第5話 不自由な鳥かごに慣れた小鳥は空への羽ばたき方を忘れる
時計は進んで7:40。姉妹の談笑が一区切りついたところで俺は席に戻り、ふと気になったことを二人に訊ねた。
「あの、時間大丈夫なんですか? 学校とか仕事とか、それぞれあるんじゃ……」
寝間着姿でもなく、スッピンというわけでもない。二人の身だしなみは既に整えられていた。しかしそれまで、これから登校、出社という感じがこれっぽっちもしない。
学校、職場が目と鼻の先にあるとか? にしたってのんびり屋さんな気がする。陽葵さんに至っては制服姿じゃないし。
「はあああぁ……」
盛大に溜息をついたのは陽葵さんだった。白けた目つきで俺を捉えている。
「自分で言い出したんじゃない……一歩も外に出るんじゃねえって」
「俺がですかッ⁉ なんでまたそんなことを」
「――あんたが知らないのにあたしが知るわけないでしょッ!」
「で、ですよね……」
間髪入れずに切り返してきた陽葵さんに、俺は後頭部を掻きながらたははと笑う。
その様を見て、呆れ顔した陽葵さんが再度息を吐く。今度のは前よりも短めだ。
「まあ、おおよそ察しはついてるけど……あたし、もしくはお姉ちゃんが警察に助けを求めるのを警戒してたんでしょ」
「ああ、なるほど。陽葵さん、頭が回りますね」
「いや、少し考えればわかりそうなことだと思うんだけど…………ほんと、調子狂うなあ」
陽葵さんは頬杖つきそっぽ向いてしまう。窓の外を睨みつけている彼女の横顔はなんとも複雑そう……やり辛くてしょうがないと思われていそうだ。
俺は話しかけてくるなオーラ全開の陽葵さんから月姫さんへと視線を移し、感じた疑問を投げる。
「もし二人を軟禁する理由が陽葵さんの推測通りだったとすると、俺は警察に駆け込まれる事態を未然に防ぐよう徹底していたと思うんですよ。外に出さないようにするのも防止策の一つであって他にも色々縛りがあったはず……逆に他が疎かだったとしたら、二人には付け入る隙、通報するチャンスがあったわけで…………その辺はどうだったんでしょうか?」
「……直接聞かされたわけではないので断言はできませんが、恐らくそうかと。ただ、徹底していたというわけじゃないです。外出禁止とスマホを没収されたくらいで……」
「スマホを取り上げたのは外部との干渉を断たせるためでしょうが……けど、完全に遮断しているわけじゃないようですね」
リビングにある縦に長い収納ケース。その一番上に固定電話が設置されている。二人がその存在を知らないはずがない。
「二つ、確認したいんですが……まず一つ、あの固定電話の回線は繋がってるんでしょうか?」
コクリと頷く月姫さん。
「もう一つ、戌亥自身は外出していましたか?」
彼女は首を縦に振って返す。
「となると、機会はあったように思えますが……どうして通報しなかったんですか?」
「……実はその……弱みを握られてまして」
「弱み、ですか」
俺が抱いていた疑問が氷解する。姉妹を根本から縛りつけていたのは弱みだったのだと。
でもそれは現状、機能していない。なにせ俺には記憶がないのだから。弱みはないも同然、むしろそれが彼女達にとっての強みになる。
そのことを俺は包み隠さず月姫さんに伝えた。しかし彼女の浮かべた表情は安堵とは程遠い、微妙なものだった。
何故か? その答えを明示してくれたのは陽葵さんだ。
「あんたが覚えてなくても、データとして残っちゃってるから。それを消去してもらわない限り、あたしとお姉ちゃんは安心できないわけ」
「データって、なんのです?」
「……自分のスマホ確認すれば?」
「スマホ、ですか………………………………んなッ⁉」
陽葵さんに言われた通り俺はスマホを取り出し確認――――間もなくして彼女の言っていた意味を理解した。
月姫さんと陽葵さん、二人が生まれたままの姿でいる動画や画像が〝ギャラリー〟内に大量に保存されていたのだ。
「す、すすすすすすすぐ消しますッ! えと、えとえとえとえと、どどどどどどうするんだっけ?」
早く消さないと早く消さないと! 少しでも目に留めてしまうのは二人に失礼だと俺は指を急がせる――――が、
『―――――――』
焦るあまりにとんでもないミスを――スマホから艶めかしい声が再生されてしまう。
「ちょ――ちょっとあんたッ、なに流してんのッ!」
「すすすすすいません! すぐとめますから!」
『――――――――――――ッ!』
「なんで音量上げてんのよッ! わざとでしょッ? わざとやってるでしょそうなんでしょッ! ――とめて! 恥ずかしいから早くとめてよッ!」
「さっきからやってます! 一生懸命やってるんです! けど、手元がおぼつかなくて――――すいません! 陽葵さん代わりにとめてください!」
「なんであたしが――」
『――――――――――――ッ』
ヒートアップしていくいつかの姉妹の悩ましい声が現在の陽葵さんの言葉を遮った。
羞恥で赤面する陽葵さんは堪らず「貸しなさい!」と俺が差し出たスマホをぶん取り、そして――無事、動画は停止。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしている陽葵さんが俺のスマホを放り投げるように机上に置く。赤と青、選択を誤れば爆発……なんてフィクションならではの2択に成功したかのような、そんな達成感を彼女から感じ取れた。
が、あくまでこれは俺の所感。成し遂げたとはこれっぽっちも思ってないかもしれない。
ただ一つ、確かなことがある。陽葵さんが俺に対して抱いている今の感情が、喜怒哀楽の中の上から2番目だということは間違いない。
一方、月姫さんは恥が勝っているようで、耳まで真っ赤にした顔を俯かせている。
頭から湯気を立てている陽葵さんと、顔から火が出ている月姫さん。そんな二人に対し、俺が机に手を突いて謝ったことは言うまでもないだろう。
――――――――――――。
「どうしてあたしがこんなこと……」
陽葵さんがぶつぶつ不満を零しながら俺のスマホを弄っている。文句を垂れるのも当たり前、なにせ俺は彼女にデータの消去をお願いしたのだから。
ご本人に任せるのはどうかと思ったけども、それしかなかったのだ。先ほどやらかしたばかりの俺じゃダメ、月姫さんも様子からして明らかにダメ……それを陽葵さんも理解していたから頼まれてくれたのだ。渋々ではあったけど、こっちとしては頭が上がらない。
「…………はい。全部消しといたから」
「ほんとすいません……ありがとうございます」
俺は陽葵さんからスマホを受け取り、謝罪と感謝を口にした。
「別に」そう短く返してきた彼女は特段気にしていない素振りを見せるが、それを額面通りに受け取るのは身勝手極まりない。嫌な気持ちにならないはずがないんだ…………だからこそ、申し訳なさで一杯になる。
でもこれで二人を縛る
そのことを俺は彼女達に告げる。外出禁止は撤廃、スマホも返却する、だから君達は自由だと、そう。
キョトンとする二人は一度、互いに顔を見合わせてそれから俺に視線を戻す。
「……外に出ても、いいの?」
「もちろんです。日の光を浴びない生活は精神衛生上よろしくないですからね」
「……警察に駆け込まれるかもって、考えたりしないの?」
「覚悟の上です。俺はどうなったっていい……二人が自由ならそれで良いです」
試すような目を向け問いかけてきた陽葵さんに俺は即答した。
想像していた反応と違ったのか、彼女は「うッ」と言葉を詰まらせる。
本音を言えば捕まるのには納得できない。なんせこっちは肝心の記憶を保持していないのだから。
しかし、月姫さんと陽葵さんが被害者であるのもまた事実。物的証拠もあるわけだし。
故に、自ら出頭はしない。自供で満足するのは無責任な気がするから。が、彼女達が捕まることを望んでいるのなら、俺は抵抗せずにお縄にかかろう。
そういった意味を含んだ発言。彼女達の気持ちをなによりも優先するつもりだ。
「学校に行ったって良いです。職場に行ったって良いです。もちろん、ここを出て行ってもらっても構いません。その時は昨日も申し上げた通り金銭をお渡しします。俺としては出て行くことをお勧めしたいところですがね――――とにかく、あなた達はもう自由なんですから、俺なんか気にせず当たり前の日常を送ってください」
「「……………………」」
月姫さんは困惑するように眉をハの字にし、陽葵さんは疑わし気に眉を
まあ、いきなり告げられて『わかりました』ってのも無理あるよな。住めば都なんてことわざがあるぐらいだし…………その辺は時間をかけて自由に慣れていってもらうしかないか。
ともあれ、伝えるべきことは伝えた。後は……彼女達次第だ。
――――――――――――。
どうも、深谷花びら大回転です。
ああ、どうしても書きたい。面白いだろう設定を思い付いたので文章にしたい。
けど、それをしたら他の作品の更新がおくれてまうし……でも、書きたい。
カクヨム様(笑)に喧嘩売るような――下品なお話が書きたくて仕方がない。
幸いなことに金がなくて時間はある。物書きとして打ってつけの状況……明日、書こうか……もしくはなけなしの金でパチンコに行こうか。
答えは明日、決まるだろうけど。今のところのオッズは
文字を生みだす 55・6倍
パチンコ 1・1倍
といったところですね(どクズ)
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