美術館とサワークラウト
静かな上野の真ん中で、私は友達と待ち合わせをしていた。待っても待ってもその友達は来ず、携帯を開いてみると、風邪を引いたと連絡が来ていた。仕方がない、まぁせっかく来たんだし今日は一人で回ろうか。私は駅前のベンチからやっと腰を上げるとゆっくり美術館へと向かった。
美術館は色んな絵画や彫刻に彩られているのに、駅前のような喧騒はなく独特の世界と雰囲気が広がっていた。あんまりこういうところに来ることはなかったからなんか新鮮に感じるな。そう思いつつ絵に視線を向けながら歩く。するといきなり体に衝撃が走った。
「うわぁ! す、すみません……」
「いえ大丈夫です。……て、彩?」
目の前には高校時代クラスメートだった駿がいた。偶然に及ぶ偶然、そして運命はその偶然をつなぎ合わせるように私達を導いていた。しばらく会うどころか連絡もしていなかった私達は思いのほか話が弾み、美術館内のレストランで食事をすることにした。
「そうか、じゃあ今日彩がここに一人でいるのは本当に偶然なんだな。それはびっくりした。でもここ色んな作品があって面白いよな。俺が好きなのは……」
サンドイッチとサワークラウトのセットを頬張りながら、さっき見た絵や彫刻について好き勝手に話し合う。そんな何気ない会話をしている時の彼はとても楽しそうで、魅力的だった。そして一時間が経過して私はサワークラウトの最後の一口を食べる。しっかりとした食感と酢の効いた爽やかな酸味は私の心に深く刻まれた。
「じゃ、また今度な。また話そうぜ」
彼は帰り際も優しい笑顔を浮かべる。私は今ままで訪れたこともなかったこの場所を運命の美術館だと確信していた。
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