さんの家がある様な状況です。


 お隣りの園田さんは猫の「まる」のいる家です。ここは動物がお好きなご家族で、二年前までミックス犬がいました。園田さんのお宅には、他にもニワトリが7羽ほどいます。チャボと言う種類で小柄な可愛いサイズでサイズの割に大きな声で時を告げます。

オスが5羽いて、「コケコッコー」と鳴くと、順番にます。一巡では終わらなくて、二巡三巡することも少なくありません。いつでも、時間に関係なく、気が向くと何度でも鳴いています。


 園田さんのご主人によると、「ボスが鳴かないと、他のオスたちは鳴かない」んだそうです。ニワトリというのは朝だけ鳴くものだと思っていたのですが、そんなことはないと園田さんちのチャボたちに教わりました。実はこの辺りで朝一番に鳴くのは、カラスなのでした。


 そしてある小雨の降る昼下がり、聞きなれたあの声が我が家の通路に響いたのです。


 コケコッコー!


 ニワトリは縄張りのある生き物なのだそうです。園田さんちのチャボたちは、夜になると鳥小屋に戻りますが基本放し飼いになっています。どうも裏庭を縄張りにしているようで、玄関まわりや畑で見ることはありません。ましてや、我が家に迷い込むことなど一度もありません(義母の証言)。


 それが、今、目の前に!洗濯物を干す通路に、チャボが!しかもつがい。2羽でコンクリートの地面をつついています。


 そう言えば少し前、園田さんちのニワトリたちがやけに騒いでいたような。

家出?

新婚さんの独立?

迷子?


 一瞬このまま飼ってみようか(卵狙いで)とも思いましたが、良心の忠告に従っ縄張りに返すことにしました。しかし、どうやって?2メートル上に戻せはいいのでしょう。投げ上げる? いや、その前に捕まえなくてはいけません。


 しかしこれがなかなかすばしっこくて、捕まえることが出来ません。両手を突き出して中腰で走り回ること…たぶん10分。その羽にさえ触ることは出来ません。捕まえる前に、腰を痛めそうです(すでに痛い)。網のようなものもあるにはあるのですが、それを取りに行っているうちにどこかに逃げてしまうのが心配でいけません。


 ふと、ひらめきました。


 畑は地続きです。かなり遠回りになりますが、チャボを追い立てて行けばいいのではないでしょうか。2羽だけどいつも団体行動しているし、いけるんじゃないかな。


 通路に干してあるタオル(生乾き)を両手に持ち、振り回しながらチャボを追い立てました。こういう時の掛け声は何でしょう? ほお―、ほお? 口笛? 鳴き真似? やはりここは……。


 コーッココッ!

コーッココッ!


 気分は羊の群れを追うボーダーコリーです。両手でタオルを振り回しつつ通路から玄関脇を通り、畑に向かう登り坂へと追い立てます。途中一羽が逆走しかけるのをタオルで何とか制し、そんなことをしているうちに道をそれた一羽を追い回して元の道に戻す。こらこら、そんなところで止まるんじゃない。おい、それは義母のお気に入りの花だからつつかない。ああ、そっちは行っちゃダメ。真っ直ぐ進んでよ。あーそこ踏まないで!


  コーッココッ!

コーッココッ!


 たった二羽でこの調子です。羊飼いさん、牛飼いさんの、そして犬たちの苦労はいかばかりでしょう。チャボを追うのに一所懸命でうっかり孫が植えたコスモスを踏んでしまいました。あとで添え木をしておかないと。


 大騒ぎしているのを聞きつけたお隣の園田さんの旦那さんが畑に出て来られました。


 「どうした? 」

「お宅のチャボがうちに遊びに来ていました! 」

「ああ、そりゃすまんことをした。 」


 うちと園田さんの畑の間には境の目印を兼ねて茶の木一列植わっています。人のお腹くらいの高さで、幅は狭いところで70センチほど。飛び越えるにはちょっと無理があります。かと言って木の下を潜るには下枝が込み合っていて難しいのです。どうやって向こうに行ってもらおうかと思案していると、園田さんが「ほーい」とも「おーい」ともつかない声をあげました。


 それまでうちの畑の小松菜を美味しそうにつついていたチャボたちは首をあげると園田さんの方に一目散に駆け出し、羽を精一杯羽ばたかせて茶の木をギリギリ飛び越えて帰っていきました。


 ニワトリってその気になれば、飛べるんだ。


 園田さんは片手を上げて帰って行かれました。二羽のお供を連れて。私は両手にタオルを持ったままその姿を見送ったのでした。


 翌日チャボたちは何事もなかったのように崖上で土をつついていました。



近況ノートに写真があります

https://kakuyomu.jp/users/9875hh564/news/16817330660346274384



********************


ご参考までに

「まる」の出てくるお話しです。


拙作

「田んぼと空の間には山があるのだ!」より

「まる」と「小夏」と小烏と

https://kakuyomu.jp/works/16816927860138892715/episodes/16816927861192734010

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