チャルメラの音  2022.2.2

 夜の散歩に出掛けていた。ひとしきり歩いた後家に帰ろうと、大きな公園の周りを歩いている時だった。どこからかチャルメラの音が聞こえてきた。立ち止まって次の音が鳴るを待った。すぐにまた音が鳴った。少し遠いところから聞こえてきた。すぐ先の十字路の右を見ると車が少し先に止まっている。

 また音が聞こえた。やっぱりあの車だと検討をつけ、そこまで行ってみることにした。


 まだ幼かった頃、家の周辺にはよく焼き芋屋さんが来ていた。

 いーしやーきいも、おいもっ。とおじさんの声がスピーカから聞こえてきた。買いに行く時もあったし、スピーカーの音が大きくなり、また遠くなっていくのを聞くのが好きだった。 

 東京で初めて住んだ街の駅前に焼き芋屋さんが来ていた。キッチンカーが多数走るようになった最近は、街のそこかしこにあったりするけれど、私が東京に出たその頃はまだまだ物珍しかった気がする。知らなかっただけかもしれないが。

 石焼き芋は熱々で美味しかった。焼き芋屋の音を聞いただけですぐに、味を想像出来たし、匂いまで感じるようだった。


 チャルメラはやっぱりラーメンだった。あの有名なチャルメラの音だ。最近にしては風も弱く、散歩にはうってつけだったが、まだ冬という気温で体は冷えていた。夕飯も食べていないし、何より次がいつあるかわからないこんな素敵な条件で、食べないという選択肢はなかった。

 ただ家まではまだ歩いて二十分以上かかる距離だった。どうしようかと考えていると、屋台のお兄さんが「スープと麺がわけて渡せますよ」といってくれた。「覚めてしまったら電子レンジで温めてもらえば大丈夫だ」ともいってくれた。

 でもすぐにでも食べたい。その場から少し離れて路上で食べようか、それとも十分くらいはかかるけれど、よくいくベンチまで歩こうか。そう考えていたら、「この角を曲がって少し進めば公園があるみたいですよ」とお兄さんがいう。スマホのグーグルマップで探してくれたようだった。

 

 お兄さんのお陰で心は決まった。

 注文をし、代金を支払ってお兄さんの見つけてくれた公園まで歩いた。程よい広さの公園には、サラリーマンらしき人がおかしをつまみながらベンチに座っていた。私は一つベンチをあけた横に座った。

 蓋を開けるとラーメンのいい匂いが周辺にふわりと香った。豚骨醤油のいい匂いが食欲を刺激した。スープから飲むと、コクがあって濃厚な味が寒い体に染み渡った。半分の味玉と、私好みの厚すぎないチャーシューが二枚。

 麺は私の好きな中太中華麺だった。もやしもシャキシャキしていてとても美味しかった。スープもあっという間に飲み干し完食した。


 ラーメン自体が美味しかったのももちろん良かったが、冬の夜の散歩中に出会えたなんだか昔懐かしい感覚を味わえたことで最高の気分になった。

 キッチンカーが増え、いつでも美味しいものが食べられるようになったけれど、夜にも稼働している、移動するキッチンカーはまだ少ないと思う。冬の冷えた体が心と共に暖まった出来事だった。

 


 

 

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