きのこ

らりち

第1話

時計を見ると朝の7時だ。

聞こえてくる蝉の音に合いの手を入れるように、台所から包丁の小気味よい音が聞こえてきた。

どうやら家内が朝飯を作ってくれているようだ。私は家の事はてんで駄目で、仕事しか取り柄のないつまらない人間だ。

日頃の感謝も込めて、今日は帰りに奨励館で花でも買って来よう。喜んでくれると良いんだが。

そんなことを考えながら、家内に「おはよう」と声をかけ、私は洗面所へ向かう。

井戸から出てくる冷たい水で顔を流すと、頭の中にかかっていたモヤが晴れていくような、とてもさっぱりした気分になる。私はこの感覚がとても好きだ。

顔から滴る水を拭いて洗面所から戻ると、ちょうど朝食の用意が出来たようだった。

家内と2人で食卓を囲む。

子供たちは一昨日から田舎へ帰っているので、とても静かである。

できるだけ家族で揃って食卓を囲むことを決めている我が家において、2人きりで食事をとる、という事はなかなかに貴重な機会だ。なんだか家内が嫁に来てすぐの時のようで、私は未だにどこか少し気恥しい感じがしてしまう。

ラジオを後ろで流しつつ、取り留めのない会話をしながら、食後の茶を飲んでいると、どうやらちょうど時計も8時を少し回ったようだった。

歯を磨き、いつものシャツに袖を通す。

毎日同じ服装だと気が滅入るだろう、などと思っていたのも懐かしく、すっかり慣れてしまった。

かつての日々に戻れる日が、一刻も早く来てくれると良いが。

玄関の戸を開けると、夏場のむわっとした湿った空気が蝉の音とともに一気に押し寄せてきて、思わず少し顔をしかめてしまう。

後ろを振り返り、朝食の食器の片付けをしている家内に向けて、いつも通り、私は

「それじゃあ、いってきま







[完]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

きのこ らりち @Rarikichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る