三十七歳病
今となっては人が少なくなった団地に今日もまた日が昇る。これからの人生にファンファーレを鳴らすような祝福のように見える人もいるかもしれない。しかし、私はもろくなった自分の心を無残にも押しつぶされていた。なにも、できない。年を取ったとかそういった類では全くない。こんなにも体が動かないなんて、私の身体はどうにかしているのかもしれない。きっとそうだ。もう先の短くなった、昭和の遺産といえるこの団地とともに私の人生は終焉を迎えようとしているのだろう。全く、いい人生だった。自分の心を抹殺するほど残酷な太陽の光ですらにも感謝しよう。今感じる苦しみさえも、ここに私がいたという証明なのだから。私は、カーテンを手に取ると勢いよくそれを閉めた。
「彩香! ダメだろ! 朝なんだから早く起きて朝ご飯を作るんだよ!」
「嫌だ! それだけは嫌よ! 家事なんておぞましいもの、私にはできないわ! そういった類は選民的にあなただけがやるべきなんじゃないの!?」
「また、変な文体でそれっぽいこと考えてたな? お前は学生時代からそうだったな⁉ でもいつかは中二病も治るって思ってた………。お前今年、37才だろ? もういい加減にしてくれよ……」
「嫌だったら嫌だ! 私はアニメとゲームに囲まれて一生を終えるわ! それが嫌ならここで私の命を絶つがいいわ!」
「もういい分かったよ……。じゃ、仕事行ってくる」
深くため息をついて会社に向かう旦那。その姿が消えた瞬間に私は大きくガッツポーズをする。よっしゃあ! 耐えた! 神様、今日も私を楽園から追放しないでくださり、まことにありがとうございます! 私はウキウキな気分で二度寝をしにベッドに向かったのであった。
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