あの子は私の憧れの人  2022.1.25

 遠くからでも見つけられる。

 軽やかに、姿勢良く歩く人。

 私が憧れるのは、私と正反対のあの子。



 穏やかで落ち着きがある。

 とても美しい字を書く。

 花を愛しむ。

 自然体。

 身体の奥深くに信念を持つ人。

 カバンに可愛いハンカチを忍ばせて、陽の光が似合う人。

 光が当たって艶のある髪が輝く人。

 健やかに伸びる足でどこへでも行けそうな人。

 与えてもらっていることを理解し、そして与えることができる人。

 顔をくしゃくしゃにして笑う。

 大人の顔の影に子供のような顔がある人。



 憧れは無い物ねだりとは少し違う。

 あの子のようになりたいと思うけれど、あの子になりたいわけではないから。

 あの子のようになれたら、と思える人がいると気づくことがある。それは、自分はこの世に一人しかいないということだ。

 あの子はあの子しかいないし、私は私しかいない。

 それが男の子でも女の子でも。


 自分にないものを持っていることは、ものすごく光に見える。その代わりに自分のことは闇に見えたりする。でもそれは少し惜しい。光があれば闇がある。それはずっと変わらないことなのだ。

 とすれば、自分の闇は、あの子を光と思うように、誰かの光かもしれない。それが憧れだろうと、少し嘲った物言いだとしてもだ。

 

 いつだって自分にないものは眩しく見える。

 でもその自分にないものを持つ人たちも、人間なのだ。

 憧れというフィルターを通しただけで、その人自身を知った気になってはいけない。憧れは神様ではない。自分と同じ人間だからこそ憧れるのだと私は思う。

 きっと自分にないところだからこそ、より愛しくその人を感じるのだ。

 そうやって意図せず、人と人は補い合っていると思う。


 遠くが見れず、足元ばかり見ている時。そういう時間は日々其処此処にある。

 そんな時、自分の周りにいる人たちを見てみたら、自分の欲しいものが側にあった事に気づく。いつも目にしている自分の世界のその端に、自分が求めるものがきっとある。

 あの子は私の憧れの人。

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