第12話
「しまった!」
「てめぇッ!」
目の前で行われた凶行にアレッツとライハインは堪らず声を上げた。
アレッツは再び偽社長に接近。
ライハインは清掃業者に駆け寄る。
清掃業者の背に突き刺さっていた鋭利な腕の先端は、再びしなりながら偽社長に戻っていった。
アレッツの銀のナックルが光の軌跡を残す。
それほどの素早い攻撃を、しかし偽社長は体の一部を黒い霧に変え、体を一瞬分離させた。
「人には到底不可能な避け方をしやがって」
「それを一撃でも食らったら、私の負けですからね」
このフォッグは神器のことを知っている――。
彼のひと言で察知したアレッツは再び偽社長から距離を取り、清掃員の傍らで片膝を付くライハインの横に立った。
「容態は」
「急所は外れてますが、すぐに処置をしないとこのままでは……」
ライハインが悔しげに呟く。
アレッツは小さく舌打ちした後、再度人の姿に戻った偽社長を睨みつける。
「その攻撃の仕方……。てめぇ、あの日のフォッグか」
リービットに怪我を負わせ、自分を殺して成りすまそうとしていたあの時の――。
拳を握りしめる力が無意識に強くなる。
こいつだけは絶対に殺すと決めていた。
兄を殺したフォッグはリービットが片付けたが、このフォッグを倒さなければグレッドの仇を本当に討ったとはいえない。
「おや。どこかで見たことがあると思ったら、あの時の双子の片割れでしたか。君をかばったネコ耳の銀髪男は元気ですか? 彼のおかげで、私たちを滅する武器の存在を知ることができました。君の武器は銀髪男とは違いますが、滲み出ている嫌なオーラが全く同じです」
ピクリとアレッツの眉が動く。
間違いなくリービットのことだ。
この偽社長が神器のことを知っているのは、あの時グレッドに化けていたフォッグを、リービットが倒すところを見ていたから――。
「アレッツ君……」
「ライハイン。こいつだけは俺にやらせてくれ。何も知らなかったあの時の俺の失態でもあり……復讐の対象だ」
「……わかりました」
「一人で私を倒す自信がおありなようで?」
「それ以上喋るな」
「おや、怒っている? 私としては君に感謝しているんだがね」
「感謝だと?」
「ええ。おかげでこの体の主と出会えました。結果としてはこっちの方が都合が良かった。あそこで君を殺していたら、私が姿を変えていたのは君になっていたでしょうから」
アレッツは堪らずギリ、と奥歯を噛む。
自分が助かったから、この社長は犠牲になってしまった――。
フォッグの言葉が、罪悪感となってアレッツに突き刺さる。
「アレッツ君。フォッグの言葉に耳を貸してはいけません。今生きているあなただからこそ、やらなければならないことがあるはずです」
「そう、だな……」
ライハインのおかげで、少し冷静さを取り戻せた。
再び拳を握り、構えを取るアレッツ。
「ライハイン。そいつを連れて一旦外に出ろ」
「……。わかりました」
ライハインが即答しなかったのは、やはりアレッツを一人置いて行くことへの不安があったから。
しかし、今まさに消えようとしている市民の命を放っておくこともできない。
血に塗れた清掃業者を肩に抱え、ライハインはゆっくりと起き上がる。
「この場はお願いします、アレッツ君」
「そういうわけにはいきませんねぇ」
偽社長は不敵な笑みを浮かべると、口元に指を持っていき――。
ピイィィッ!
甲高く鳴り響く指笛が、広い廊下を駆け抜けた。
「何の真似だ。まさか仲間でも呼んだってのか?」
「そうだよ」
事もなげに言う偽社長。
この返答にはさすがに二人も息を呑まざるをえなかった。
ガチャリ。ガチャリ。ガチャリ。
次々と背後の廊下から聞こえてくるのは、ドアを開ける音だった。
「なっ――まさか……」
「なんてことだ……」
予想外の事態に、さすがに二人も動揺を抑えられない。
「ここの従業員たちは、既に私の同族なのだよ」
偽社長は嘲笑うかのように、不気味に口の端を上げたのだった。
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