第14話

 ゼノとウィステルの奇襲により、アレッツたちを取り囲んでいたフォッグは既に半数以下に減っていた。


「よう、お二人さん! 俺が助けにきたぜ! ウィステルもな!」

「言わなくてもわかってる……」

「はは……。助かりましたよゼノ」


 緊張感の欠片もないゼノに、思わず苦笑してしまう二人。

 だが助かったことは事実だ。


「こいつら全員ぶっ殺していい奴ってのが、かなり複雑だぜ……」

「ええ……。でもお願いできますか」

「任せろ!」


「待て。偽社長は俺がやる」

「任せろ!」


 ライハインとアレッツそれぞれに同じ返事をした後、槍斧を勢いよく振るゼノ。

 近くにいた2体のフォッグが、真っ二つになってすぐさま灰となった。


「ぐっ――」


 一気に形勢逆転したせいか、偽社長の顔に焦りが滲む。


「何としてでもこいつらを殺すんだ! 我らの未来のために!」


 怒声に似た喝を飛ばす偽社長。

 残りのフォッグたちが一斉に三人へ襲い掛かる。


「思ったより数が多いな!」


 槍斧を振るうゼノ。

 枠だけになった窓の外からウィステルの矢も飛んでくる。

 アレッツも襲い来るフォッグの鳩尾にナックルを叩き込む。


 その隙に階段へ跳躍する偽社長。

 そのまま上の階に消えてしまった。


「逃げやがった!?」

「追いかけます。ゼノ、この場をお願いできますか?」

「おうよ!」

「ありがとうございます。では彼のこともお願いできますか?」

「そのおっさんか? 問題ねえよ!」

「助かります。終わったら速やかに病院へ。では行きましょうアレッツ君」


 負傷した清掃業者をゼノに託し、アレッツとライハインは階段へと走る。


「そのまま易々と行かせるか!」


 従業員に化けたフォッグが当然のように立ちはだかるが、ライハインが鋭く剣を薙ぐと、あっという間にフォッグは灰へとした。


「デッキブラシでぶっ殺すなんてすげぇなライハイン! 武器変えたのか!?」

「はは……その説明はまた後程」


 リービットに剣にかけてもらった幻術は、まだ効果が切れていなかった。

 この場で剣がデッキブラシに見えていないのはライハインだけだ。

 とはいえ、今はそのような些事を説明している暇などない。

 二人は偽社長の後を追い、3階へと駆け上がった。


 階段を上った先には、3つの大きな扉が二人を待ち構えていた。

 どこの部屋に逃げ込んだのかはわからないが、そう問題ではないだろう。

 全て調べれば良いだけだ。


「そういえばあの清掃業者のおっさん、ゼノに任せて良かったのか」

「問題ないでしょう。殲滅速度に関しては私より優秀です。なにより、ゼノは体格が良いですからね。私が背負って走るより、彼の方が速く病院に連れていってくれるはずです。外にはウィステルもいますし」


 ライハインの説明に、アレッツは「そうか」と小さく答える。

 ゼノの能力に関してアレッツはまだ知らない部分が多いが、ライハインが信頼しているなら間違いないのだろう。


 ドサッ。


 突然の物音に、二人は一斉にそちらに視線をやる。


 扉の一つが開き、中から人が倒れ込んできた。

 だがそれは偽社長ではなく、先ほどゼノに託した中年の清掃業者と、全く同じ服装をした青年だった。


「もう一人の清掃業者!?」

「迂闊でした。確かに姿が見えませんでしたね……」


 ゼノとウィステルの事前調査では、清掃業者は常に二人組だったという報告だった。

 だからこそ、アレッツとライハインも二人一緒に潜入しようとしたのだ。

 続けざまフォッグと遭遇したことで、その存在をすっかり失念してしまっていた。

 青年に駆け寄ろうとする二人。

 だが青年が出てきた扉から、偽社長も姿を現した。


「お前――」


 偽社長は、先ほどとは違い余裕を持った表情で青年の隣に立つ。


「たすけ……て……」


 床に転がった状態で、掠れた声を出す青年。

 見たところ怪我は一つもないが、その顔は苦悶に歪んでいる。


「――っ!」


 彼を見て酷く動揺したのはライハインだった。


「いやぁ、私としたことが焦ってしまいました。冷静さを欠いてはいけませんね。既に私が持っている切り札の存在も忘れていましたから」


「切り札――だと?」


「そう。彼には【とある事】を施している最中でして。彼を助けて欲しければ――。今すぐ、あなた達は死んでください」


 偽社長は不敵な笑みを作る。

 その目を深淵より黒く染めながら。


「これは取引きですよ」

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