声  2022.8.21

 「reading「文学-BUNGAKU-」vol.82」に出演した。演目は夢野久作著作の「死後の恋」文学作品が好きなわたしは、ずっと文学作品の朗読というものが気になっていた。

 本作は著作権が切れた作品をまとめている青空文庫に掲載されている。

 簡単に言えば戦争によってもたらされた悲劇なお話なのだけど、夢野久作の魅力が沢山詰まっている。


 リハを終えて迎えた本番だったが、とても楽しかった。稽古の時から楽しかったけれどやっぱり本番というものは身が引き締まる。失敗も沢山したけれど後悔とか凹むとかそういうのは全くない。共演した演者の皆様も素敵だったし、会場となった阿佐ヶ谷の喫茶店「よるのひるね」さんも最高だった。主催のふくぅさんとの稽古も勉強になることばかりだった。そしてリハの時にこれからの課題を提案して頂いた。わたしは声が低い。ハスキーな声をしている。その声を強みに、というお話だった。


 小学生の頃、友人の家に電話をした。まだ携帯を子供が持つ時ではなかったから友人の家の電話だ。電話に出たのは友人のお母さんで、友人の呼び出しをお願いした。するとお母さんは保留にせず受話器を押さえて娘を呼んだ。

 「○○くんよー!」

 声変わりのない男の子は下手すると声が高いくらいだから仕方ないとは思う。ただ男の子に間違われるくらい、その頃から声が低かったのだ。そしてショックをうける年齢だったのだ。

 それから声にまつわる話は他にもある。少し変わった形式の学校だったこともあり、高校では、先生の結婚式の司会を仰せつかった。普通に親族の参加する披露宴だった。その時参列していた気分の良くなったおじさまにこう言われた。

 「どうした、酒焼けか!」

 うん、よく見てほしい。制服を着ているじゃないか。そもそも自己紹介はちゃんとしてる。酒飲んでたら駄目じゃない?

 今なら笑えるものの当時はコンプレックスだったのも相まって相当ショックを受けたことを覚えている。


 ただ実はその頃すでに、声帯にポリープができていたらしい。数年前に切除した際の検査で、かなり昔からあるポリープだと診断された。それで余計に声枯れのようになっていたんだなと、納得した。

 

 可愛い声に憧れていた。高い歌を歌いたかった。そう思っていた時期も確かにある。高い声が出ないのは出し方が悪いからだと思っていた。でもポリープを取ってからキーの高い歌がスコンとでた。お医者さんに声の出し方が悪いからポリープがあるわけじゃない、と言われたことも立証できた。

 ポリープのせいで翌日には枯れていたような声でも、芝居も歌も頑張っていたのが報われたのだった。

 

 自分の声がずっとコンプレックスだったわけではない。今はあるかわからないが、幼少の頃のカセットテープを聞いたら、自分の声を録音して遊んでいた。誰かに指摘される前までは、自分の声に違和感も何もなかったんだと思う。ただ、何か言ってきたひとに、今となっては文句があるわけでもない。


 多分、声は本当に天からの授かりものなのだと思う。この声はわたしだけのもの。それぞれが持っている宝物だ。今は胸を張って自分の声が好きだと言える。まだ見えていない自分の声の色を、沢山探して伸ばしたいと思った。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脳内言語化計画 ちぃまゆちゃん @mayulolirockba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ